御伽草子

🐙海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

学童

学級には必ずと云っていいほど、場に溶け込むことが苦手な人というものはいる。

 俺の働いている小学校。そして担任しているクラスで、そういう子は式部という少女だ。

 特に異質なところがあるわけではない。単純に会話が苦手なだけなのだろう。話しかけると小さい声ではあるが答えてくれるので嫌いな要素はないと教員たちと話している。


「紫織ちゃん。僕とあそぼう」


部屋の端に座って一人、本を読んでいた彼女に声をかけたのは太宰という生徒。

 小学二年生とは思えない大人びた少年で、クラスの中以外でも人気者は特に式部と一緒にいたがる。

 太宰が式部の腕を引くと、彼女は本を学級文庫に戻して彼について行った。昼休みの二人の日課のようなものだ。何処にいるのか、他の生徒も知らない。




「仲が良いのは、とても善いことだと思いますよ。式部さんを此れ以上浮かせても良いことなどありませんし」


同僚の安吾はそう云った。

 確かに、一人でも友達がいればクラスに溶け込みやすい。けれど、生徒がどこかで危ないことをしていないか知っておく必要はある。幾ら太宰が大人びていると云ってもまだ子供なのだから。


「居場所だけでも判っておいた方が良いだろうか」

「そうですね。ですが、太宰君なら秘密にしておいた方が彼にとっては良いのかもしれませんね」


慥にそうだとは思った。

 次の日の昼休み。また二人で教室から出て行った為、俺はこっそり後を付けることにした。

 二人の目的地は本館と体育館の間にある中庭からもう少し中に入り込んだ場所で、体育館が影になってあまり人が寄ってこない場所。

 清掃員も余り入ってこないような場所にぽつんと置かれたベンチに二人は座っていた。俺は体育館の壁を使って隠れて二人の様子を伺った。


「……――」


話声は小さくて聴こえない。二人ともお互いに耳を寄せながら内緒話をするかのように会話している。

 クラスメイトに向けるよりも優しい笑みを浮かべて話している太宰と、はにかみながらも楽しそうにしている式部。

 お互いの肩や足が触れ合うほどに近い距離で二人は話しているだけだが、如何してだか、とても美しい絵画を見ているような神聖な気分になった。

 俺は二人の邪魔をしないよう、早々に戻った。




「織田作先生。少しいい?」


帰宅前のHRが終わって、職員室に戻る前に太宰に話しかけられた。如何したと訊くと、


「今日、僕たちのこと見ていたよね」


其の言葉に頷くと太宰は少し頬を染めて、珍しく年相応の事を云う。


「他の皆には云わないでよ!紫織ちゃんといっしょにいるの!」

「如何してだ」


訊いてみると太宰は余計に顔を赤らめた。そしてもじもじと動き俯いた。


「だって、紫織ちゃんが本当はとてもかわいい子だって知られたくない。先生も見たでしょ、紫織ちゃんの笑顔」


顔はまだ少し赤かったが表情は真剣そのものだ。

 矢張り、安吾の云う通り、太宰は秘密にしておきたかったのだろう。式部とどこにいるのか、そして彼女が本当はどんな子なのか。彼女はただ、人見知りなだけなことを。


「判った。じゃあ参考に一つ訊くが、普段どんな会話をしているんだ?」

「えぇ~、其れは流石の織田作先生でもないしょなのだよ」


太宰は悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。




学童保育にいる式部になんとなく話しかけてみた。彼女は宿題を終わらせたあとのようで今日のお菓子を食べていた。


「今日は何をして遊んだんだ?」


誰ととは云わなかったのが、彼女にとっては相手が一人だけなので「お話していただけです」とか細く答えた。すると彼女が自身の机に目線を向けたので其の視線の方を見ると、紫色の押し花の栞が置いてあった。彼女は其れを素早く手に取るとランドセルの中にあった本に挟んで隠した。


「今のは……貰ったのか?」


俺の言葉に式部は顔を真っ赤にして頷いた。

 長い紫かかった髪を尻尾のように揺らして抵抗する彼女の頭をなんとなく撫でた。

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