御伽草子

🐙海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

降誕祭 前編

「流石、団長の開くパーティーは規模が違う」


米国で行われた組合の団長である、フィッツジェラルドが主催のパーティーはチェーホフの想像を毎年超えて来るものだ。

 組合の関係者は勿論、その者の配偶者や、交友のある企業関係者など様々な人々が彼の用意した城並みの会場に集まる。

 団長も含めギ組合を謀っているチェーホフも当然、此のパーティーに呼ばれている。


「やあ、チェーホフ、有名女優は今日も忙しそうだな」

「貴方に比べれば、全くだわ」


其の他企業や、配偶者等の類の人々から握手から、タイアップの誘いなど、此の場で異様に話しかけられ、彼女は思わぬ所で体力を使っていた。何故、聖夜の立食パーティーでこんなに体力を使わなければいけないのかと脳内で愚痴を零す。


「折角の聖夜だ、少しは楽しむがいい」


他意は無いのだろうが、少し腹が立つ。チェーホフは彼が見えなくなると誰にも気づかれないように会場から抜け出した。

 人が多いと当然、目撃者は増える。しかし、一度抜け出せてしまえば発見はされにくい。

 彼女は予め見つけた人が寄り付かなく、防犯カメラの無い場所に身を小さくして、隠れるようにし乍ら電話を始める。


「フェージャ、云われた通りに抜けて来たけど」

『はい、伝えたものは確認出来ましたね?』

「勿論、もう来てるよ」


彼女は単に人に揉まれていたわけでは無い。組合に諜報役として彼女を借り出したドストエフスキーからの命を遂行していた。内容は、暗殺。


『では伝えた通りにお願いします。処理の方はゴーゴリを呼んでいるので』


通話を切ると、彼女は再び会場に戻る。そして目的の人物にさり気に近づき、声を掛ける。

 相手は中年の男性で、如何にも色に狂っているような気持ちの悪い人物だ。


「初めまして、オリガ・チェーホフと云います」


軽く腕などを触れながら相手の様子を伺う。相手は私の仕事を知っているようで直ぐに乗り気なって、相手から触れて来るようになる。

 夜風に当たりたいと云うと相手は簡単にシャンパングラスをテーブルに置いて庭園へ出てくれた。

 肩を抱かれ、なんとも云えない不快な体臭に対し、顔を歪めないようにし乍ら、あくまで「抱かれたい」という意思を出して庭園の奥へと進む。

 垣根で周りから死角の位置になると男の行動は大きく動く。


「君は外でするのが好きなのかい?」


醜悪な顔を近づけて、チェーホフに粘つくような接吻をする。

 しかし、彼女は途端に浮かべた笑みを消し、ドレスのスリットから短刀を引き抜き、男性の背中に突き刺す。

 刺したあと、短刀をゆっくりと回転させるように更に深く刺す。相手の呻き声を消す為に、口を離さないように開いた片手で相手の頭を押さえ付け、更に重心をしっかり捕らえる。チェーホフの口内に鉄の血の味が広がって来ると相手は完全に力が抜けて、彼女にのしかかるような体形になり死んだ。


「オリちゃん、オリちゃん、回収に来たよ!」


垣根の間から、ドストエフスキーの寄越したゴーゴリが姿を現す。

 彼女はすぐさま、口を離し、短刀を背中に刺したまま、彼のマントの中へ男性を蹴って入れる。其のあと、彼女はとても不快そうな顔で口を動かすので、


「あ、血反吐は此処にね」


ゴーゴリがマントから出したのはビニールの袋。

其処に男からやって来た血液や、唾液やらを吐き出す。そして水を要求し受け取るとうがいを始め、それも袋に吐く。そしてそれもゴーゴリのマントに押し込む。


「服の変えも用意したんだけどいる?」

「……臭いから変える」


男性の血の臭いや、体臭を嫌い着替えを貰う事に。当然、彼女が今まで来ていたドレスと全く同じものだ。

 着替えを済ませて、前の服も彼に押し付け、全ての片付けを終える。


「じゃ、あとは自由だって!あの男性が居ないことに気付かれないように工作は済ませたよ」


工作行動については彼女の役目ではないので、関係は無い事だろうが彼は一応そのことについては教えて呉れた。チェーホフは会場から少し離れた窓から屋敷に戻った。

 一先ず会場に戻ろうかと思っていると、見知った背中を見つける。長身で伸びきったような蓬髪の男。


「エドガー!…えいっ!」

「っうわぁあ!」


こっそり近づいたあと、彼の首筋に手を当てる。外に居たため冷え切っている為相当冷たいだろう。彼は大きく肩を飛び上がらせ、怯えたようにゆっくりと振り向く。


「ちぇ、チェーホフであるか……」

「あははっ!…其れにしても、エドガーが来るなんて珍しいねぇ」


そう云えば彼は扉の数メートル前で右往左往していた。入るかどうかずっと迷っていたのだろう。


「吾輩もそう思う。が、階級的にも出ない訳にも行かない……が、」


彼には矢張り、多くの人が集まる場所は厳しいだろう。チェーホフも本来ではそれ程好きでない場所だ。

 如何しようかと考えているとチェーホフが一つ思い付く。


「よしっ、ふけよう!」

「ぇえ!よ、良いのであるか…?」


背が高いわりに頭が低いというか、ぱっとしないポオにチェーホフは自然に顔が緩んだ。


「勿論!代わりに、他の店で飲もう!そして小説の進捗を教えてよ」


近いうちに日本に向かい、名探偵に復讐する為に書いているポオの小説の話。彼の小説の内容を横流しするわけでもなく、此れは彼女の個人的な希望。

 初めて心の底から好きだと想えた人の生み出す小説を知りたいと思った。


「……内緒にしてくれるか……?」

「とうぜん!」



二人での密かな聖夜が一番幸せに感じる。




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自傷、少しのグロ描写あり。