御伽草子

🐙海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

降誕祭2

降誕祭という浮かれ立つ季節に、薄暮の組織である武装探偵社も影響されていた。

 明るい鈴の鳴る街を事務所の窓から眺めているのは今夜に開かれる宴会の飾り付けを任された太宰である。彼の身なりも何時もの砂色の外套ではなく、冬らしい白いニット。其処に社員全員に配られたサンタクロースっぽい赤い衣装。彼は仮装めいたものは遠慮し赤いケープを選んだ。


「太宰さん届かないので付けてください」


後ろから声を掛けられ振り向く。人工のモミの木を飾り付けしている式部は木の上部に手が届かす、背伸びをし、手をいっぱいに上げるが其れでも届かず太宰に声をかけたのだ。


「はぁい。残り全て付ければ善いのかな」

「ええ。私はテーブルの飾り付けしておきますね」


そう云って、ツリー用の飾りが入った段ボールを指差した後、式部はテーブルの方に移動する。彼女の身なりも太宰同様に白ニットだが、こちらは前に釦が付いているもので襟付き、インナーは赤く、濃紺のスカート、タイツと来て、ワインレッドの靴と合わせ降誕祭一色の服装である。彼女のサンタクロースモチーフの飾りは赤と金色のリボンであり、大きく結んだ其れは存在を強く主張している。


「何処も彼処も晃々と光ってて賑やかだねぇ」

「……そう云う風に云うと嫌味に聞こえますよ。貴方の場合」


ツリーの頂きに一番大きな星を飾ったあと、独り言のように呟く。そして彼女の振り向かない侭の相槌に「非道ぉい」と返す。


「私たち……まだちゃんと降誕祭過ごしたことないよね」

「去年もなんだかんだで二人だけだったじゃないですか…?」


去年の降誕祭では式部が速くから実家に帰省しており、降誕祭の当日に太宰だけで式部の家に忍び込み、翌日早朝まで過ごしたのだが、短い時間を部屋に籠った侭だったのでちゃんと過ごしたことには入らないと、太宰は認識している。


「飾り付け進んでるかい?」

「あ、はい!もう終わります」

「六時には始めるから二人も準備しな」


既に仮装を終えている与謝野が事務室に顔を出す、彼女は結構乗り気でコスチュームを着こなしている。此れよりももっと凄い人たちが上には居るわけだが。


「そっちが終わったら料理を運んで貰いたいね」

「判りました」


すると与謝野の後ろから既に料理の移動を始めている谷崎がひょっこりと顔を覗かせる。


「もう置いちゃって善いですか?」

「うん。どうぞどうぞ」


最後に赤い蝋燭を置いて飾り付けを終えると式部と与謝野は一緒に給湯室に向かい、入れ違いに谷崎がテーブルにまずケェキを置いた。その様子を太宰がじっと見てるので谷崎が気になって声を掛ける。


「…若しかして、何か話してしました?」

「否?特には」


そう云うと彼も手伝いに給湯室に向かった。




降誕祭では探偵社でも浮かれ、食べて呑んでの大騒ぎである。今年は一方的なプレゼント配布だけでなく交換会も開かれ、長く盛り上がり続けた。

 そして深夜になる前に一度未成年たちを寮に返したあと、成人たちによる二次会及び飲み会が始まる。

 深夜二時頃にはいつの間にか社長が帰っていたり、乱歩を待っていた徳田が寝落ちたことにより乱歩も切り上げ、そろそろ片づけを誰がするか、明日にするかの話し合いが酔っ払いたちの中で始まる。国木田も酔い切っていたので片づけは朝にすることに。幸い、未成年たちが帰る時に大抵のものは片づけており、あとは残った酒と大きなツリーだけになっていた。


「さあて、妾はもう帰るけど、国木田くんとアンタらは如何するんだい」


与謝野は酔っているもののも元が強いのかちゃんと喋れているし足取りも良いが、国木田は酔いつぶれており、ほぼほぼ寝ている。


「じゃあ国木田くんは医務室に寝かせて置きましょう。私たちはもう少し此処でゆっくりしてますから」

「え」


太宰の提案に式部が声を上げる。「訊いてない」と云いたげに彼を見上げると、抱き寄せるように肩に手を置いて「ね?」と念を押された。式部は諦めたように頷くと与謝野は笑って、国木田を一緒に運び入れたあと帰って行った。


「……急に如何したんです」


与謝野が帰り、国木田も寝て、静かになった探偵社事務所。そして太宰が部屋の明かりを消して夜の帳に二人ともが溶け込む。

 式部の問いに太宰は答えぬまま、彼はテーブルに残っていた赤い蝋燭と造花の飾りを取って、ツリーの元に行く。燭台に蝋燭を置き、周りに花を置いて飾り、忘れられていたライターを使って灯りを灯す。暗かった世界にぼんやりと淡い灯りが見える。


「おいで」


甘く優しい声で呼ばれて歩み寄る。床に毛布を敷いた上に太宰は胡坐をかき其処に式部を招いたのだ。


「何ですか此れ」


文句を云いながらも式部は彼に導かれる通りに横に腰を落とした。


「私なりの降誕祭を楽しもうと思ってね」


そう云って毛布についていたいた手を、式部の手の方にやってじわじわと迫り、最終的に手を繋ぐ。


「こう云うのなら寮でも良かったんじゃ」


更に文句を云おうとする式部の口を開いた右手の人差し指で押さえる。


「しー…」


少し驚いたように瞬きを何度もする式部に彼は微笑かける。


「蝋燭の光だけ、と云うのも悪くないだろう?」


真意が判らないまま押しこめられ、問われたので式部は大人しく「はい」と答える。そして長らく、窓越しに見える淡い月を二人で眺めた。

 時折揺れる小さな灯りに目を奪われていると、太宰が金色に輝く星の飾りを取り出した。其れはツリーに付けるもので五芒星ではなく六芒星の形をしている。

 蝋燭の光を受け淡く輝く星を、暗い、頭上に掲げ式部にも見えるようにする。


「綺麗だろう」

「ええ、綺麗ですね」


すると太宰は其れを式部に渡す。触ってみると其れはプラスチックではなくアクリルのような素材で出来ていることが判る。


「私からの追加の贈り物」


囁くような小さな、吐息交じりの声に式部は擽ったそうに身をよじる。悪い気はしていなかったが、ぷいっと顔を背けた。すると太宰が笑ったあと、ずっと繋いでいた手を離したと思えば彼女の頬にそっと触れ、唇にキスをする。

 ずっと同じ角度で、舌を絡み合わせているわけでも、唾液を交換しているわけでもなく、唇の柔らかな感覚に酔っているように唇を合わせつづけ、時折息を吸うように隙間を空けるが其れだけだ。

 長い間、そうしていた。だが太宰が式部の体力の限界を察知して唇を離した。そして彼女を見ると欲や快感以前の問題になっていることに気が付く。


「眠たいなら寝ても良いよ」


キスをしたあと、睡魔で瞼が開ききらずとろんをした眼差しの式部の頭を撫でる。撫で続けると彼女は血から尽きたように太宰の肩に頭を乗せた。首を痛めるとも思ったのか身体の殆どを委ねてくる。


「かなり呑んだからね。……まあ、キスだけの降誕祭もいいさ。でもこれで――」


眠りに落ちていく彼女に甘い声で囁く。其の声は既に眠りの中にいた式部には聞こえなかった。

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