御伽草子

🐙海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

恐怖

豪華な内装の建物の一室に異様な情景をしている部屋がある。

 室内には一組の男女と、もう一人少年がいる。


「んっ……あっあっ」

「……はっ」


大企業の社長が使ってるような高価な机に女性を座らせ、男は立ったまま組み合いお互いに吐息をもらす。そんな状況を部屋の入り口付近にいる少年は無表情を崩さすにいる。其の光景に自らも欲を欲するのでもなく、妬みの感情を抱くわけでもなく、只管に此れが終わるの待っているのだ。


「……ちょっとぉ」


すると少年の方に顔が向いている女性が少年と目が合う。そして女性が声を上げたことによって男性もやっと少年が部屋にいることに気が付いた。


「き、清原くん!?何時から其処に!?」

「首領が其の女性を脱がせている辺りからです」


全く気付かなかったという二人に清原と呼ばれた少年は溜息を吐く。


「あまりに熱心に組み合っているようだったので収まるまで待っていようかと」

「待たなくていい……ごほんっ。其れで要件は?」


乱れた服を戻し乍、首領と云われた男は清原に要件を訊く。彼の要件は頼まれていた仕事が全て終わったので報告と次の指示を仰ごうとしたという。


「なら、また暫くポートマフィアの元にいてくれ。其方の方が君にも良いだろう……」

「首領も発散していでしょうしね」

「余計なお世話だ。其れと此処に気配を消して入ってくるのは止め給え」


はい。と簡単に答え、部屋からすぐに出て行こうとすると、先ほどまで首領の男と組み合っていた女性が全裸のまま、彼の腕を掴んで静止した。


「ねえ、良かったらおねえさんと善いことしない?」


むき出しになった豊満な胸を彼に近づけ誘惑する。彼も年頃の男だ。普通なら乗ってくると女性も思ったのだろう。


「遠慮します」


彼は変わらず無機質に拒否し、女性の手を払いのけ部屋から出て行った。


「なぁんだ。詰まんないの。顔も良いし、身体も細くて好みだったのに」

「一度女性に逆に犯されてから女性……特に年上を強烈に拒絶していてなぁ。あの容姿の良さならハニートラップも出来るんだが、如何せん勿体ない」


其れを訊き、女性は含みのある笑みで「ふーん」と答えた。




「其れで厄介払いされて来たわけだね?」

「僕は普通にしていただけです」


ポートマフィアの新しい首領である森鴎外の所に彼はいた。

 清原は森がマフィアの首領になる前から、彼の所属する暗殺組織とマフィアとのパイプ役に抜擢された彼の面倒を見ている。


「君が女性に興味なさすぎるだけなのではないかい」

「幼女趣味に云われても仕方ないです」


森が苦笑する横で椅子に座り、加え行儀悪く体育座りをして受け取った紅茶を飲む彼の年齢は十九歳だ。先ほどの女性が思っていたように、そして森が云うように普通なら異性に関心がないわけがない時期なのだ。


「まあ確かに森さんは幼女が大好きな特殊性癖だよね~」


更に森の隣で丸椅子に座って細い脚をバタつかせている少年が茶化すように会話に参加する。

 彼の少年は清原とあまり話したことはないが知らない中ではない。此の森という人間経由で知り合った、云い方を変えれば同族である。


「あ~ぁ!暇だなぁ……死にたいなぁ」

「こらこら、暇からの死にたいはやめなさい」


森の静止も聞かず、包帯を頭や首、腕に巻いている少年、太宰は駄々を捏ね続ける。


「やだやだ!退屈過ぎる!暇だ!死にたい今すぐ!清原さん僕を殺して!痛いのは厭だけど」

「なら無理。絶対何処かで一瞬痛い。無痛は僕の腕ではまだ無理」

「なら無痛で殺せるようになったら依頼するよ」

「やめなさい」


太宰と清原、二人に向けられた言葉に清原は黙るが、太宰は脚をバタつかせ続ける。


「はあ……暇だから、未来のチビである中也でもカラかってくるか……清原さんも行こう。どうせ暇でしょう」


太宰は椅子からぴょんと飛ぶように降りた後、清原の腕を引き廊下に出て行く。十五歳のまだまだ幼い彼に清原は黙って付いて行く。

 すると廊下の途中で突然止まったかと思えば、連れてきた彼も一緒に十字になった廊下の影に隠れる。太宰によるとそろそろ目当ての中原が森の元に仕事の報告に来る時間だという。

 森は首領ではあるものの、彼が元々いた医務室にいることが多い。つい先ほど居た場所も医務室であり、其処で新たに傷を作った太宰の手当を行っていたのだ。


「そう云えば、君は如何して死にたいの?」

「ん?だって此の世界は退屈其の物だもの。其れに生きていたって自分に利益なんてなければ、良い事なんて一つもない。清原さんもそう思うでしょ?」

「まあ……其れもそうか」


太宰の答えに清原も何故か共感出来た。今まで生きてきて、善いと思えたこと、幸せなんて思ったこともなければ、自分の無限に続く虚無感を理解してくれた人もおらず。自分はいつもどこか孤独だった。生活も今は安定しているけれど、何時まで良い状況が続くかは判らない。不安定な世界で、世界を退屈だと彼のように思っているのではないかと思えてしまった。


「生きていたって僕の求めるものはきっと手に入らない。なら生きていても仕方ない。清原さんの願う理解者もね」


少年の言葉に耳を疑うように清原は目を見開いた。彼は恐怖を覚えてるほどに天才的だとは聞いていたが碌に誰にも話したこともないことを云い当てるのかと彼は動揺する。その様子を見抜いていたように太宰は溜息を吐く。


「……ほらね。簡単に思考が判る。だから退屈なのだよね」


すると太宰は医務室から盗んできたであろう液体の石鹸を廊下に伸ばす。そして清原に息を潜めるように云った後、近づいてくる足音に耳を澄ませる。そして目当ての人物が石鹸で滑りやすくなった一帯に足を延ばすと。

 つるっ……べだっ「痛ってぇ!!」とまるでギャグ漫画のような交換音と苦痛による呻き声が聴こえた。


「ふっざけんな!またか!」

「ふははは!単細胞だからこんな陳腐な悪戯に引っかかるのだよ!」


曲がり角の壁から顔を覗かせて転んだ中原を笑い飛ばす太宰とその上から顔を覗かせ様子を伺う清原に、中原は喧嘩腰に怒鳴る。


「手前マジふざけんな!此れから首領に逢うんだぞ!其れに其処の男!太宰と一緒にいると陰険陰湿が移るぞ!」


一しきり喚いた後、着替えに行った中原を太宰は嘲笑し続けていた。

 そして笑うのにも飽きてきたのか太宰はふいに笑みを止めた。


「はーっ。愉快だったぁ。見た?あの中也の間抜けな顔」

「まあ愉快だったけど」


太宰が笑っている間にも特に反応を見せなかった清原に不服だったのが彼は露骨に頬を膨らませた。


「清原さんにとっては何が面白いんだろうね。僕には其処が理解出来てないみたい」


膨らませた頬も一瞬に萎み、清原と同じように無表情になる。彼はとても表情の移り変わりが激しい。


「ねえ。此れから先、僕が君を理解したら僕の部下になってよ」

「僕が?」

「そう。森さんの所やあの組織で働くよりよっぽどいいよ。森さんは兎も角、あの組織は君の使い方が下手だからね」


他意もなく云う言葉に清原は大した反応も出来ない。


「僕なら清原さんを無駄なく有効に使える。僕も好きなようにするから君の好きなようにしたらいい」

「でも、君さっき……」

「勿論、無痛で人が殺せるようになったら僕を殺す依頼は受けてもらうけどね」




結局、太宰の思考も考えも判らないままその日を終え、清原は寝泊りしているマフィアの寝床に戻って来た。最低限の生活用品と布団だけが置かれた四畳半の部屋。其処には何時もはいない筈の人がいた。


「あら、おかえり」


出しっぱなしの万年床に下着姿で座っている女性。此の女性は今朝の人だと清原は思った。

 そして不思議に思う間もなく、女性の腕が彼の腕に絡みつき、今朝に見せつけてきた胸を押し付ける。


「何故?」

「寝泊りはここでしてるって聞いて」


甘ったるい息が清原の耳に触れる。けれどやはり彼は大きな反応を見せない。其れを不服に思った女性は腕から手を離したあと、清原の手を自分の胸に当てさせた。力の抜けた彼の手はぴくりとも動かない。


「ねぇなんで何も反応しないの?好きにしてもいいのよ?」


下着の上からでも判る人肌のぬくもりと豊満が故の柔らかな感触は確かに清原に伝わっている筈なのだ。其れでも彼は、


「興味ありません」


彼が口にした言葉は拒絶だった。其れは無機質でありながら明確に彼の本心だった。

 痺れを切らしたのか女性は彼のスラックスのベルトを掴む。強行に流石に清原もたじろいだ。


「いいわ!貴方が動かないなら私がしてあげる!」


すると隠していた手錠を取り出す。そして片腕に付けられた冷たい感触に清原は目を見開く。そしてもう片手と繋がれそうになったところで、視界が真っ赤に染まる。


「……ぇ?」


無意識に発動してしまった異能が女性を刺した。胸を刺され倒れ、もがく女性を見下すように眺めていると女性は時期に動かなくなった。すると彼女に突き刺さっていた刃は役目を終えたように消滅した。


「……っ」


自分の身体が震えていることに気が付いた。過去に組織の女性から逆レイプされたことが逆行フラッシュバックして女性を殺してしまったのだ。

 震えの止まらない身体を自ら抱きしめてその場にへ垂れこんだ。

 荒れた息と整え、震えが止まったころには女性から温もりは一切感じなくなっていた。


「生きていても良い事なんて一つもない……か」


今なら彼の気持ちが共感どころか理解できた。


著作者の他の作品

FGO夢うちよそ

うちよそ短編。清原と三九来さん。