御伽草子

海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

十五

 突然、太宰と式部が小さくなった。

 太宰はまるで本当の子供のように手脚をばたばたと動かし「詰まらないから死にたい!楽に死にたい!紫織ちゃん心中しよ!」とごねる。

 一方式部の方はまるで周りの人間全てを嫌っているように部屋の隅で、まるで隠れるように本を読んでいる。


「いい加減にしろ貴様ら。自分が幾つだと思っている」

「十五」


 二人が同時に呟く。

 国木田は茫然。敦は唖然。鏡花は無言で二人を見守り、与謝野は少し面白そうに含み笑いを浮かべ、賢治は何時ものように深く気にせず、谷崎は悩み、乱歩は興味無さそうに駄菓子に手を伸ばしている。


「ねぇねぇ紫織ちゃん。僕と心中しよ?退屈で仕方ないから心中しよ?」


 無邪気とは云えない子供らしいとも云い難いあざとさで式部に心中をおねだりする太宰だが、式部は小さな声で「いや」と拒否する。

 太宰の執拗さは元の年齢の比ではない。椅子から立ち上がったあと思えば彼女の周りをうろつき「僕と心中!」という単語を繰り返す。

 二人が「心中して!」「いや」の攻防戦をしている間に他の者は顔を寄せて作戦会議を行う。


「如何するンですか、見た目も中身も本当に十五歳ですよ」

「うちの十四歳より精神年齢が低すぎるぞ。此れでは完全に子守だ」

「式部さんの方は普通に見えましたけど」

「思い出せ、今までこそ式部は真面だったが、正式に入社するまでを……情緒不安定に決まっている」

「取り敢えず二人の様子を確認するしかないねェ……見た所、妾たちの事は判ってるみたいだけど」

「何話してるのぉ?」


 先ほどまで式部に引っ付いていた太宰が急に会議の中に顔を突っ込むので数人の肩が跳ねる。


「ごほんっ……太宰、俺たちのことは判っているか?」


 国木田の言葉に太宰は当然のように答える。


「当然。僕も紫織ちゃんも判ってるよ。ね!」


 不意打ちの呼びかけに式部は驚いたように本から目線を外し、太宰、国木田と続き顔を見て頷いた。

 太宰が云うようには、何故か身体が退化し、其れと伴って精神年齢も退化したが記憶の方は其のままだという。ただ精神年齢が落ちているため当時のようになってしまっている。


「詰り、十五歳当時の貴様らはこんな感じだったと?」

「うん」「……はい」


 二人が同時に頷いた。一先ず状態は判明したが、問題は此処からである


「も~退屈だぁ……ただ座ってるのも退屈だなあ…」


 こんな精神状態の二人を働かせることも出来ず事務所で自由にさせていたのだが途中で太宰がごね始めた。もう此れは本人曰く持病なので如何しようもないらしい。

 しかし、国木田が半切れ状態で「仕事をするか」と訊いても其れは否だの一点張り。太宰は仕舞に「楽に自殺する方法はないだろうか」と独り言を云い始め、自身の『完全自殺読本』の音読を始める。


「式部さん。此れ、大丈夫ですか?」


 式部は小さく返事をして谷崎から資料を受け取った。

 彼女は彼に比べるとまだ大丈夫だったので簡単な書類整理をさせている。しかし途中から何かが集中を途切れさせたさせたのか彼女は「給湯室に行ってきます」と言葉を残して事務室に戻ってこなくなった。


「如何したんでしょうね」


 敦が心配そうに呟いたあと、乱歩がねるねるねるねを混ぜながら与謝野にお手洗いを見てくるように云う。

 与謝野がお手洗いを見に行って数秒後に何かがぶつかったような音がした後、暴れる者と抵抗しているような音が連続して聞こえてくる。太宰は何かを察知したように事務室を出てお手洗いに向かう。

 そして三十秒もしないうちに三人は戻ってきた。与謝野は額に流れた汗を拭い乍。そして式部は太宰に抑えられ乍。彼女の顔は小さな子供が何か不満を持った時のように不貞腐れたような顔。


「紫織ちゃん。トイレでリストカットしてた」


 太宰の言葉に数人は掛ける言葉を見失った。式部はぷいっと顔を背ける。


「全く困ったもンだよ。異能で傷が消せるからってやりたい放題。手付きが手慣れたもんだ。お仕置きに一度解剖して治してやったよ」


 式部は恐怖に震えているのであの一瞬の間に扉を破られ手の傷を自分で治癒する前に解剖されたのだろう。

 言葉を掛け兼ねている社員たちの中で彼女の腕を抑えている太宰が彼女に言葉を掛けた。


「リストカットなんて痛いだけだし、死ぬのには向いてないよ」


 けれど太宰が最初にこんなことを云うので国木田が太宰に何か云うとするが其れよりも先にまた太宰が


「死にたいからやってるんじゃないの……息苦しいのを治したいの……楽になりたいの…一回、あれで一瞬治ったから、だから何度も何度も……薬だって、そう」


 薬という単語に国木田が目を見開く。真逆、薬物をやっていたのかと疑ったのだ。


「安心して国木田君。紫織ちゃんの云ってる薬はODだから」


 ODという訊きなれない単語に国木田ではなく敦は首を傾げた。

 与謝野は太宰の言葉と式部の急な落ち着きに突然と納得した。


「ODって云うのは過剰摂取、過料服薬って意味だ。紫織の場合は風邪薬とか痛み止めを大量に摂取していた」


 学生などには時折ある自傷行動の一つだ。元教師の国木田も意味は把握している。

 自傷行動は本来あってはならない。けれど当事者たちは「生きる為に必要なこと」と答えることが多数だと云われる。彼女もその一人だった。死ぬことを畏れていた。

 式部の場合は其れが発展し、最終的に息苦しさを取り除く方法が「死ぬこと」だと考え、入社前の状態になっていたということだ

 太宰は式部を責めることなく腕を離した。そして彼女と向き合う。


「身体が退化して、精神も不安定で、生きるのが辛くなった?」


 式部は俯いたまま喋らない。


「僕もそう方が強かったよ。身体が退化すると当時の思考になるのかな。……でもね」


 幼く見えた顔が少し大人らしく見える。そして自身の肩に紫織を引き寄せて押し付けた。


「ぼ、僕……わ、たしはね。紫織ちゃんといると退屈じゃあない。詰まらなくないのだよ」


 ぎゅっと強く抱きしめると式部の鼻が小さく音を立てる。


「…………太宰さんといると、息苦しくない」


「そうでしょう!」と太宰が笑みを浮かべた。刹那、二人の姿は元に戻った。茫然とする式部と社員たち。けれど太宰は、更に式部を抱きしめて離さない。




「やぁい!紫織ちゃんの泣き上戸!もっと私に縋って善いのだよ?」

「だ、黙ってください!泣いてません!」

「……如何します…?あれ」

「放っておけ」


著作者の他の作品

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