御伽草子

海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

日傘

医務室から声が聴こえる。


「ぎゃああああああああ!!!」


人の断末魔。悲鳴。人を切り刻む音。


「あはははははは!!善いねェ!善い声だねェ!!」


女医の歓喜。そして順番を待つ者の絶望しきった冷えた顔。

 数時間前に探偵社の調査員数名での仕事を行った。仕事は無事に終了。しかし社員の殆どが中軽傷を負った為、現在専属医による解体が繰り広げられている。現在の被害者は谷崎。

 この様な悲鳴が聞こえても誰も逃げ出さないのはこうしていなければ自らの傷を治すことが出来ないからであり、社員たちにはさらに新しい仕事が入っている為である。

 最近、裏社会の動きが活発化し、取り締まる側も人員が必要となって来ているのだ。しかし少数精鋭である探偵社では個人の仕事が余計に増える。怪我をして其のまま次に行けば仕事能率は下がる為、全員こうやって精神的に耐えるしかないのだ。


「式部さん!」


医務室前で並び乍、与謝野の治癒が出来ない太宰相手に手当を行っていた彼女に、今帰って来た徳田が声をかけた。彼女が式部に見せたのは刀を仕込んだ日傘だった。

 心棒に刀を仕込んだ其れを受け取り、刀を出すと、刀身が中で折れていた。


「怪力の敵構成員に折られてしまって……」

「判った、此れを治せば善いんだね」


そう云って、一旦太宰から離れようとしたところで与謝野に順番を呼ばれた。式部は驚きで身体を跳ねさせた。


「ごめん、後で善いかな?あと、太宰さんの手当お願い!」

「え!?あの……」


後は包帯巻くだけだから!と云って医務室に谷崎と入れ違いに入っていった。谷崎は酷くぐったりして肌は艶々としている。


「お疲れ谷崎君」

「はい……此れからまた外に出ますけどね……ははっ」


太宰に声をかけられ、返事をするものの、笑い声は乾いている。徳田はそんな彼に言葉もかけられないまま、彼を見送った。

 式部に云われた通り、彼が怪我をした所に包帯を巻いて行くが殆どを彼本人がやってしまった。徳田が元幹部の彼に緊張していて動きが鈍かったからもあるが、太宰が自分からやってしまったこともある。


「す、すみませんっ……私が遅いせいで……」

「気にしないで呉れ給え。君が悪い訳ではなくて、紫織ちゃんでなければしてもらう必要はないからね」


「やって」と云うのは太宰が彼女に尽くして欲しいからと白状した。小さい頃からずっとやって来たことなので自分で出来ない訳がないのだ。式部も其れを知って、自ら望んで尽くしている。お互いに知らない振りを……否、会話もなく其れは二人の中での了解なのだ。


「…………あんっ」


医務室から式部の喘ぎ声が聴こえて、此れでもかというほどの速さで太宰は医務室の方を見た。俊敏過ぎる動きと下心に徳田は驚いた。

 そしてマフィアに居た頃には見ることの無かった人間らしい、普通の男性らしい所を見れて今までの少しの恐怖が緩和された。


「……何の音って云うか、声なんですか」


明らか治療をする声でも機械音でもないので徳田は呟いた。太宰は笑みを零し乍「与謝野女医のサービスだよ」と答えた。

 数分後、式部は部屋から出てきた。頬は艶々で血色が良い。


「お疲れ、何回されたの?」

「自分の異能で一部治した所がばれたのでお仕置きに四回です……」


彼女の異能は自分である程度の外傷なら治せる。しかし体力の消耗が大きい為、与謝野に使用を制限されていたのだ。

 深く溜息を付いた後に、彼女は徳田の日傘を手に取った。


「あの、大丈夫ですか?休憩した方が……」


物を治すのは物質の時間操作。時間操作は空間操作よりも体力を使うので思ったよりも消耗している式部には辛いかもしれない。


「大丈夫だよ。体力はすぐに元に戻るから」


そう云うと彼女は異能を発動した。彼女が握っている日傘が紫の光を纏う。そして五秒程して光が弾ける。

 すると式部は手元を掴んで刀を引き抜く。途中でぽっきりと折れていた刀身は其の面影を無くし、綺麗に修復されている。銀色の輝きを放つ刀身を指先で触れて修復部分を確認したあと、刀を仕舞って日傘を徳田に返却した。


「有難うございます!」


大きく頭を下げてお礼を云った後、大きく膨らんだ肩掛け鞄を持って小走りでまた外に向かった。

 するとすぐ近くで大きな爆発音がした。


「何の音ですかね……」

「さぁ……手榴弾とかかなぁ」


外で経費がなんだと叫んでいる国木田の声を二人は呑気に聞いていた。

著作者の他の作品

うちよそ短編。清原と三九来さん。

自傷、少しのグロ描写あり。