ドンカン女子の恋愛小説

神有 珱
@forcekind

それは3月半ばで、

もうすぐ桜が咲きそうな暖かい日曜の昼下がり。

喫茶店の日当たりの良い窓際の席。

向かい合って座ってる幼なじみの彼が真剣な顔をして言った。


「おまえの事、ずっと好きって知ってる?」

あ、ああ、私も好きだよ。幼なじみだもん。


「…やっぱり。薄々そうだろうと思ってたけどさ」

目の前の彼は呆れてるというか、

いつもの事かとでも言いたげな表情だ。

テーブルに両肘をつき、頭をかかえながらつぶやいた。


「そうじゃない。愛してるって言ってんの」

は?急に何の冗談?


生まれた時から家が隣同士。

お互いの家族構成はもちろんだが、

彼の尻のほくろまで知っているくらいの幼なじみの関係。

学校もずっと同じでクラスも一緒。

もはや仲が良いのか、単なる腐れ縁なのかさえ不明だ。


いつもはお互いの家で会ってるのに、

珍しく喫茶店に呼び出されたから。

私はてっきり彼女を紹介されるものだと思っていたのだ。


イケメンだし、頭もいいし、

性格も温和で、スポーツもそこそこ得意で。

モテ要素満載の彼に、彼女ができないのがいつも不思議だった。

だからやっと彼女ができたのかぁ、

相手はどんな女子かなぁ?と。

どんな子が来るのかとても楽しみにしていた。

のに!その女子が私だとはしらなんだ!


「高校を卒業する前に言ったでしょ?ずっとそばにいたいって」

大学も同じところだったし、隣同士だしねぇ。

就職してもいつでも会えるし?

あ、結婚したらそうでもないのか。

そう考えたら、寂しくなるなぁとは思った。


「前から何回も好きだって言ってた」

幼稚園の頃からずっとだから、いつもの冗談かと。

最近は月に何回「好き」と言ったか数えてたくらいだし。

でも、過去に好きになった人には言ってたんじゃないの?

え?そんな人いなかった?何か…すいません。


「卒業式の後、キスしたじゃん」

…そんな事あったっけ?ごめん、忘れてた。

顔は真っ赤になって、汗が吹き出る。心臓はバクバクいってる。

自分の鈍感さと、彼に対してのすまなさで恥ずかしくなってくる。

さっき頼んだアイスコーヒーが、あっという間になくなった。


「成人式の日、Hだってしたでしょお?」

それは何かの間違いだと…

だってあの時私の部屋で二人っきりでお酒飲んでて、

親も旅行でいなくて何となく雰囲気で…だったし。

だからさ、その責任をとるっていうんなら気にしなくてもいい…


「ちーがーうー!本当に好きなんだってば!」

いきなりの大声でビビった!

彼が言うには、物心ついた時から絶対結婚するのは私と決めていた。

それを昔から聞いてた両家の親は、本当に結婚させようとしていたらしい。

成人式に親たちがいなかったのは、そうなるよう仕組んだという。

何て親だ!

それでも彼の気持ちに気がつかない私も私だ。


「前から鈍感だと思っていたけど、これ程とは思ってなかったわ」

それは異議なし。認めます。

友人からも担任の先生からも、実の親からも言われてるからなぁ。

テーブルをはさんだ彼の前でうつむくしかなかった。


「でも、それだから今まで誰とも付き合ってなかったんだよな」

まあいいかとため息をついて、コートの内ポケットから取り出したのは…


「ロマンチックじゃないけど、これ出さないと本気だと思わないでしょ?」


それは一枚の婚姻届。彼の名前と印鑑は既に記載押印済みの。

証人欄には共通の友人の名前が。

やっぱり私だけだったんだ、知らなかったのは。


「俺、いろいろ考えたのよ?プロポーズ」

やっと本気の好きだってわかったばっかりなのに、

もうプロポーズなの?え?え?意味わかんない!


「…まだ疑ってんの?」

そうじゃなくて、私にとっては急展開すぎて追いつかないんだよ!


「じゃあこれから出しに行こう、婚姻届」

彼がソファから立ち上がって、私の左腕をつかみ店の外に歩き出す。

待て待て待てー!心の準備ができてない!

この状況に気持ちがついていかんよぉ!


「だーめ!今すぐ俺のものにしたいんだもん」

そう言って赤くなってる彼のはにかんだ笑顔を見て、

ふとこのまま流されてもいいか、なんて考えてみる。

彼は修行僧の如くじっと耐えて、

20年以上待ち続けていたのだ。


もし相手が彼でなかったら?

人並外れた鈍感女じゃ相手が気の毒だ。

こんな女でもいいって言ってくれる人は、

後にも先にも現れないだろう。


彼に連れられて役所に到着するまでの間に、

自分と彼とのこれまでの『道程』を思い返してみよう。

そうしたら彼と同じ気持ちになるかもしれない。

だって今、彼の横顔にときめいている。


これからもよろしく。また迷惑かけるかもしれないけど。

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