御伽草子

海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

降誕祭 後編



「ちゅうやさんっちゅうやさん!私にサンタクロースは来ませんでした!!」


クリスマス当日の昼前、森とエリスの買い物についていく用意をしていた中原に萩原が話し掛ける。中原は鳩が豆鉄砲喰らったような顔をする。「来るわけねぇだろ莫迦」と云おうとしたところで思う。小学生から軟禁で外の事を全く知らない此奴がサンタが親だなんて真実知るわけがない。其れ処か今迄貰っていた事に何気に驚きだ。


「お、お前、今迄貰ってたのか……?」

「もちろんです!でも貰えるものは何故か難しい本で私はさっぱり読めませんでした!小さい頃からで、他の姉たちは欲しいものを貰えてたのにサンタもひいきするのだと思ってましたが……やっぱり、マフィアになって悪い子になったので貰えなくなったのでしょうか?」


其処までヒントがあるなら気付けよ、手前の親に決まってんだろ。依怙贔屓喰らってんぞ。と中原はとても云いたかった。だが、何故か、見た目十八歳、精神年齢十歳の彼女に其れを云うのは少し酷に思えた。なので、


「嗚呼、そうだな。幾ら慈愛に満ち満ちたサンタでもマフィアに贈呈品は無い。大体、お前、本読めないだろ」


と云うしかない。

 彼女はそんなんですよぅ~、と困ったように云う。否、努力しろよというツッコミは今は無しだ。


「今から首領たちの護衛で街に出て来るから合間に何か買って来てやるよ」


猫っ毛ぽい灰色の髪を撫でてやると、本当に猫のように頬を染めて喜んで「やったーっ」とぴょんぴょんと跳ねる。




中原が出かけて行ったあと、萩原は尾崎の元に向かう。彼女の元へケーキを強請りに行ったのだ。


「良く来たのう」


彼女は喜んで、萩原にケーキとお茶を出した。自身もお茶を飲み乍ら、ケーキを美味しそうに食べる彼女を眺めている。


「どうかなさったんですかー?」


食べている最中に尾崎の視線が気になって言葉を掛けると、彼女は一瞬声を訊いていなかったように反応が遅れた。萩原を見乍ら全く別の人を思い出していたような。


「すまぬ。そちとほぼ入れ違いに去って行った子たちを思い出してな」


今は探偵社にいるという尾崎が面倒を見て来た少女たち。一人は十四歳でもう一人は十六歳らしい。十四歳の方とは話したことも無いが、もう一人の方は少しの間一緒にいた期間がある。自分より二つ下なのにしっかりした、全体的に白い少女。あの子が脱走なんて思いもしなかったことだと中原が云ってたことを思い出す。尾崎がショックを受けていることも訊いた。


「すいません、あの子みたいにしっかりしてなくて」

「否、謝ることはない。秋梨に云われたばかりだというのに、朔乃とまた比べてしまったな」


彼女がどんな想いを持ってマフィアを脱走したかは彼女は知らない。けれど元来他人の事に関しては鋭い彼女は何となく気付いていた。秋梨という子は尾崎から他の子と比べられることが嫌だったのだろう。自分を自分として見て欲しい。萩原にはよく訳が判らないがきっと本人には重要なことな筈だ。


「鏡花も秋梨も、私にとっては大切じゃった。其れだけは伝わっていると善いのだがのう……」


今は別の所で善くやっておれば善いと彼女は感傷的に呟いた。

 人は誰しも他の人物に何かしらの感情を抱く。萩原は今の所、親に対して無関心だが、何時しか何かしらの感情を持つようになるのかもしれない。




夜。中原の仕事の関係でもう一度会ったのはもう夜だった。

 彼女はテレビを見るのに真剣で中原が部屋に入って来たのに気づかなかったが目の前に髪袋を出されると其れを手に取って後ろに振り向く。


「不用心だな」

「鍵は閉めたよ?」


マフィアには鍵なんて殆ど意味ねぇよと中原は呟く。彼女は「そんなにいつも気ばってたら頭痛くなっちゃう」と文句を云う

 中原の小言を無視して萩原は袋を開けて、中身を漁る。中には肌触りの良い高級ブランドのドレスと、装飾品、靴も入っている。


「今直ぐ其れに着替えろ。出かけるぞ」


頭にはてなマークを浮かべている彼女に溜息交じりに呟く。


「普通は昨日の晩にするもんだが、降誕祭ディナーだ。もう店も其の使用じゃねェし、急遽予約が取れる所でそんなによくないがな」


初めてには十分だろと吐き捨てる。

 照れたように顔を背ける中原に萩原は嬉しそうに笑う。


「嬉しい!こんな対応受けたの初めて!」


心の底から喜んでいる彼女に彼は目を細める。髪も何か整えて来いよと伝えたあと彼は一旦部屋から出た。



レストランに行くまでに彼女に礼儀作法を叩き込むことになるのを中原は忘れていたのだった――。




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