御伽草子

海棠緋寄⚔️
@Enph_hiyo12

仮定



22歳→太宰の代役として幹部の一人となっている。太宰が居なくなったあと、彼の感覚を忘れようと色仕事を大量に受けるようになった。彼女の瞳に光が入る事は殆どなく、精気を失ったような暗い目をしている。






単行本12巻のネタバレあり。太宰が入院している病院にて。



静かな病室にヒールのコツコツという音が響き、一人眠っている寝台の傍で其れは止まった。

 ドストエフスキーの策略によって狙撃を受けた太宰は手術の後、此処で安静にするように云われているのを訊きつけ、彼を暗殺しようと企んでいた。

 目を閉じ、組織の長を救うための戦争が起こっている最中というのに、太宰は穏やかに眠っていた。式部は虚無を浮かべたまま彼の胸に短刀を突きつける。


「…懐かしいよ。紫織ちゃん」


彼女の手ごと短刀に触れ、ゆっくりと目を開いた。櫨色の瞳が彼女をしっかりと映している。


「マフィアが私を殺しに来るとは……それ程混戦中ということかな」

「首領は行方不明、恐らく探偵社の社長と戦闘中。もしもの時は邪魔に者全員を殺す事になるでしょう。江戸川乱歩は中也さんと本の中、となると次に厄介なのは貴方です」


淡々と説明するなか、太宰は式部から目を離さない。しかし彼女は太宰をまともに見ない。視線を反らし、見つめ合うことを避けている。


「……私の事なんて見たくない?私の事、嫌い?」

「大嫌いです。この世で一番」


冷たく突き放すと太宰は彼女の手を握る力を強めた。そして力づくで短刀を取り上げようとする。


「紫織ちゃんが私を殺して呉れるなら其れが善い…でもこんな冷たい短刀じゃなくて、愛おしい君の手で私の首を絞めて殺して」


担当を適当にその場に捨てると彼女の手を自分の首に持って行った。漸く彼女は太宰の顔を見た。泣きたいのは式部の方なのに彼もまた泣き出しそうな子供の顔を式部に向けている。悲しさと嬉しさが混じったような、そして今にも涙が零れそうな瞳。

 

「私が穢した君の手で殺してくれ給えよ…」


懇願するような彼の呟き。彼女は彼の上に跨り、もう片手も彼の首に向かわせ首を絞めようと手に力を入れようとするがいざとなると指に力が入らない。


「愛おしい君なんて云わないで。貴方は女性なら誰にだって甘い言葉を吐く。私に嘘を付いて私を穢した!私の想いもっ…全てっ!」


彼女の見開いた藤色の瞳から出た一筋の涙が頬を伝う。無理に力を入れた指は太宰の首を絞めるのではなく爪を立てて引っ掻くような形になった。

 太宰は何も抵抗せず式部を見て彼女の言葉を聞き逃さないように聞いている。


「如何して貴方はあの時私を犯したんですか…如何して……私が貴方を好きでいた事なんて知っていたでしょう!…情けですか…私に情けを掛けたんですか……私は…あんな形で貴方と関係なんて持ちたく無かった!!……嫌い…貴方なんか大嫌い…嫌い、嫌い嫌いきらいきら、い……」


ボロボロと零れる涙のうち一粒が太宰の瞼に零れる。其の粒は太宰の睫毛に吸収されたように見えたが、すぐにまた大きな粒となって彼の眼尻の方から下に流れて行った。


「あの時、君の手解きの相手を頼んだのは私だ。紫織ちゃんは此れから様々な男を相手にする。そう考えた時、私の中で消えない黒い何かが生まれたんだ。付き合っても居ない私が君を縛っては居られない…其れなら一層の事、君の中で私は永遠になるしかない…君の中で消えない永遠。其れは君を穢すことだ。……紫織ちゃんの好意を踏み躙る形になっても私は、君の一番になりたかった」


感情の波を抑えているような掠れた声で話ながら太宰の手が式部の背中に回って彼女を抱き寄せる。


「何時も夢に見る…暗い闇の中で紫織ちゃんが泣いているんだ……泣いて泣いて、私の名前を呼んで扶助を乞う…なのに私が手を伸ばすと君は消えて、泣き声が聞こえて来る、私の名前を呼ぶ声が聞こえる…でも、起きても君は矢張りいなくて、毎日を生きても会えなくて、君の顔が見えなくて、毎日が寂しい……折角漸く、君の顔が見れたのに、現実でも泣いているなんて…私は」


式部は息を呑んだ。寄せるだけで力の無かった手が強まり力強く太宰の胸元に顔を押し付けるような形で抱きしめられてしまった。


「只の嫉妬だったんだ。なのに変に意地を張って、云えなかった。こんな苦しい思いを君にさせるぐらいなら云っておけば善かった……私は、紫織が好きなだけなんだよ…それだけなんだ……」


彼女の身体が震えてる。声を抑えているように嗚咽が聞こえて鼻を啜る音が太宰に届く。彼は彼女の頭を優しく撫でた。子供の頃とあまり変わらない細く柔らかい綺麗な黒髪。乱暴に扱うと壊れてしまいそうな儚さと、昔とは違う、大人の色気というものを持った紫織。


「太宰さん…だざいさん……だ、ざいさ…ん…っ」


彼の胸に縋り、服を掴み、肩を震わせ、存在を求めるように式部は名前を呼び、太宰は返事のように彼女の震える唇に自分のを優しく重ねた。


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うちよそ短編。清原と三九来さん。