御伽草子

海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

納涼

「中也さん!お面買ってください!」


淡い桃色の風車を持って小走りでお面屋に走っていく萩原。彼女の後ろを半ば呆れたようについて行く中原。彼女の手に握られている其れも先ほど彼女に買い与えたものだ。


「お前、其れ今後如何するンだよ」

「えぇ~これは買ってくれたじゃないですかぁ」


彼女は風車を顔の前まで持ってきて息を吹きかける。木と紙で出来ているそれはカタカタと小さく音を立てながら回る。


「そうやって何でも買っても置くとこも飾る場所も無いだろ。お前の部屋狭いし」

「でも、お祭り初めてなんですもん……」

「そうやってあざとくしても無駄だぞ」


落ち込む風に俯いたが此の動作が中原には演技だと見破られているので彼女は舌打ちをした。

 最近、彼女はこうやって、演技で人を騙そうとすることが増えてきた。詰り嘘を覚えたということだ。純真無垢な餓鬼からは成長したということで彼は受け入れている。其れにまだ見破れる域なので問題ないと考えている。


「中也さんはおしとやかな方が好きですもんね」

「……なんで其の話になるンだ」


萩原は揄うように笑う。

 厳密に云えば中原の好みのタイプは上品な人だ。


「そう云えば、中也さんってまだ未練たらたらなんですか?」

「はァ?誰のことだよ」


以前から訊いてみたかったと彼女は云う。中原は此れまで何度か彼女に此の話題を振られそうになっては上手く交わしてきた。そして今度もどこかで逃げるタイミングを計っている。


「あ、うわさをすればなんとやらって奴じゃないですか?」


萩原が中原の後ろの方を指差す。彼の後ろには十字路に繋がる道になっており、萩原が指差した女性は丁度、其の十字路を横断していた。中原の嫌いな人物である太宰と一緒に。二人もまたお祭り目当てのようで浴衣を着ていた。

 中原は咄嗟に振り向き、太宰の隣を歩いている女性を見る。柄が控えられた上品な淡い色の浴衣。髪はお団子に結われ、いつも揺れているポニーテールは無かった。


「あるわけ無いだろ。今では敵だ。……大体、好きじゃなかったンだよ」

「うっそだぁ……樋口さんが云ってたぁ……芥川さんも頷いてたぁ……」


中也の眉間がぴくりと反応する。明日には遊撃部隊の二人はお叱りを受けるだろう。






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自傷、少しのグロ描写あり。