御伽草子

☀海棠緋寄🔪
@Enph_hiyo12

降誕祭 後編

街の玩具屋で真剣に陳列棚を眺める一人の女性。

 明るい茶色の髪はとても柔らかそうで、毛先を軽く巻いている為、彼女が少し歩く度に跳ねるように動く。


「何を探しですか?」


店員が話し掛けると、女性は笑みを向けて云う。


「小学生ぐらいの子供に合うものを探してるんです」


店員は心良く女性に店内を案内する。店員が客の女性に背を向けて歩き始めると、女性の眼差しは一気に冷めて行った。




(結局買ってしまった)


大きな紙袋には五人分の贈呈品が入っている。どれが誰の分か判るように名前を書いたカードまで添えて貰った。

 今日は降誕祭当日、今迄特に興味も無かった行事だが、今年は何の縁か知り合いが養っている子供たちに贈呈品を贈ることにした。子供が喜ぶものなど判らないので店員に訊いたのだが、店員に話しかけられたり、興味のない人とは会話もしたく無い質なので彼女が少し嫌がっていたのだ。


(さて、姿を変えないと……)


子供たちがいる伽哩屋にはある一定の見た目で通っている。今の姿から其の彼等に通している姿、長い黒髪と、透けるような白い肌、月の様な瞳の妙齢の女性。其れが彼等の知る「月宮かぐや」だ。今迄数千年生きてるが、彼女が此処まで何度も統一した一つの姿になるのは珍しい。

 店の近くで、人が回りにいない事を確認すると普通に歩き乍ら姿を変える。


「おやじさん。メリークリスマス」

「良く来たねぇ、メリークリスマス」


店の扉を開け一番に視界に入った人物である店主に声を掛ける。織田や子供たちは二階だ。

 彼女が持っている大きな紙袋を見て店主は「態々ありがとうね」とお礼を云って喜んだ。軽く会釈をして月宮も二階に向かう。


「おねーちゃんだ!」

「囲え!囲え!!」


木の扉を開け、中に一歩足を踏み入れると子供たちに開幕タックルを受けて尻餅を付く、そして転んだ隙を付かれて紙袋を奪われる。


「例のブツを発見しましたっ!」

「良くやったぞ!俺たちの贈呈品だ!」


一瞬、面喰ったが喜んではしゃいでいる子供たちを見て頬が緩む。

 織田は二段寝台の一段目で此の様子を見ていた。


「…一寸、助けなさいよ」

「すまない、思いのほか楽しそうだったからな」


寝台から出て来ると織田が彼女に向って手を差し伸べるので其の手を掴み、彼女が立ち上がる。


「すっげーおもちゃばっかりだ!」


マフィアに惹かれる子供たちなので其れらしいの一寸ミリタリー風の物を選んで来たのが好評のようだ。此れでまだ織田に勝負を仕掛けるのだろうと思うと余計に面白い。

 成るべく人とは長く関わりを持たないようにしていたが、織田と知り合ってから人と関わりを持つことに楽しみや喜びを覚えるようになっていた。否、思い出して来たというべきだろうか。

 この日は織田も月宮も少し子供たちと遊んでから部屋を後にした。



夜は何時もの場所で呑むことになった。織田によれは彼の友人は今日は来ないらしい。なんでも昨晩に散々呑んだとか。


「昨日も呑んだのに今日も呑むんだ?」

「大量に呑んだのはもう一人の方だ」


織田が一瞬、伺うように視線を向ける。月宮は織田の友人の話、特に最年少幹部の話になると機嫌が悪くなる。が、今日は彼女は無礼講だと云い、


「続けて?」


と微笑んで話の続きを要求。


「太宰の気になる女性との妄想話を安吾と二人で三時間訊いた」


街で織田の傷を治して助けたという太宰と同じ年齢と思われる修学旅行生。他地方の子らしく、其れ以来一度も会えていないが、太宰は其の他人を何も訊かずに助けた其の子に好感をもった。其れ以来頻繁に太宰から彼女との妄想を訊くのだ。


「聖夜に相応しい妄想がしたいらしい」


年頃の彼はそういう妄想をしたいらしいが、何分直接話したことが無いので内容に乏しく、二人に助け船を要求した。坂口は呆れて特に云って呉れなかったのに加え、織田も彼女になんだか申し訳ないと断った為、太宰の不完全燃焼、有り余る慾が生み出す欲肉欲の妄想を三時間訊かされることになったようだ。


「幾ら同性とはいえ、友人のそっち関係の話を訊くのは辛いわね。内容的にも」

「安吾は『嫌な仕事をしている時の三時間より長く感じました』と帰り際に云ってた」


軽い下ネタなら楽に訊いてられるが、欲求不満の青年の妄想ほど重いものは無い。


「最後の方は妄想ではなく、完全に懇願だった。只管に『紫の上に逢いたい』と繰り返していた」


月宮は苦虫を潰したような複雑な顔をして同意した。


「確かに、逢いた過ぎて狂って来る感じは何となく判るかも……」


月宮が呟いた後、一瞬の沈黙が起こる。ウイスキイのグラスに入れられた氷が軽やかにラカンッと音を立てる。


「……そう云えば、月宮に渡そうを思っていたものがある」


織田が懐から箱を出して月宮に渡す。彼女は無言で其れを受け取り、結ばれた黄色のリボンを解き箱を開けると、中にはネックレスが入っていた。

 半透明のムーンストーンが輝くネックレス。華奢な銀のチェーンに小さな乳白色の石がまるで月のような優しい光を放っている。


「織田君が選んだの?」

「ああ、似合うと思ったからな」


和名で月長石と呼ばれる其れは正しく月宮にぴったりだと織田は云う。

 彼は箱から其れを取り出し、自分で付けるという彼女を無視してネックレスを留め金を外し、腕を彼女の首に回す。

 腕を離し、織田が離れると彼女の首をムーンストーンが飾る。三日月の形に削られている其れは正しく月だ。


「…………ぁ、ありがとう」


お礼を云い慣れていない彼女は小さく、噛み乍ら恥ずかしそうにお礼を云った。




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