御伽草子

🐙海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

降誕祭 後編



イブから式部は少し気分が落ち込んでいた。

 本来なら横浜で探偵社の降誕祭のパーティーに参加していたのだが、実家に呼ばれ、家の贔屓にしている家や親族たちに会う園遊会に参加し、立食会に出て、帰って来た後、夜を一人で自室で休んでいた。この部屋は元々彼女の部屋で懐かしく感じたが今は懐かしむ気分でもない。

 本来お喋りでもない彼女は太宰が居ないと途端に話さなくなってしまう。其れに今は一人だ、夜の静かな時間はゆっくりと進んでいく。かといって眠気もなく椅子で広い部屋を呆然と眺めたりするのは飽きる。


「あ……」


机に置いていたスマホの画面が付き、電話の着信音がなる。今は深夜でもうすぐ二十五日になろうとしているとこで誰が電話なんかするのかと思うが式部は其れが誰なのか画面を見る前に察し、画面を見ると納得したように息を漏らす。半ば呆れ、半ば嬉しそうに。


「はい。もしもし」

『もしもし。紫織ちゃん』


向こう側から彼女が今一番訊きたかった声が聞こえる。彼の声は何時もよりうんと優し気で蕩けそうに甘い。


『うふふ。起きてるか心配だったのだけど、眠れないのかい?』


見透かされたように云われ、式部は言葉を濁す。そして少しむきになって「貴方もでしょ」と云と、そうだねと笑い乍ら返された。


『此れから暫く私は、君の残り香を吸い乍ら寝ようと思っているのだよ』


虚しいだろう?自虐の言葉に「うわぁ」と引いたように言葉を漏らした後に小さく、私は出来なくて残念です。そう云った。

 彼は少し嬉しそうな声で「紫織ちゃんが今日はデレてくれる!」と喜んでいる。そして其の後、逢いたいなあと呟く。式部も「私も……」と返すと太宰は一瞬黙った。彼の云う通り一瞬虚しさを感じると又甘い声が聴こえる。


『窓を開けて庭を見て』


不思議に思い乍らも窓に近づき硝子を開く。彼女の部屋は一階にあるので窓を開けるとすぐそこに庭がある。

 式部は窓を開けて遠くを見る。


「其の侭……」


何故か電話と近くから二重に声が聴こえる。

 刹那、突然彼女の視界に声の主が入って来て外から窓へ身体を突き出し、式部を捕まえ唇に吸い付く。

 彼女が驚いて声を上げないようにしっかり唇を当てて壁を気にすることなく彼女を抱き寄せる。


「……んっ」


突然で碌に息を吸えていなかった為、直ぐに式部は苦しそうにもがく。仕方なく太宰は唇を離す。


「っは……って、なんで此処にっ」


顔を真っ赤にさせて文句を云う式部に太宰はしーっと指を口元に当てて、靴を脱いだと思えば窓から部屋に入り込んだ。其の靴は窓の前の放置して。


「贈呈品はわ・た・しって奴だよ」


彼が云い切るのが速いかの所で太宰の頬を片手でむにっと掴む。そして引っ張るので痛いよぉと太宰は声を上げる。因みに既にがっちり抱きしめられているので逃げられない。


「お母さまに見つかったらなんて云われるか……!」


真っ赤な顔から真っ青な顔に変わり、太宰が事前に思っていたような反応を式部はする。

 太宰は大げさだなぁっと呟いだ後彼女と一緒に彼女の寝台に腰を置く。大きくて柔らかな寝台で少し沈むような感覚が善い。掛布団の肌触りなんて最高だ。

 彼女とぴったりと密着して左側に座り、右手を彼女の背中に周し、彼女の右手と恋人のつなぎ方で手を繋ぐ。


「在り来たりだけれど、紫織ちゃんと過ごしたかったのだよ」


太宰はこてんと彼女の肩に頭を乗せた。

 二人で初めての降誕祭。式部にとっては恋人と初めて過ごす降誕祭。太宰にとっては長らく待ち望んだ降誕祭。家の行事で実家に戻ることになったが、其れでも一時だけでも一緒に過ごせたら。其れが二人の本心だ。


「明日の朝まで、一緒にいて良いだろう?……私といいことをしよう」


二人向き合い、接吻をする。何度も角度を変え、絡み合い。お互いを確かめ合う。そして太宰は接吻の最中に彼女を寝台に沈め……




二十五日の十九時過ぎ、探偵社で開かれる二回目のパーティーで敦が呟いた。


「全員って云いましたけど、やっぱり式部さんは来れませんよね……」


敦の呟きに太宰が「あぁ……」と声を漏らす。昨晩の楽しみのあと、今日は何をするのかと訊くと彼女は大江たちと出かけると云っていたので来ないと判っている。今度は太宰がいるのに残念だと云う社員たちの中で乱歩は何時ものように話していて、


「はっはっは!此の僕がそんな失敗をするわけないだろう!」


乱歩は大きくリアクションを取った後、入口の方へ腕を向ける。するとチラリと此方を伺う式部の顔が全員の目の前に出る。この中で太宰が一番驚いている。


「太宰を驚かせ喜ばせる贈呈品と云えば式部しかないでしょ」

「あはは…」


豪語する乱歩と皆の視線を受けたじたじの式部。


「えっと、時間を作って異能で飛んで来まし…た」


一瞬の間の後わっと彼女の周りに人が集まる。女性陣たちにもみくちゃにされ、サンタの帽子を被せられたかと思えば「昨日渡せなければ意味はないが、折角用意したのだからやろう」と云われ国木田から贈呈品を貰ったり、「昨日のケーキの小さいのを作ったンです。太宰さんと食べてください」と谷崎から小さなケーキを貰ったり、社長からも良く顔を出したと言葉を掛けて貰った。


「……紫織ちゃん?」


驚き乍らも少し嬉しそうにしている太宰が、呆然としている式部に声を掛ける。すると彼女の目にじんわりと光るものが滲んだ。


「嬉しすぎて涙が出てきました……有難うございます…っ」


二回目のパーティーは本当に探偵社全員が参加して始まった。


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FGO夢主と銀腕の騎士の夢小説。うちよそ要素ありあり。

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