中原さんの黒帽子。

ちくわの国の深井さん
@hukai_1110

黒帽子が一つ

「は……え?」



先程から其れしか云っていなかった。






しかしそう簡単には認めない薺。もう一度まじまじと見回す。

が、幾ら眺めようが触ろうが同じこと。薺の記憶に刻み込まれたあの帽子に違いなかった。



そのうち背中が痒くなる。掻きたいが手に持った黒帽子が邪魔なので、頭に被って背に手を伸ばす。



指を動かしながら、薺はこの帽子をどうするか考えた。









丁度同じ頃、黒帽子の持ち主はヨコハマの街中を走っていた。






実に不機嫌そうな表情を浮かべながら、ひたすら向かい風に立ち向かう。

しかし、トレードマークである筈の帽子は頭に乗っていなかった。その為余計に小さく見える。



「何で無ェんだよ!」



何処で落としたんだ、と喚きながら、ちびっこマフィアは道を駆けた。









薺が背中に伸ばしていた手を戻した頃、中原が焦りを感じ始めた頃、



「あ」

「あ」



同じ「あ」でも込められた感情はまるで対照的だった。



二人は口をぽかんと開けたまま唖然としていた。