御伽草子

海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

花婿

白く、豪華絢爛な大きな扉が開く。目に入ったのは扉の前にいる私と父を祝福する探偵社員の人たちと京都の同年数名たち。そして一番奥にいる私の愛おしい人。

 何時もは厳しい顔立ちの母が私の顔に白く美しいベールを掛け、私は父と共に一歩を踏み出す。

 バージンロードは意訳すると「花嫁の人生」という。私は一歩につき、一年という距離を歩く。

 本当に幼い時のことは写真でしか見たことがない。家族で出掛けるということは無かったので親との写真は少なく、基本私一人の写真ばかりだった。そんな頃の写真を見たのはつい先ほどだった。両親が何を思ったのか急に少ないアルバムを見せてきたのだ。

 其のアルバムは私専用のもので、生まれた時から二十二歳までの写真が収められている筈だ。筈というのは私は此のアルバムをもう長らく見ていないからだ。


「うふふ、赤ちゃんな紫織ちゃんも可愛い」

「フィルター掛かってませんか?」


治さんと二人きりで式までの間にアルバムを鑑賞していた。生まれたばかりの頃の写真から少し成長してはいはいを始めたり、アルバム的にはすぐに歩き始めた写真があったが、日付はちゃんと進んでいた。


「写真が少ないねぇ」

「時折、使用人が撮ってくれたものぐらいです」

「残念だよぅ」


一切無い人が何云ってるんだろうかという言葉は出さないでおく。

 そしてアルバムを進めていくと、中学生の時の写真に不自然に背景の余白の開いた私だけが写った写真があった。私はふいに手元を止めてしまう。其のせいで彼に此の写真から消えてしまった者を察知られてしまった。


「……更科君が居たんです此れに」


彼が何か云う前に私が先手した。今更隠すこともない。

 私は彼が居た場所を指でなぞった。こんなことをしても消えた彼は戻らないのに。

 此の写真に写っていた彼は私が写真で持っていた唯一のものだった。更科君を消してしまったあと、私は此のアルバムを確認したのだが、写真の中にいた彼も当然消えていた。それ以来、私は此のアルバムを開くことが無くなった。

 彼の事を忘れないと治さんの前で誓ったあとも、此れを見ることだけは出来なかった。


「指、退かして」


頁の上に乗せられていた私の指を彼は丁寧に動かしたあと、其の写真に治さんは直接触れた。そして俯いていた私にもう一度写真を見せた。


「えっ……うそ…」


私の目の前に彼が居た。写真の中で、写真の外にいる私に穏やかに微笑みかけている。


「矢張り。私が触れると紫織ちゃんの桐壷の効力が切れるようだね」


人の存在を完全に消失することが出来る〝源氏物語〟の最終形態の桐壷。その効果は私以外に発揮されるが、異能無効化を持つ治さんには効かない。

 記憶を消去された人に触れても記憶は再生されなかったが、写真という物体なら異能無効化によって私の異能の効果を無効化したのだ。


「此れが更科君の幼い頃の姿かぁ」


成長した彼は見たことあるのだよね。と彼はしみじみ呟いた。

 そう云っている彼の隣で私は感極まって涙があふれそうになる。すると治さんが私の肩に優しく触れた。


「泣くのは早いよ。ほら、続きを見よう?」


そう云って彼はアルバムの頁を開く。そして今度は高校の修学旅行の時の写真が出てきた。クラスの集合写真を使用人に送ったら其れを現存したのだろう。

 治さんは其れを食い入るように見つめている。


「高校の時の写真です」


写真に写っている暗い顔の私を指差すと彼は頷く。


「此の時の紫織ちゃんも可愛いね」

「厭、此れは如何見ても可愛くないでしょう。めっちゃ仏頂面ですよ」

「いやいや、本当に」


何処か懐かしそうに見つめている彼の横顔を見つめると、其の視線に気が付いて私の方に笑いかける。


「紫織ちゃんは何時も尊い辛み」

「何云ってんですか若しかして緊張してます?」

「……してる」


私たち二人は同時に笑った。

 ゆっくり治さんに近づく。道の途中で葵惟と目が合う。私の弟のような従弟。彼のことは苦手だったが、彼が居なければ中学生の時に私は自殺して此処には居なかったかもしれない。彼は覚えているかは知らないけど。


「お姉ちゃんおめでとう!!」


太陽に向かって咲く花の様に晴々とした笑顔と元気な声で祝福され私は頬を緩ませた。若しかしたら葵惟に初めて笑みを向けるかもしれない。葵惟は私の顔を見て急に口を強く瞑った。

 社員たちと目が合った。私と一緒に生きる意味を模索しようと約束してくれた人。理想を説いてくれた人。私に職を与えてくれた人。そして私を社の一員だと認めてくれている人たち。其の人たちの優しさで胸がいっぱいになる。

 父の手から離れ、手袋に包まれた手を治さんの手に重ねて、共に前に進む。彼と共に一歩づつ進む。そして牧師の言葉のあと、治さんと向き合う。

 彼が私のベールに手をかける。

 ふと、彼が扉の前で云っていた言葉を思い出す。


『……うん、私も初めて、二十四年前のこの日、この世に生まれて来て善かったと思えたよ』


あぁ…私。生きててよかった。



太宰治。HappyBirthday!!

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橙オレンジ様宅のアーネストと清原とのうちよそ。公式キャラは出て来ません。

異能力使用可能のサバイバルゲーム・流血表現アリ・うちよそ要素アリ