御伽草子

海棠緋寄⚔️
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葵祭

葵祭。

 京都三大祭の一つで、京都最古の祭り。正式名称は賀茂祭。毎年5月15日に行われている。平安時代以来、国家的な行事として開催されてきており、平安中期の貴族の間では、祭りといえば葵祭のことをさすほど有名だった。

 祭の要である「斎王代」は一般公募あるいはオーディション等で選ばれる事が無く、数千万円と云われる費用を負担できることが条件となっているため、京都ゆかりの寺社、文化人、実業家などの令嬢が推薦等で選ばれている。

 葵祭の事を報道するマスコミは少なくない。5月になると自然に目に留まることになる。探偵社のテナントがある建造物の一階のうずまきという喫茶店に備えられた小さなテレビにも丁度其の祭りを報道した番組が映っていた。


「最近此のお祭りの報道が多いですよね。こうやって話をされても僕には縁遠くて判りませんけど」


敦はカウンター席からテレビを見て苦笑気味に呟いた。彼の言葉に谷崎兄妹や鏡花も頷いた。見るからにお金持ちの華族が主催の気品溢れる祭り。孤児院からの出の敦は勿論、一般家庭に生まれた人にとっては殆ど関係ないように思える祭りだ。京都で更に有名な祇園祭と違い特に出店が出たりなどして人が集まるような日にちが設けられているわけではないからだ。

 敦は特に数千万の費用負担という条件を見て目を剥いた。「生きてる次元が違う…」消えかかりそうな声で呟いた。


「出る方も出る方で面倒だけどね」


敦と同じように苦笑気味に呟いたのはテーブル席に太宰と一緒に座っている式部だった。

 敦は「え、」と驚きを隠せず式部の方に振り返った。彼女は「禊の儀式とか色々大変なんだよね」とテレビを見ながら呟いた。


「え、式部さん、此れに出た事あるんですか…?」

「うん、二十歳はたちの時にね」


探偵社に溶け込んでいた彼女のことを忘れていた。式部は京都の名家の令嬢なのだ。此の報道のように数千万を負担出来る家柄の跡取り娘。其れが式部の横浜に来るまでの肩書だ。


「大学の同年とか先輩とか、葵祭に出たって聞いたし、此の今映ってる子も、多分私の大学の後輩じゃないかな」


判んないけど、と彼女ははぐらかす。彼女の出身校は京都の華族が通う名門校。彼女と同じような家系なら同じ祭りに参加しても可笑しくはない。しかし矢張り敦には其れがとても諸劇的で開いた口が中々閉じなかった。


「では二年前の放送を調べたら紫織ちゃんが見られるってこと?」


太宰が不意に聞いた。式部は見れない事はないんじゃないですかね、わざわざ葵祭の報道を残してる人なんで居ないでしょうけど。と云い彼女はカップに入った紅茶を一口飲む。太宰は何かを思い出すように考え事を始めた。そしてスマホを取り出して何かをやり始めた。

 少しして太宰が式部に向けて画面を見せる。敦たちも釣られて画面をのぞき込んだ。写真はテレビの画面を撮影したもののようで少し画面が汚い。

 其処には祭りの為の化粧と着物をまとった女性が映っており、確かに其れは式部だった。白粉を塗っているためはっきりとしないが目元や瞳の色、顔の雰囲気でそう判断できる。


「あー、確かにこれですね。……それにしても如何して其れが太宰さんの写真フォルダに?」


彼が開けて見せたのは彼のスマホの写真フォルダだ。つまりつい先ほど検索して探し出したわけでは無く、もっと前に其れを持っていてデータの奥から持ってきたという事になる。


「前にネットの波を漂っていたのを見つけてね、咄嗟に保存してしまったのだよ」


何時ものように太宰が微笑むので式部は特に深く訊くことは無く納得した。「けど其れを流した人は矢張り物好きですよね」と式部は呟く。「女性を選ぶ趣向としては似てる所があるね」と太宰は返した。。

 しかし式部は知らなかった。その写真が保存された日にちが二年前の5月16日になっていること。そしてその写真はネットからの保存ではなく彼自身が撮影したものだという事も式部は気が付かなかった。


「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半よはの月かな ってやつだね」


式部は太宰の言葉に小首を傾げてまた紅茶を一口飲んだ。

 彼の穏やかで甘い声で紡がれる和歌は暫く式部の脳内で何度も再生され、口にした本人は思い入れのあるような懐かしい何かを思い出すような淡い笑みを浮かべていた。

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