御伽草子

海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

傍受

「別に嫌いって訳じゃないんだけどさ……」


二人席のまるテーブルに向かい合うように座り、行儀悪く椅子を後ろに引き、前のめりでテーブルに肘を付いて話す清原と、両手にアイスティーのグラスを持ってストローで吸い上げる式部という普段なら中々見ない光景がヨコハマのあるカフェにはあった。

 因みに、今の台詞は清原のである。


「積極的なのも考え物というかね」

「まあ、判らなくもない」


清原の愚痴のようなものに式部は適当に相槌を打つ。


「でも冷たすぎるよりは幾分も良い」


式部の言葉のあと、清原のアイス珈琲の氷が溶けてカタンと良い音を上げる。

 彼女の意見に彼は「……そういうもんなのか」と彼女から顔を背けて考えるように黙った。式部は再び紅茶を少し吸い上げる。

 此の二人、傍から見れば二人が恋人同士のようにも見えるが彼等は全く違う異性の話をしている。


「大体きみは彼女の何処に不満なわけよ。良いとこだらけじゃん。うちのとは違って」

「其れ、太宰君に云わない方が良いよ。…………不満って、主に年齢差と押しが強すぎるところ」


清原と、彼に好意を寄せている少女は一回りの歳の差がある。清原は顔を背けたまま呟く。


「あんたみたいな奴には押しが強くて自分から来てくれるような女子の方が似合うと思うけど」

「否だね。年上属性にはいるような〝押しが強い〟っていう長所は僕にとっては要らない個性だ。……幾ら年上が嫌いとは云え、歳下すぎるのは論外だよ」

「其れ、鏡花ちゃんに云わない方が良いよ」


式部の言葉のあと、二人は同時に溜息を吐いた。式部は面倒臭いという意味合いで。清原は困り切った気持ちで、である。


「この際、年上嫌いを克服すれば?」

「絶対厭だ。紫織さんだって、金髪のひょろひょろで香水臭い年下は無理でしょ?」

「うわ最悪だわごめんね」


清原の例えに式部は即答する。また二人は沈黙した。先ほどから二人には定期的に沈黙が入る。二人がお互いに会話の間に次に相手がどんな風に話して来るかを考えているのだ。


「そもそも、どこまでが年下でもあり?」


再び式部の質問に、清原はテーブルに乗っていた身体を起き上がらせた。そして十秒ほど考えたあとに答えた。


「二十歳までかな。未成年は無理」

「せっっま。同い年入れても六歳差までじゃん」


私でももうちょっと広い、と云いかけた所で彼女の言葉が止まるので清原は首を傾げる。


「ま、まさか、私じゃないやんな?」


テーブルにグラスを置き、寒気を感じたように自分を抱く動作をする。


「大丈夫。紫織さんは全っ然好みじゃない」

「ありがとう私も全然好みじゃない」


安心したように式部は紅茶を飲む。清原もすっかり汗を掻いた珈琲のグラスを手に取りストローで珈琲を飲む。


「じゃあ、好みの女性はどんなの?」


また清原は長考に入った。先ほどよりも考えているようだ。そもそも好みというものを考えたことがないのかもしれない。


「大人しくて、僕の仕事に関しても全く知らない子が良いかな」

「うわ無理無理。中也さんの好みの女性より望みが高い」


彼女の感想に、少しむっと、判り難く表情を変えた。そして清原も聞き返す。


「じゃあ参考までに君の好みは?」

「……優しい王子様系」


現実との差に絶望する二人は、首をかくんと折って俯いた。


「太宰さんが胡散臭くなかったらなぁ……」

「彼の存在を全否定してると思う」


胡散臭い要素さえなければ太宰は自分の好みに近いと彼女は力説した。清原には想像し難いが、普段の彼は式部には優しく紳士的らしい。比較的であり、当社比である。


「もうちょっと成長してて、あの場で出逢ってなければなぁ……」

「出逢いを完全否定かよ」


普段の彼女は比較的大人しいのは二人の共通の認識である。元暗殺者でなければ清原の好みと近い。近いだけである。


「其れでも良いじゃないか、紫織さんは太宰君の事好きでしょう?」

「うん好き」

「今のは太宰君に訊かせてあげて」




店の外、少し離れた所で二人の会話を盗み見て、訊いている人が二人。

 二人は店の中で偶然出会った二人の遠くから眺めてた二人であり、太宰はこの後、店で式部と待ち合わせだったのだが珍しく二人が真面に会話をしているので興味本位で話を盗み訊いていたが、二人の会話を訊いて、太宰と鏡花は一喜一憂していた。

 特に先ほどの式部が即答した「好き」という言葉は、普段なかなか云ってくれない太宰には刺さったのか、口元を抑えて肩を震わせている。鏡花はそんな太宰の耳が真っ赤になっているのを見てしまう。

 二人は、太宰が式部の持っている鞄に忍び込ませた盗聴器で会話を訊いているのだが、距離の関係で清原の声が聞きづらく、鏡花は徐々に眉間に皺を寄せていく。其れでも「年下すぎるのは論外」だとか「未成年は無理」とか、「仕事について全く知らない方が良い」などを訊いていて感情の波は底辺だった。

 そんな時だ。


『でも、嫌いじゃないんでしょ?鏡花ちゃんは』


式部の声が聴こえて鏡花は顔を上げた。太宰も鏡花に聴こえやすいように小型スピーカーの音量を上げた。

 清原からの返事は聞えない。鏡花は再び俯く。


『……まあね。慥かに嫌いじゃない。僕には勿体ないよ』

『今のは是非鏡花ちゃんに訊かせてあげたい』


清原らしい答えに鏡花は有頂天とはならなかったが嬉しそうに笑みを零した。太宰はそんな鏡花の頭を優しくぽんぽんと触れたあと、店内の二人に合流するため、盗聴器を隠して歩き始めた。

著作者の他の作品

自傷、少しのグロ描写あり。

FGO夢主と銀腕の騎士の夢小説。うちよそ要素ありあり。