七星シリーズ外伝

結城隆臣
@Takaomi_Yuki

スピカ

スピカに下ったその任務は、エミル界に密かに集う武装集団に潜入し、彼らを崩壊へ導く情報を得る事だった。

時を同じくして、その武装集団のリーダーが有能な諜報スキルを持つ者を欲していることを彼女は知る。

スピカの腕があれば、その集団に侵入することは非常に簡単であった。

彼女は幼いころから叩き上げられた諜報部のプロフェッショナルだったからだ。

リーダーの右腕の位置へ配属されるのも、時間の問題で、すぐにその地位を彼女は得た。


会ってみると、リーダーは意外も若く、スピカと変わらない年齢のタイタニアの青年であった。

マエストロを思わせるような筋肉質な肉体、羽の存在をも気にせず背負った大剣が迫力を増す。

だだの屈強な大男かと思いきや、繊細な顔付きで、優しげな笑顔は身体に似合わず爽やかだ。

想像していたリーダーと違った外見に、スピカは興味を持った。


そして、スピカは彼が求む情報を得続けた、代わりに、側近として望むままに手に入る武装集団の情報を組織へと送り続けた。




リーダーの活動は、主に義賊としてであったが、目標は大本はエミル界の改革だった。

幼くして冒険に立つ子ども達、不足している学校、いつまでもいがみ合っているアクロニア軍。

それらを、少しでも改善しようとしていたらしいが、やり方が良くなかった。

力でねじ伏せ、破壊し、そこから新しく生み出そうとする彼らのやり方は、時に一般人を脅かし、時に要らぬ衝突を生む状況を作り出していた。


だが、リーダーの情熱はスピカの心を揺り動かした。

スピカは13歳で諜報の仕事を始め、16~17歳の頃からは女であるという武器をも使い、仕事をこなしていた。

出来ることならこんな仕事したくはなかった。

出来ることならば。

こんな仕事をしなくても良い世界を、彼らは作ろうとしていた。

それは、とても魅力的に思えた。




人としても、リーダーは誰にでも優しく、気をかける人であった。

側近として、側にあったスピカには特に優しく接してくれているような気もしていた。

スピカはそれが何故か嬉しかった。




危険な二重スパイの生活。

だが、それも次第に難しくなって来始めていた。


スピカは彼の考えを知れば知るほどに、リーダーに興味を持ち、自分の組織の考えが間違っているのではないかと感じ始めてきていた。

小さな疑惑の芽は次第に大きくなり、やがて芽を出し花開く。

その疑惑から、スピカはわずかなミスを犯した。

それをリーダーは見逃さなかった。


そしてついに、その日が訪れた。


ある日、スピカはリーダーに突然呼ばれた。

場所は応接室。

訝しみながらその場へ向かうと、リーダーが、書類を手に部屋の奥に立って居た。


書類を開き、数枚の写真をスピカに見せる。


「コレは俺が単独で調べたものだが……お前、まさか」


写真には、組織の建物へ入るスピカの姿が写っていた。


「……あは、知られちゃった……ね」


スピカは、足の太ももに装着してある短剣にいつでも手を伸ばせるように待機した。

ばれた以上、この任務は失敗だ。

今すぐリーダーを殺して逃げるしか道はない。


「お前みたいな有能なヤツがすぐ手に入るなど……おかしいと思ってはいた。まさかなとは思いたくはなかった。それに、こんなにも簡単にお前の正体が分かるとも思ってもいなかった」


残念そうな表情でリーダーがスピカを見やった。


「お前、今の仕事悩んでいるな? だから隙が出来るんだ」

「……」


一歩、一歩と、リーダーがスピカへ近づいてくる。

スカートの上から武器を静かにスピカは撫でた。


リーダーは、途中の机に書類を置くと、短剣を掴もうとするスピカの腕をさっと掴んだ。


「……!?」

「今更、お前の正体が何だとかは問わない、罰しもしない。むしろ、こちら側に来い、その方がお前もきっと楽なはずだ、そうなんだろう?」


ぐいっと、そのまま引き寄せられる。


「俺も、お前がいないと駄目なんだ。仕事の上でも、個人としても……」


男らしい太い両腕が、スピカを強く包み込む。


「お前を愛している。だから……俺の仲間になれ。頼む」

「!!」


空いているもう一方の腕を動かせば、リーダーが護身用に付けているナイフを手に取り彼を殺めることは出来た。

スピカは、そうっとそのナイフに手をかけたが、静かにそれを戻した。


気配を察したのか、リーダーがゆっくりと腕をほどく。


「沈黙は、了承と認めるが、良いな?」


スピカは静かに頷いた。








スピカの異変に気付いたのは、リーダーだけではなかった。

部下で弟子であるプルート、そして、組織の上層にもわずかであったが知られていた。


もうすでに組織には、武装勢力を壊すための充分な情報は揃っていた。

後は、トップを潰すだけで終了と相成る任務ではあったが、スピカがリーダー側に寝返っていたとしたら、2人ともまとめて始末する以外にはない。


そして、その情報は、スピカとリーダーの耳にもそれぞれ届いていた。






ある日、武装集団の大きな活動があった。

勿論スピカもそれに参加した。

だが、その活動はスピカも知らない間にスピカの組織に知られていた。

この集団にはすでにスピカ意外にも組織の誰かが潜り込んでいたのである。

作戦は失敗。

スピカは運良く難を逃れるが、リーダーを含め数人が大怪我を負った。


スピカはこの団体は間もなく崩壊する事を察した。






リーダーが負傷した情報は組織にしっかりと届いていた。

この機会にさっさとリーダーを始末するという結論に至った組織がプルートにリーダー暗殺の任務を下す。

もちろん、スピカが寝返っているようであれば、彼女の始末も……含まれた。




スピカの元にプルートからの連絡が来たのはプルートが任務を受けた後すぐだった。

リーダー暗殺の旨と、組織を裏切っていないかどうかが綴られた小さな封書。

スピカは組織と決別しプルートと差し違えてもリーダーを守ろうと密かに思った。


その封書を自室の秘密の場所にしまうと、プルートへ返事を送った。






その日の晩スピカは1人アップタウンを訪れた。

プルートや組織には、まだ組織側の人間であると思わせた方が良いかもしれない。

そう、スピカは考えた。


スピカは1人のタイタニアの青年に目を付けた。

見た目からして派手な雰囲気。


以前みたいに、少し遊んで、軽い振りをした方が良いかもしれない。


ジッと見ていると、気付いたのか、相手から声をかけてきた。


好都合とばかりにスピカは乗ってみた。

コレで、疑いの目が逸れればいいことを祈って。








プルートが武装集団に潜入する日がやってきた。

早々にリーダーを寝床に誘い休養を取っていたスピカは、リーダーが眠りについたのを確認すると、そっとベットから抜け出た。


ベットの下に隠しておいた短剣を手に取る。

これからプルートがここにやってくる。

自分がプルートからリーダーを守るのだと。


「何をやっている」


不意に、声をかけられ、スピカは振り返った。


「あ……っ」


そこには、怪訝そうな表情のリーダーがいた。


「こ、これはっ……」

「今日、何だな? 刺客が来るのは」


リーダーの言葉にスピカは驚いた。

どうして知っているのか…。


「ち、ちがっ」


リーダーが強い視線をスピカへ向ける。


「悪いが、お前の部屋の隠し物は全て見させて貰っている」

「……!?」

「このままではお前も……殺されてしまうのだろう?」

「そんなコトは……!! アタシがあなたを守るから!」


短剣をきつく握りしめ、スピカはリーダーを見つめ返した。


「俺は怪我でこの為体だ。お前の足かせになる。お前はまだ組織に戻れるのだろう? 俺はここで死んでも構わない、お前だけでも生き残るなら」

「そんな……だめ!!」


スピカは大きく首を振った。

瞬間、ぐいっとリーダーの腕がスピカの身体をベットへ引っ張った。


「この、俺が築いたこの組織はもう終わりだ」

「……終わりじゃない!」

「いや、終わるのさ、今日、今、ここで」


短剣を握る腕を捕まれた気がして、スピカは全力で抵抗した。


「な、何を……やめっ」


その時だった、手に肉を切る感触が伝わった。

何度も何度も味わって尚、慣れないその感触が、短剣から手へそして腕へ、そして頭へと伝わっていく。


スピカは自分の目を疑った。

リーダーが自分の腕を掴み、その短剣を自身の胸へ突き刺したのだ。


「イヤ……どうして……?」

「お前には、死んで欲しく……ない、俺の、最期の……わがままだ。出来れば……こんな、関係で……お前とは、出会いたく……なかっt」










プルートがやって来たのはその1時間後だった。

スピカはプルートが来るまで、ベットの横にただ立ちつくしていた。


プルートは驚いた表情をしてスピカを見つめた。


「アタシがやったの」

「……そう、ですか。……分かりました。それより、急いで戻りましょう」


プルートに促されるようにして、スピカは脱出した。





「さよなら、私が愛した人、そして2度と愛せない人……」


不思議と彼女の瞳には涙が浮かぶことはなかった。

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