御伽草子

海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

逢引2

太宰は鼻歌を歌い乍ら錆縹さびはなだ色の襯衣の釦をとめる。今日は完全に非番で昼前から式部と出掛ける事になっている。多忙な探偵社では珍しい休日の逢引に太宰は喜びを隠せずにいた。

 式部とは寮の前の敷地で待ち合わせをしている。太宰の部屋は二階、式部の部屋は一階の端だからだ。

 紺色の上着に腕を通し、最低限の持ち物だけを上着に入れて外に出た。階段を降りている途中から既に準備を終えて待っていた式部の姿が見えた。


「太宰さん!お早うございます」

「おはよう紫織ちゃん。……おやおや」


太宰は挨拶に少し頭を下げた式部の髪や、足元を見て口角を上げた。彼女の髪は何時もと違い、シュシュで飾られているのだが、其れが紺や濃い紫の色。足元のパンプスは濃紺色。今日の太宰の襯衣や上着と少し色合いが似ているのだ。


「……た、偶々ですよっ」


お互い合わせたわけではなく偶然の結果なので、視線の意味に気が付いた式部は少し照れた。頬を赤くさせてぷりぷりと云い訳をしている姿も愛おしく思え、太宰は気にせず表情筋が緩んでいた。


「はいはい。行くよぉ」

「判ってます…」


偶々なんです……と手を繋いで歩き始めても云っていたのだが、二分も歩いているともうそんな事は云わなくなって、太宰の手をぎゅっと握り返して来る。そして先ほどまでとは打って変わり穏やかで愛らしい笑みを彼に向けた。


「今日は何処に行くとか決まってるんですか?」

「無論だとも。今日は二人でお買い物しようと思っているのだよ」


二人でショッピングモールなどには、実は行ったことが無い。太宰は式部に何か買ったりしたいと思っているのだが、式部は自分に財力があるが故に人に買って貰うという習慣がない為、今迄に二人で買い物に行くということは無かった。

 そして式部にはこういう逢引の間で何を買って貰えば善いのか判らない。


「如何いう物なら買って貰っても良いのでしょうか…?」

「何でも良いよ?」


金銭面でも頼ってくれ給え、と太宰は少し胸を張る。すると彼女は目的地に着いてもずっと悩んでいた。




「何でもとは云ったけどねぇ……」


最初に彼女がお願いした店は高級品が並ぶ店。では無く普通にモール内にある本屋だった。


「この前に見つけた作家の新作が発売なんです」


そう楽しそうに分厚い本を抱えて微笑むのでなんでも良いかと思えた。他にも欲しいのは無いのかと尋ねると式部は他に二冊の本を持ってきた。案外と少なくて太宰が理由を訊くと「持ち運びが面倒でしょう」と云われたので「こういうのは私が持つものなのだよ」と云うととても驚かれた。

 寧ろ「此れぐらい自分で持てます!」と少し怒り気味に云われた。そういうことではないのだが彼は特に訂正しなかった。


「次は何処にしよう」


訂正こそしなかったものの、会計をしたまま太宰は彼女に買ったものは渡さない。そして次の場所を訊いた。

 他にも式部が云ったのはそれ程高くないアクセサリー店や小物、雑貨店ばかりだった。


「紫織ちゃんって、少し変わってるよね」

「はい?」


フードコートで注文した天下一品を彷彿とさせるこってり拉麺を食べている式部に太宰は話しかけた。


「普通の女の子って、こういう場面では高い服とか靴とか、化粧品を強請ったりするのだけど」

「別に其れらを欲しくもないのに買う必要は無いでしょう」

「まあそうだね」

「其れに、大荷物だと逢引が楽しめないですし」


彼女はチラリと目線だけを横に向けた。太宰も同じようして横を見ると少し離れた所に大荷物を抱えた男性がいた。その前に其の人の恋人らしい女性がいる。


「あれは極端じゃないかな……」

「そもそもそんなに好きじゃないんです。私は貴方と金目的で付き合っている訳でないし……」


奢って貰うより奢る方が安心します。と彼女は断言した。

 彼女に買った物は全て合わせても少し大きめな紙袋に収まる程で、値段も壱万円超えたら良い位だろう。式部にとっては大した額ではない筈なのに奢られるという行為自体が彼女にとっては慣れないことなのだろう。


「否、全然変わってないや。寧ろ君らしい」


彼女の言葉を判ったように太宰は微笑んだ。そして今度は太宰が行く店を提案した。





彼が提案したのは硝子細工の店だ。様々な種類の硝子細工がある中で太宰はある所で足を止めて其れを手に取り式部に見せた。


「お揃いの洋杯なんて如何だろう?陶器でも良いよね」


形や造形の細工などは一緒なのだが色が違う。多様な色がある中で彼女に藤色の透明な洋杯を渡し、自分は紺色のを手に取る。


「職場じゃなくて家で使う物として欲しいなぁって」


如何?とあざとく尋ねると彼女はすぐに首を縦に振った。

 もう少し店内を見て二人共両方が気に入った柄の物を購入した。透明な硝子に持ち手のついた洋杯で色の付いた硝子が光りを反射して美しく輝いている。


「ずっと前からお揃いの何かが欲しかったのだよね。同居する恋人らしくさ」


帰り道の人通りが少なくなった道で太宰が独り言のように呟いた。「は?」と間の抜けた声を式部は漏らす。


「……紫織ちゃん。私と同居しよう。同じ寮室で暮らそう?」

「え、ま、其れッ……?」


其れを云うために今日買い物に出掛ける事にしたんですか!?と訊きたかったが、問うまでもなく彼の本心はひしひしと伝わって来る。はじ色の瞳は曇りが一切なく見つめて来るのだから。


「荷物は其のままでも構わないから、しとねを共にしよう!」

「そ、そんなことっ…!!大きな声でッ……というか、褥なら既に共にしてるじゃないですか……」


太宰の熱烈な想いに根負けするように彼女は言葉を尻すぼみにしていく。そして顔は茹で蛸のように真っ赤だ。


「はい…同居することに異論はありません……嬉しいです」


顔が真っ赤で太宰とは中々目を合わせてこないが、言葉の通り本当はとても嬉しそうにしている。


「此れからは蒲団並べて寝ようね」

「他意はないですよね…?ね……?」


太宰は答えず、妖艶に笑みだけを浮かべた。




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