御伽草子

🐙海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

狼狽

「今日って織田君の誕生日なんだ」


教えた事の無い情報を月宮はさも当然のように云った。彼女の顔は酒が入っているのか少し紅潮している。

 織田本人も覚えていなかった事実を如何して彼女が知ってるのかは最早聞く気もない。彼女は自らを狂信的に崇拝している者たちの援助を受けている。其の為、様々な情報を得ることが出来るらしい。マフィアの中にも狂信者はいるというから恐らく、其の者から伝わったのだろう。


「まあ、特に贈呈品もないけれどね!」


そう云って、隣に座っている彼の背中を軽く叩いた。

 今日の月宮は、焦げ茶色の長い髪の先を緩く巻いている、活発そうな女性に変身しているため、そう云った行動がよく似合う。


「代わりに何か奢ってあげるよ。何が善い?」

「カレー」

「他は?」


判り切った答えに、間髪入れず却下した。今はBARにいるので此処にあるもので、ということだろう。

 織田は無言で悩んだ後、ウイスキイを所望しので、月宮が無邪気に人差し指と中指を立てた状態でマスターに「ウイスキイ二杯ね!」と注文する。

 少ししてロックのウイスキイが二人に出される。月宮はお摘みも頼んでいいよと微笑む。今日の彼女はやけに上機嫌のようだった。

 普段は機嫌の悪い時、良い時が不安定にあり、多少機嫌が悪い時でも織田が一人で居る時には来るのだが、其れでも苛立ちが露骨に判る。


「今日は機嫌が善いんだな」

「まぁねぇ~。今日は早くから呑んでたのもあるかなぁ」


ルパンは今日の四軒目だよと呑気に答える。呑みすぎだな、と織田も呑気に相槌を打つ。

 この二人の会話は少し緩い。時折月宮が自分のボケをつっこまない彼に対してつっこむ程度で他は殆ど簡単に受け流されてしまう。彼女も其れが別に厭ではないからずっと織田が一人の時に通っているのだろう。


「……月宮の誕生日は何時だ?」


織田の質問に「急に如何したの」と珍しい物を見たような驚いた眼差しを向ける。


「奢って貰ったのだから、何か返すべきだと」


女性に何か贈られたら倍以上にして返すべきだと友人に云われていたのを織田は思い出したのだ。月宮は勿論その友人の事も知っているのだが、其の男の話をすると少し機嫌が悪くなるので余り触れないようにしてため名前は出さなかった。


「…あぁ。別に善いわ。どうせ生まれた日なんて昔過ぎて覚えてないもの」

「恨めしい相手の名前と顔は覚えているのにか…?」


彼女が何故千年近く生きている理由を織田は良く知らない。けれど誰か憎くて堪らない人に復讐する為に生きているということだけは本人から訊いているので、其れを口に出した。すると彼女は「関心の度合いが違うのよ」と答えた。彼の質問からか、酒が抜けたように素面に戻っている。


「其れとも……此れからあとでお返ししてくれるの?」


色っぽく耳元で囁いたあと、彼の肩に凭れ掛かった。彼は視線だけ少し彼女に向けた後、ウイスキイに口を付けた。


「気が無いのに云うべきではないと思うぞ。……俺も男だからな」


最後の一言に彼女はさぞ驚いたことだろう。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。そして数秒の沈黙のあと、彼女の大爆笑がやって来る。酸欠で「ひぃ…」と声にならない声を出す始末。そして急に真顔になって云うのだ。「私が本当に女なのかも判らないのに?」

 まるで彼を試しているような発言。其れでも織田は深く考えていないようで考えていることをさらりと口にする。


「月宮にそういう趣味があるなら、俺は付き合うぞ?」

「真に受けないでよ。男とする時は普通に女に変身するわよ……」


凭れ掛かるのを止めて彼女は頭を抱えた。


「俺は女性の見た目をしている月宮でなくても、どんな月宮でも好きだが」


恥じらいも無く告白する彼に月宮は溜息を付いた。そして話を反らす。


「他に何か欲しいのある?」

「……月宮」

「却下」


反らせなかった。




オダサクさん誕生日おめでとうございます!!

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なの様宅「ドス月」をお借りしました!!ドス月+月宮(ほんのり織月)