中原さんの黒帽子。

ちくわの国の深井さん
@hukai_1110

黒帽子が二つ

長らく見つめ合っていた二人だったが、先に我に返った中原が食って掛かる。



「手前何で俺の帽子被ってんだよ!返せ!」

「道に置いていったのは貴方でしょうが……まあ別に欲しくないし返しますよ」



届くならね、と薺は黒帽子を持った手を高く上げる。中原は彼女を異能で潰しそうになるも、いかんいかんと何とか堪えた。



「本っ当に太宰に似てるよな……腹立つ」

「私の言動によって苛々してくださる方がいるとは光栄です。貴方の胃に穴が開く日を楽しみに生きていきます」



適当に頭の中で考えたことをそのまま口に出すと、中原は「死なす……太宰と一緒に潰す……」とうわ言のように繰り返し呟いた。






腕が疲れてきた薺は、「はいどうぞ」と黒帽子を放り投げる。突然の終戦に一瞬驚く中原だったが、持ち前の反射神経で其れを何とか掴んだ。



「流石反応しますね……小さいのに」

「関係無ェだろ」

「そうですか?ほら、小さいと__」



タイミング悪く、薺の携帯が鳴る。聞いて「うわあ……」と引く者の気持ちが分かるような着信音が流れると、中原は耳を塞いだ。



「はいもしもし、中拂で」

「薺!」



鼓膜を突き破りそうな大声の応答に、薺は咄嗟に携帯を耳から離した。



「何ですか?……国木田さん」

「何ですかでは無い!出社時間からもう2分9秒も経っているぞ!」

「あれ、本当だ」



腕時計を確認すると、確かに何時もの時間から少しだけ短針が右に傾いていた。



怒りの声を受けながら、薺は電話を切った。



「次は仕事か何かで。それでは、素敵帽子さん」



少々照れながら、中原は「次は潰してやる!」と叫んだ。