静かに帰り道を探す人

かいわれ
@tatannotatann

【対面・後】

 自分たちの次は誰だろうかと振り返ると、三条が移動して来るのが見えた。雰囲気が明らかに違う集団の登場に、花鶴が拳を握る。

 その様子に生きた心地がしなかった自分の時を思い出し、気づけばこちらも布を掴んでいた。あの集団は人間には怖い。口内に溜まった唾を飲み込む。

 だけど

「……大丈夫、一人じゃない」

 ポツリと呟いた言葉は誰に言ったものなのか。花鶴がびっくりしたようにこちらを見た。

「大丈夫だ」

 もう一度、今度は確かに花鶴に向けて言う。

 石切丸がいるため、恐らく三条は全員花鶴が偽物という情報を持っている。それでも雰囲気に棘がないということは、花鶴を拒絶する気はないのだと思う。だから多少のミスは受け流してくれるはずだ。

 花鶴が小さく頷いて拳を緩めるのを見て、堀川と山伏とともに場所を譲る。なんとなく鶴丸の視線を感じながら。


「僕、兼さんの所にいっていい?」

 席に戻る前にそう言いだしたのは堀川だった。そろそろだろうと思っていた自分は二つ返事で了承する。

 歓迎会が始まって1時間が経過し、移動する者は出始めていた。

「うむ、ここで解散だな。拙僧は長曾根殿のところに行こうと思っておる。良い酒があると聞いたのでな。兄弟はどうする?」

「もう少しだけいる」

 いつもは自室に帰るといっていたが今日は花鶴の様子を見ていたい。そんな思いからの答えだったけれど、二人は珍しい返答に嬉しそうに頷いた。

「あい分かった!いっぱい楽しむのだぞ」

「何かあったら、こっちに来ていいからね!」

 ……本当にこの二人は優しい。

 二人が背を向けたことを確認してから、溜まらず布を目深に引っ張った。


 元の席の周りはぽっかりと穴が開いていた。堀川派だけでなくほとんどの刀剣男士が移動を始めたようだ。これならばゆっくりできる。全員男という空間で料理の取り合いは苛烈なのだ。粟田口のいる場所なんて、太刀以上は一期一振以外そうそう近づかない。


 七味がきいたきんぴらごぼうをゆっくりと咀嚼する。燭台切が作ったらしいこのきんぴらごぼうは、少しだけ母のものと似ていた。

 おにぎりを口に入れながら花鶴の方を伺うと、三条との挨拶は無事終わっていた。今は三名槍が挨拶をしている。花鶴に酒を勧める日本号を石切丸が叱っているようだ。

 しかし、あれ?鶴丸の姿がない。トイレだろうか?親鳥のように花鶴の傍にいると聞いていたが、流石に四六時中という訳ではないか。

 ――そこまで考えた所で。

「わっ!」

 背後からの奇襲に、体はビクンと大げさに強張った。

 なんで、どうして、この声は。

 驚きすぎて振り向けないでいるこちらに気づいたのか、犯人がひょっこりとこちらを覗き込んでくる。布を引っ張ったのは反射的だった。

「鶴丸、国永……」

 信じられない気持ちで、恐る恐る名を呼ぶ。布で覆った視界の隙間から、チェシャ猫のように目を細める男の姿が見えた。

 何故、ここに。

著作者の他の作品

怪盗キッドこと黒羽快斗成り代わり小説のお試し編。出だしだけ。

人の子に転生した山姥切国広が、己の婚姻届けの純潔を本気で心配する話。