ギフト

アッカ
@zuboranaAKKA

Birthday

高永夏 32歳


日本棋院主宰の記念対局に招待棋士として招かれた。案内人に先導されレセプション会場に入ると、サプライズがオレを待ち受けていた。人が作る林の中からすり抜けて、花束を抱える小さな身体がオレに近付いて来た。進藤の息子だそうだ、オレに花束をくれるらしい。


立ち止まっていると、目の前まで来てビルを見上げるようにオレを眺めた幼い子ども。ああ進藤に似ている!なんて可愛い子なんだ。 あの時あの瞬間、心を圧し殺さなければこの子に出逢えなかった、オレの選択は間違えていなかったんだ。


もう遠い昔だ、だが思い返せば今でもこの身を焦がす記憶は鮮やかだ。



進藤はオレを憎む程に、オレは跳ね返す鏡の如く互いを屈服させたいと思っていた。あまりにも意識し合ったせいなのかそうではなかったのかは今でも答えが出ない。相手の話す言葉すら分からないのに、あの時は殺意を覚える程に進藤が憎くて睨み続けていた。何が弾みを付けたのか腕を伸ばし噛み付くように貪り合い服を脱ぎ捨て身体を繋いだ。異常に心と身体が昂っていた。だがオレはあの昂りを怖れた。


それ以来オレは、何かを言いたげに思い詰めた顔でオレに近付こうとする進藤を無視し、あるいは冷たく見下すように拒絶した。そんな態度のオレに傷付き泣きそうに顔を歪める進藤に胸がじくりと傷み、同時にほの暗い悦びに浸っていた。こいつにこんな顔をさせられるのはオレだけなんだと自惚れていた。


それから数年が経ち、進藤が結婚したと秀英から聞かされても意地でも囲碁に影響させなかった。勝って、勝って、勝ちまくって月日が流れて、あの記憶と身体、心に芽生えてしまった想いを忘れてさせてくれる日の来訪を祈る気持ちで待ち続けた‥‥。



「おたんじょうび、おめでとうございます!」

「ありがとう」


小さなプレゼンターに目線を合わせる為に腰を落とし花束を受けとった、花束は全て白い薔薇だった。この子は確か五歳だったよな、大人に見詰められても物怖じしない快活な瞳、パアッと笑ったあどけない顔にオレの中でこの子への愛しさが生まれた。

「君は囲碁棋士になるのかな」

丁寧な日本語を心掛けて話し掛けた。

「なる!おとうさんみたいなさいきょうのきしになるんだ!」

最強か、ふふっ。

「最強はこのオレだよ」

己の胸を親指で指し示し鳶色に輝く瞳をじっと見詰めた。

「ちがうもん!おとうさんだもん!!」

「ハハハッ!」

抱き上げて、膨れっ面になった子の柔らかな金色の前髪が掛かる額に、オレの額を軽くぶつけて呟く。

「明日‥最高の対局をお前に見せてやる」

視線を横に流すと泰然と笑う、明日の対局相手の進藤がいた。ふん、こいつ厚みのある男になりやがった。


オレを憎しみの目で見詰めていた進藤も、泣きそうな顔で傷付いていた進藤ももう何処にもいない。無理矢理笑顔を作ろうとして上手に笑えず、哀しい表情でオレを見ていたあいつは、安定した大人の男として、不倶戴天のライバルとしてオレの前に立つ。だが今でもオレは傷だらけの狼だった少年の頃のお前を想う。


ガラスの向こうのプルシアンブルーの空に、白い上弦の月が昇る。あの日もこんな月が出ていたな。


激しく打つ心臓の音と、切れ切れの呼吸音が耳の奥から何時までも消えない。





●○いつ頃なのかは分からないけれど永夏誕生日おめでとう!ビニール袋さん開催ありがとうございます!



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