御伽草子

海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

林檎飴

夏祭り


夜店などが出る祭りに式部と太宰は参加していた。

 二人は浴衣を着て、手を繋いで夜店を回る。因みに、今は非番なので完全に二人きりである。


「出店のこういう食べ物って美味しいのでしょうか?」

「まあこういうのは雰囲気を楽しむものだからねぇ」


屋台で出る物は衛生上は悪いものが多い。しかし其れをカバーするのは此の祭りの雰囲気。此れのお陰で美味しく感じるものだ。

 式部はこういった出店に縁が無かった為、食べ物以外の店も興味深そうに観察している。一般的な金魚すくいや水風船。射的やくじ、お面も売っている。彼女は飾れるという点でお面を買った。糸目の狐の面だ。其れを顔を直接隠さないように横側にずらして付ける。


「此れは愛らしい狐だ」


太宰は其の端正な顔を緩めた。

 彼は何時も羽織っている外套に似た砂色の浴衣で包帯が胸のぐらいまで続いている事もあって少しはだけている。式部的には少し残念に思ったが此れでもありだ、と思い始めていた。

 彼女の方は藤色の生地に桜が描かれた浴衣で、髪も何時もの一つに結い上げただけのものではなく、三つ編みや編み込みが入った結い上げで、淡い浴衣に合わせて薄い色の簪を指している。彼女が動くたびに簪の鈴のような飾りが涼しい音を奏でる。


「太宰さんも付けますか?」

「私は善いかな…」

「太宰君に紫織さんだ」


二人の目の前に夏なのに黒い上着を着て、黒いスラックス、黒いネクタイ、止めに黒いチョーカーで、般若のお面を付けた黒髪の男が話し掛けて来た。彼の手にはブルーハワイの青色が目立つカキ氷があって、お面をずらし、匙の形のストローで氷を掬い、食べる。


「うわっ……最悪」

「人に向かって第一声が其れとは…君本当に華族の出かい?」


貴方には別です。と虫を潰したように厭そうな顔をして式部は呻るように呟いた。

 太宰にも複雑そうな顔を向けられながらも清原はブルーハワイの蜜が掛かったカキ氷をシャクシャクと無言で食べ進める。


「家でも食べられるカキ氷を態々外で食べるんだ……」

「何を云っているのかな。僕は態々人の多い此の祭りで三百円を出して値段に釣り合わないカキ氷を食べるのが好きなんだよ。自家で食べても美味しくない。他人の家か外が善い」


彼の趣味が複雑怪奇で式部には理解出来なかったが触れるのも面倒で適当に「はいはい……」とだけ相槌を打った。彼は其れも気にせずカキ氷を食べ続ける。


「そう云えば今日は花火があるらしいね。僕は此れ食べたら仕事だけど……其れが終わるまでは帰らない方が善いかもね」


逢引きを楽しみなよ~、と緩く云われ彼は人混みに溶けて行った。彼が完全に見えなくなったあと彼女が呟く。


「判ってたなら話しかけないで欲しかった……」

「紫織ちゃん」


急に真剣な声質で呼ばれて式部は顔を上げた。


「やっぱり私、お面買う」

「へっ?」


清原に会うまでは買う気の無かった太宰が急にそう云い出し、式部と同じ狐のお面を購入した。


「彼が同じようにして付けてたのが気に食わない」


あぁ…?と式部は声を漏らす。確かにカキ氷を食べる為にお面を横に動かして式部と同じようにしていた。其れが太宰の気に障ったらしい。

 彼は態とらしく頬を膨らませたが、式部は其れでも嬉しくて太宰に向けて笑みを浮かべた。


「似合いますね」

「……有難う」


彼は式部の手を更にぎゅっと強く繋いで、嫉妬した事を隠すように歩き始める。そんな想いを汲んで式部は話題を変えた。

 彼女の目に赤い物が入ってきて彼女は其れに釘付けになった。


「あれ……美味しそうですね」


式部が指さしたのは林檎飴だった。割り箸に刺した林檎を飴でコーティングしたもので、赤い其れは艶やかに祭りの光を浴びて淡い光を帯びている。


「あれは食紅で赤身を増してるのだよ」

「そうでしょうけど、好奇心と見た目には敵いません」


手を握ったまま太宰を引っ張って林檎飴の屋台に近づき、一つ購入した。林檎を保護しているビニールを取り、一度飴の部分を舌でちびちびと舐める。確かに林檎の香りと味がする。初めての味に好奇心が満たされたのか、式部は林檎飴に直接口を付け口内で舌を使い飴を溶かしていく。


「美味しい……」

「其れは善かった」

「……でも、」


此れ如何やって食べ進めるんですかね?困ったように眉を下げて太宰を見上げて云う。彼も食べた事は無い為、効率の善い食べ方は知らない。一先ず食べたい所の飴を溶かして少しずつ齧っていく事にした。

 なんとなく歩いていると歩いている子供たちの会話からそろそろ花火が始まるという事を訊いて、太宰たちも花火が善く見える場所を探し始める。式部はずっと飴と格闘しているので太宰が一人で探しているのだが。


「あ、紫織ちゃん。空いてる場所あったよ」


太宰が指さした場所を式部も見る。広葉樹が生えていて、少し影になっている。しかし、屋台や通りから少し離れている為、人は余りいない。

 彼女は飴を食べている所なので無言で頷て太宰に引かれて行った。


「どう?食べられそう?」

「結構飴が手ごわいです……でも美味しいですよ」


式部は飴と睨めっこするように眉を顰める。しかしなんだかとても楽しそうだ。


「私も少し頂戴」


云い切るのが速いか動くのが速いか、彼女の飴を持っている方の腕を掴んで彼女が丁度今、齧っていた場所を太宰が齧る。

 同じタイミングで初発の花火が上がり、辺りを一瞬明るくした。面食らった式部の顔を太宰が、悪戯っ子と妖艶な大人の笑みを足して割ったような太宰の顔を式部がそれぞれはっきりと目視する。

 そして徐々に式部の頬や耳がまるで林檎のように赤く染まっていく。


「え、あ、ま…………ちょ、一寸、飲み物買ってきます…」

「私も行くよ?」

「だ、大丈夫ですっ……次いでに緩んだ帯とか、近くのお手洗いで治してくるのでっ」


式部は彼の手を離し、林檎飴を渡して、小走りで木のある方へ走って行った。恐らく異能でお手洗いの方へ一先ず移動したのだろう。因みに彼女の浴衣に乱れたり緩んだ所は一切ない。

 突然一人になってしまった太宰は渡された飴を見下ろした。彼女の齧った後を見ると飴を溶かす為に舌を使っていた時の光景が脳内に鮮明に思い出される。式部の色っぽいぷるりとした柔らかい唇に触れる赤い林檎が少し羨ましい。赤身を持った桃色の綺麗な舌で丁寧に舐められ溶かされる飴が羨ましい。

 そんな思いで、紺色の空に浮かぶ花火を見乍ら、彼女の口が触れていた場所を次々に齧り始め、式部が二人分の飲み物を買って帰って来る頃には、飴は無くなって割り箸だけになっていた。



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