【お試し】 ヘファイトスを殴りたい

かいわれ
@tatannotatann

「It's a showtime! ・・・ってことか?」

 怪盗KID再び現る。そんな見出しの新聞を見つけた。

 カフェオレを飲む手を止めその記事を読むと、そのすぐ隣には白い仮面で素顔を隠したキッドの写真。それは自分が主人公として描かれた漫画、その第一話の冒頭に描かれていたものと全く一緒だった。これが今日の朝刊ということは、今日が原作の始まりなのだろう。

 果たして自分に務まるのか・・・。既に心臓がドクドク言い始めているので無理な気がしてならない。

 漏れそうになるため息を甘いカフェオレごと胃に流し込む。原作で初舞台とか、緊張せずにはいられない。

「原作、かぁ・・・」

 コップから口を外し、思わず溢れるのは未だに使うたび不思議な感じがする言葉。ある意味この世界の真実とも言えるこの言葉を俺が使うようになったのは今から八年前、俺がまだ小学校低学年だった頃だ。それ以前はまだこの言葉を知らず、何より言葉にできるほど明確な形として俺の中にはなかった。一瞬顔を出し次の瞬間には霧散する、デジャビュとしてしか俺は知覚していなかった。

 もう一度カフェオレを飲もうとコップを傾けると、映り込む自分の顔。一瞬それが幼き日のものとダブって見えた。そういえば、子供の頃感じていたデジャビュもこんな感じだったなぁ。


 俺は物心つく頃からそれはもう沢山デジャビュを感じていた。原因はもちろん前世の記憶。

 初めて見るはずのものにふと懐かしさを覚えたり、初めて知るはずのことなのに「ああそういえばそうだったなぁ」と思ったり。父さんの周りで頻繁に起こるそれが俺には不思議でたまらず、幼心に原因を確かめようとよく父さんについて回った。そしたら今度は、父さん自身に対してデジャビュ・・・白い何かがダブって見えることが多くなってビビったもんだ。


 一度だけ、父さんにそのことを話したことがある。父さんが白い何かと重なって見えるんだーって。

 そしたら父さんは珍しくポーカーフェイスを崩して驚いていた。それからちょっと目を細めて「お前は不思議な子だな、快斗」と言いながら俺の頭を優しく撫でてきた。その時の俺は父さんに撫でられたことが嬉しくて、父さんの反応の意味するところなんて、全く考えなかった。


 デジャビュが形を変えたのは、せっかくの満月が厚い雲で覆われた暗い夜のことだった。

 ―――――――――――――――――――――父さんが、死んだ。

 マジックショーで、脱出マジックに失敗して、爆死した。そんな知らせが俺と母さんのもとに届いた。

 泣きじゃくり崩れ落ちる母さんを横目に、俺はただ呆然とその場に立っていた。「どうして」と母さんが何度もつぶやく言葉に、俺はなぜかひどく動揺して金縛りにあったように動けないでいたのだ。

 どうしてって・・・それは、父さんが脱出マジックを失敗したからで・・・

 誰ともなしに並べた言葉はまるで言い訳する時のように尻すぼみに消えていき、

 本当に?

 そして代わりに浮かんできた言葉に俺はビクリと体を揺らした。その時脳裏を横切ったのは、白い影が重なって見える父さんの姿。

「――――白い、影」

 その言葉は、意識するより先に口からこぼれた。掠れきって消えてしまいそうなほど小さな声。しかし、他でもない自分自身にはよく聞こえた。一拍おいてその言葉の理解した刹那、俺の胸の奥底から湧き上がって来たのは未だかつてないほど強烈なデジャビュだった。

(スリー)

 脱出マジックで死んだマジシャン・・・・・・そんな話を、俺は聞いたことがある、あった・・・?

 脱出マジック、失敗、爆死、マジシャン、黒羽盗一

 頭の中を駆け巡る言葉に刺激されるように、デジャビュは形を変えていく。

(ツー)

 ずっと前に、ずっと、前から・・・俺は、この話(・・・)を知っていた・・・・・・・?

 そして現れるのは前世の記憶。

(ワン)

 そう、だ

 父さんは、脱出マジックに失敗して死んだんじゃない・・・

 そう見せかけて殺された・・・

 父さんが、父さんは・・・


 怪盗KID  だったから


(ゼロ)


 パチン、とコップを持ってない方の指を鳴らす。するとあら不思議、コップの中のカフェオレがオレンジジュースになった。

 あの時、俺はすべてを思い出した。前世のこと、この世界のこと、父さんのこと、自分のこと、俺に託された父さんの思いまで全て。それからブッ倒れて、前世の記憶と人格が今世のと併合して、原作通り怪盗キッドになって父さんの敵を討つと決めて。俺が原作という言葉を使うようになったのはそれから。


「快斗!のんびりマジックなんかやってる暇ないわよ!時間見なさい、時間!!」

「やっべ」

 母さんの言葉で思考の渦に沈んでいた意識が現実に引き戻される。俺は慌ててオレンジジュースを飲み干し、席を立った。

 すぐ思考の渦に沈むのは前世からの俺の悪い癖だ。これから原作が始まるってのに、ぐたぐた考えても仕方ないよな。


 俺が怪盗キッドこと、黒羽快斗に成り代わって17年。

 今日この日からのために、俺は記憶を取り戻した日からずっと修行してきた。原作快斗とは違って結構ビビリな俺だけど、努力はしてきたんだ。だから大丈夫だよな、父さん


「行ってきます!」

力強く踏み出した足は確かに地面を踏みしめた。


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主人公

前世はコナンファンの高校生(♂)

父、盗一の死がきっかけで前世の記憶を思い出す。原作同様父の敵討ちのため怪盗キッドになることを決意。それから八年間怪盗修行をしてきた。原作知識と八年間の努力のおかげで原作より危なげなく仕事をこなしていくが、根がヘタレでビビリな草食系なので心臓が大変。ポーカーフェイス超大変。不敵な笑みを浮かべながら内心ガクブルってる。

著作者の他の作品

人の子に転生した山姥切国広が、己の婚姻届けの純潔を本気で心配する話。