御伽草子

海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

隠匿

太宰×紫織+中也×朔乃




俺は莫迦だった。

 毎日、幾度とあいつに、引き籠りだの、社会不適合者だの、莫迦、阿呆を連呼していた。確かにあいつは普通に人として生きるには足りないものが多すぎる。だから油断していた。あいつを狙う奴なんかいるわけがないと。朔乃を人質に取られるなんて思いもよらなかった。

 元々、必要な時以外は外に出たがらない奴で、俺が出る任務の時も碌に連れた事が無い。其れで敵に狙われたという事は敵側に情報を流した諜報員がいる事になる。其れかあいつが担当したほんの些細な仕事で遭遇した組織か。

 朔乃を拉致した組織は簡単に判明した。問題は首領が救出することを認めるかどうかだ。


「私は止めないよ。好きに行き給え」


返事は完結だった。助けようをしている俺が云うのは可笑しいがあいつは本当に無能だ。異能も特に珍しいものでもなく、読み書きも碌に出来なくて、色仕事も出来そうにない。そんな無価値な彼女を助けても善いと云っている首領が、今迄の彼とは別人に思える。


「中原君が助けたいなら私は何も云わないさ。私は君が、彼女をどれだけ大事にし、教育をしてきたか見て来たからね」


朔乃が死ねば、今迄俺がしてきたことが無駄になる。首領はそう云っている。

 俺も、如何してあいつを拾って教育してきたのか判らない。腹が立つこともあったし、居ても俺の仕事が増えるだけの存在。其れでも初めて出会った時、直感的に思った。此奴はマフィアとして成長すると。今迄でも何度かそう思う事があった。だからあいつを死なすわけにはいかない。




「紫織ちゃん、誰からの電話?」

「…私の一番嫌いな男からです。救出して欲しい女性がいるとか」


式部の一言で太宰は誰からの電話か察した。そして、依頼内容を訊いた。


「とある非合法組織に、元政府勤めの人の子供が拉致されているらしいんですけど、其の子がまたややこしい立場の子らしくて」


式部は太宰を引き寄せ、耳元で周りに聞こえないように囁く。


「数か月前にマフィアに家族を殺されて、マフィアに引き取られた異能力者なんですって」


拉致されたのは18歳の少女。一家殺害後マフィアに引き取られた彼女はマフィアとしての生活を始めており、異能力者でもある彼女を特務科が密かに監視を行っていた。しかし、数週間前に式部に連絡をしてきた特務科の1人が彼女と接触。政府の中でも暗部に属していた彼女の父親は、マフィアに殺される程の政府の秘密、実権を握っていたため、娘の彼女を特務科は暗殺しようと企んでいたらしいがマフィアは此れを阻止。其の特務科によって彼女は殺害したと報告したらしい。

 そのため特務科では彼女の保護が出来ず、探偵社に仕事を依頼したということだ。


「仕事は彼女を保護してマフィアに返すことです」


面倒な仕事だね。と太宰は呟いた。本当に厭そうな顔をしている。しかし、式部が行くというと彼も渋々、仕事に行くことにした。場所は聞いている為、すぐ行ける。




「糞ッ…あの時、俺は間違ったのか…?」


目の前で倒れて行く敵を見ながら中原は呟いた。特務科の暗殺者に萩原が狙われた時、彼は咄嗟に彼女を庇った。

 あの時、あの行動が中原にとっては最適解だった。結果、相手は彼女の存在を隠匿することを認めたし、上司の1人とも話を取り付けたと聞く。其れでも今此の瞬間で、萩原の事も考えてもあの場で死ぬべきだったのではないかと、直感という本能の後に理性が告げている。

 敵組織の根城最深部に萩原は捉えられていた。敵の首領の前で鎖に繋がれた彼女。荻原の瞳に映っているのは、恐怖でも、中原が来たことへの安堵でもなかった。

 虚ろな、心の深淵を映したような深い紅。其れが彼女の瞳に映っていたものだった。彼の知っている人物を彷彿とさせるような危うさ。若しかしたら此れが中原が彼女を守ろうとした理由なのかもしれない。


「!…なんだ」


中原が彼女の無事を確認したのと同時に建物全体の明かりが一斉に消えた。時間は真夜中。今夜は雲が多く、月明りもなくとても暗い。

 彼の目が暗闇に慣れるまでの数分。周りからは呻き声が聞こえ、周りから感じる殺気が徐々に消え、最後に自分と他3人の気配だけが残り、漸く目が慣れたと思えば照明が回復し、部屋の明るさが戻った。


「手前ら…なんでいる」

「私も好きでいるわけではないのだよ。勿論依頼さ」


太宰は中原に悪態を付きながら持ってきた針金で萩原に付けられた鎖の錠前を外した。

 先ほど中原が見た危うさがすっかり抜けた彼女は太宰と一緒に来た式部に支えられ、中原に引き渡した。


「…ありがとう」

「いえいえ。仕事だからね」


小さな声でぼそぼそと話す彼女に式部は人の良さそうな微笑みを向けた。

著作者の他の作品

うちよそ短編。清原と三九来さん。