空の色は何色か

くらめ
@kurame_eg

エピローグ

 週末、僕はづゆりさんとまたショッピングセンターに来ていた。づゆりさんの服を買い足すためである。これからはずっとうちで暮らすわけだし、もっと必要だということになったのだ。

 いや、でもこれ明日でもよかったんじゃないかなぁ。明日には姉さんも帰ってくるだろうしそうすれば車出してもらえたじゃん。そっちの方が楽だし。

「お姉さん一週間も仕事だったんでしょ? それなら明日ぐらいゆっくり休ませてあげなさいよ。それに明日はご挨拶しなきゃいけないんだからそんないきなり足を頼むなんて度胸私にはないわ」

 え? づゆりさんにも度胸が足りないとかいうことあるの? ちょっとびっくりなんだけど。

「ふーん、じゃあ想像してみなさいよ。そうね、転校生君がこよちゃんの家に行きます」

 うん。

「そこでこよパパと対面する」

 え、ちょっともう無理ゲーな雰囲気なんだけど。

 僕の中でこよパパってやたらと怖いイメージなんだよな。特に娘に近づく男に対して。

「そしてまずはこう言う。『僕はこよいさんと付き合わせていただいております』」

 いや、無理、殺される。

「それからこう言う。『ところで今日この家にいろいろ運び込みたいので車を出してください』」

 馬鹿なの? 無理に決まってんじゃん?

「でしょ? 無理に決まってんのよ」

 いや、でも相手はこよパパじゃなくて姉ちゃんだしなぁ。

「転校生君のお姉さんって絶対転校生君のこと大好きじゃない。体育祭のときとかお弁当作って応援に来てたし。普通高校で弟にお弁当作って応援に来る姉なんていないわよ」

 え? そうなの? 姉弟の体育祭には普通に行くものだと思ってた。

「これだからブラコンシスコン姉弟は……。まあ怖いってことはないんでしょうけど、やっぱり緊張するのよ。あ、そろそろ映画館入れるんじゃない? 行きましょうよ」

 う、うん。

「それに……、車出してもらっちゃったらデートにならないしね……」

 ん? 今何か言っただろうか。

「ううん。別に」

 それならいいのだけど。

 映画は数か月前に公開されたアニメの映画で、今大人気ヒット作として様々なところで話題に上っている作品だ。序盤から中盤に向けてのテンポがよく物語にのめりこみやすかったのと、途中からこの世界に隠された秘密が明らかになっていくのがとても面白かった。なるほど、そう来たかという感じ。

 映画を見終わった頃にはもういい時間になっていて、そろそろ晩ご飯にしようということでフードコートに向かう。

 フードコートの壁一面は窓ガラスになっていて、そこから外の景色が見える。もう外はかなり暗くなってきていて、西の方に沈みゆく太陽が見えた。

「で、何食べるの?」

「そりゃもちろんバーガーよ。先週は結局シェイク飲まなかったからね」

 そういえばまた来ればいいみたいなこと言ってたね。バーガーの方は?

「じゃあベーコンレタスバーガーで」

 了解。

 づゆりさんと一緒にハンバーガー屋さんで並んでいると、先週と同じように小鳩さんがレジをしていた。

「あれぇ、先輩、今日も会えちゃいましたぁ。こんばんはですぅ」

 小鳩さんはいつも通り、太陽のようなスマイルを振りまいていた。もちろん0円でだ。もったいない。

「あれ? そちらの方は……八朔先輩……?」

「いいえ、私はづゆりよ。つゆりじゃないわ」

「そう……なんです? えーっと、あずさは小鳩あずさですぅ。よろしくお願いしますね!」

 そうそう。づゆりさんが僕の苗字を得てからすべての人に認識されるようになったのだ。これに関しては正直どういう理屈で認識されるようになったのか全く分からないのだが、まあ、そのうち峰山先輩にことの顛末を話しに行ったときに相談してみるとしよう。

 ハンバーガーを受け取り、先週来たときと同じ窓際のカウンター席に座る。

 今日はづゆりさんがバニラシェイク、僕はイチゴシェイクだ。

「シェイクってこんなに美味しかったの!? 今まで飲んでこなかったことを後悔したわ」

 それは言いすぎだろ。どんだけ気に入ったんだ。

「ねぇ、転校生君のイチゴシェイクはどんな感じなの? イチゴ味?」

 イチゴっていうよりも赤何号とかそんな感じの味がする。あくまで個人的感想だけど。

「ちょーだい♪」

 うん、やっぱり今の説明で喜んで飲みたがるづゆりさんはおかしい。

 僕はづゆりさんにイチゴシェイクを渡し、反対に僕はづゆりさんのバニラシェイクを受け取る。

 二人してそれに口をつける。うん、やっぱり僕はバニラの方が好きかなぁ。

「あ、そういえば間接キスね」

 づゆりさんがこちらのニヤリと見ながら言ってくる。

 う、一瞬ドキってしたけど、それを悟られたら絶対からかわれる……。

 ま、まあ、本物のキスもしちゃったし、そんな気にするほどでもないでしょ。

「それもそうね。にしても転校生君のキスは下手くそだったなぁ」

 え……。キスに上手いとか下手とかあるの!?

「勢いつけすぎて歯は当たるわ、鼻息は吹きかけるわ。あ、でも唇はプルプルでよかったと思うわよ?」

 そうですか、っていうか結構余裕あったんだな。僕はそんなこと考えてる余裕なかったよ……。

 僕はため息をつきながら、顔を下に向ける。うーん、キス、上手くやるにはどうすればいいのだろうか。

「はい、転校生君、イチゴシェイク返すわ」

 あ、ああ。

 顔を上げて、イチゴシェイクを受け取――

 ると同時に、づゆりさんの顔が間近まで近づいてくる。

 ちゅ

 そんな小さな音が聞こえた次の瞬間にはづゆりさんは元に位置に戻っていた。

 え? 今、もしかしてキスされた!? づゆりさんに!?

 確かになんか唇に触れたような気はしたけど!

「さーあ、どうかしらねぇ、もしかしたら近くで舌打ちしただけかもしれないわよ?」

 それ最悪だなぁ!

 無意識に唇を下で舐める。すると今までづゆりさんのバニラシェイクを飲んでいたはずなのに、イチゴシェイクの味がした。

 ……ということはやっぱり。

 途端に顔に熱が上るのを感じる。

 づゆりさんの方を見るとニヤニヤと笑っていたが、づゆりさんの頬も若干赤くなっているのが分かった。

「ねー、転校生君――」

 づゆりさんが窓の外を見ながら呟いた。

「綺麗な空ねぇ」

 僕もづゆりさんが見つめる空を見る。

 もう太陽は完全に沈み、日の入りの直後の黒よりもほんの少しだけ明るい色が空に満ちている。


 空の色はづゆりさんの髪のような紺色だった。


〈了〉

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