標的のいない世界で

瑠璃(タコの姿)
@LapisBlue05

序章

 ――――え、これ、どういう事?


 目の前に広がる景色を見て、色々な意味で心臓が止まるかと思った。


 いや、だって、さっきまで私は駅前でスウィーツ巡りをしていたんだよ!?

 休日だったし、私服で美味しいスウィーツを食べながら至福の一時を過ごしていたんだよ!?

 それなのに、お店から出て、気が付いたら景色が変わっているってどういう事なの!?


 ……一旦落ち着こう。

 全然落ち着いていられる状況じゃないけど、ここで取り乱していては駄目。

 平常心を取り戻すのよ、茅野カエデ!


 えー、はい。

 とりあえず、現状を整理してみよう。

 目の前には大きな川が流れています。

 そして、時刻は夕暮れ時です。

 持ち物は何も無くなっていません。お金もちゃんと入っています。……なんか見た事無いやつだけど。

 私は今、その川沿いの道路に立って辺りを見回しています。

 あろうことか、川の辺には白髪の少年が倒れています。


 いや……とっても見覚えがあるなぁ。

 気のせいかなぁ。

 あ、少年が立ち上がっ……て、目が合った。

 ……え、目が合った!?



「あ、あの! 君____」


「あ、えと、私!? そ、そういえば、さっきまで倒れていたみたいですが、大丈夫……ですか?」



 今の出来事で理解した。ここはやっぱり――『文豪ストレイドッグス』の世界だと。


 向こうは私の事なんて知らないんだから初対面のふりをしないとね。

 出来るでしょ? 茅野カエデ。あの怪物に悟らせないことよりも簡単じゃない。

 私は今から一般人。少年の名前も、ここの世界も、この後起きる事も、何も知らない一般人として生きるの。

 ……絶対に、私の事を悟らせてはいけない。いいね?



「その事なんだけど、実は____」


「ああっ!? な、何あれ!? 人の足……が流れてる!?」



 少年――中島敦の言葉を遮って、川に流れている足を指差す。

 恐らく、あれは太宰治のものだろう。

 そういえば、太宰治……太宰さんも頭がきれる人だっけ。注意しなきゃ。

 要注意人物はもちろんあの人だけど。



「え!? ど、どうしよう……!?」



 中島さんは浮いたり沈んだりしている足を見てしばらく震えていたけど、足に鳥が群がり始めたのを見て川に飛び込んだ。



「うわぁ!? き、気を付けてください!!」



 心配しながら声を漏らす。

 あれ……そういえば、中島さんって原作だと餓死寸前なんだよね?

 それなのに川を流れている人を救出するって……相当な気力とか体力とかが必要だよね。


 ……まぁ、私も人の事は言えないけど。


1 / 5