LOVEandPEACE

イリ
@iri1r1

5

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。

 それから数日後のこと。零と凛がいる部屋に突然、馬超と馬岱が訪れた。

「やっほー! 初めまして! もう知ってるかもしれないけど、俺は馬岱。よろしくねー!」

「こちらこそ! あたしは零。で、こっちが……」

「凛です。よろしくお願いします」

テンション高めにバチンとウインク付きで自己紹介をする馬岱。零は同じようなノリで応え、凛もつられて笑顔になる。そして馬岱の後ろには、その従弟の様子を呆れたように傍観している馬超。手にはいくつかの書簡を抱えている。

「諸葛亮殿からの預かりものだ」

簡潔にそう言うと、それを凛に手渡した。

「これは……?」

戸惑いながら受け取る凛の様子を見て、馬岱がすかさずフォローをする。

「凛ちゃんが読書したいって言ってたのを趙雲殿から聞いた諸葛亮殿が、じゃあこれでもどうぞーってことで、俺たちが代わりに持って来たんだ」

「そうだったんですか……ありがとうございます」

「お安い御用だよー! ね、若?」

「……お前は字が読めるのか?」

おどけながら言う馬岱を完全に無視した馬超は、訝しげに凛に問いかけた。

「え? ……あ……そうですよね、ちょっと待ってください」

凛はそう呟くと、慌てて書簡を開いて確認する。確かに、不思議と言葉は通じているが、この国はそもそも言語が違う筈だ。国どころか時代、そして世界が違う。

「……読めます。すごい……不思議」

「どれどれ? わ、ほんとだ何コレ超不思議」

書いてある文字は全て漢字だった。だが、それを目で追うと、まるで自動で脳内変換されたかのように自然と内容が頭に入ってくる。凛の横から書簡を覗き込んだ零も、感嘆の声をあげる。

「漢文の授業とか全然覚えてないから助かる!」

「ほんとだね。……これ、同じように文章書けたりするのかな?」

「えー、どうだろ?」

「……へえー」

「……」

 笑い合う二人を、馬岱は感心したように眺めていた。馬超としても単に識字の力があるのかを問うただけだったのだが、彼女達の会話からは読み書きが出来て当然という様子であることに、驚きを隠せないでいた。女性でも位が高かったり武将という立場であると読み書きは出来て当然だが、一般の者はあまり習得しようとはしない。女官でも出来る者はいるがそれもごく一部だ。

「とことん不思議な奴等だな……」

諸葛亮殿への報告事項が増えてしまった、と馬超は面倒そうに溜息をつく。零と凛はといえば、まだ書簡を見ながらわいわいと話をしていた。そこに馬岱が何気なく入り込んで、更に会話は盛り上がる。

「しっかし暇だから読書がしたいなんて、凛ちゃんは勉強家だねえ」

「いえ……読書は趣味なので」

「そーなんだ! もしかして零ちゃんも?」

「あたしはほとんど漫画しか読まないよー」

「まんが?」

「え? ああ、えっと……」

言葉を詰まらせた零は、凛に助けを求める視線を送る。凛は少し考えてから簡単に補足した。

「……文章ではなく、主に絵と台詞で構成された物語です」

「へえ! なんだか面白そうだね」

「面白いよー! そうそう、最近読んで面白かったのはね……」

 話はいつの間にか零のオススメ漫画について変わっていたが、馬岱はそれに食いついて更に盛り上がっている。凛は零と馬岱の会話を楽しそうに聞いていたが、ふと、ぼんやりと眺めていた馬超に気付き、何気なく話しかけた。

「馬超さんは普段読書されるんですか? 初めてお会いした時、歴史書を諸葛亮さんに借りたと仰っていましたが……」

「そんなこと覚えていたのか」

趙雲との会話の中で言ったことを、凛は覚えていた。驚く馬超に対して凛はふんわりと微笑み、馬超に続きを促す。

「まあ、そうだな……最近は必要なもの以外あまり読んでいないが、昔はあらゆる書物を読んだな。読まされた、と言うべきか」

「読まされた?」

「ああ」

「…………そうか……そう、ですよね……」

少し考えてから納得したように呟く凛。

「……お前、もしかして」

「ねえ、凛! あの敵キャラ名前何て言うんだっけ? 悔しいけど、どうしても思い出せない!」

 知っているのか。と、馬超が言葉にする前に、零にタイミング良く邪魔をされる。

「え? ええと……」

凛は、馬超の声が聞こえなかったのか、零の疑問に意識を向けていた。

 ーー彼女達は、この乱世のことを知っていた。劉備殿を知っていた。趙雲や俺の出身地を知っていた。ならば、俺と岱が、元々どういう立場であったかを、そして何故今ここにいるのかを知っていても、おかしくはない。

 馬超は行き着いた考えを冷静に捉えきれず、強く拳を握った。幸い、そこにいる誰にも見られてはいない。だが心は落ち着かない。

 馬超があらゆる書物を読むように薦められたのは、父親の後を継ぎ西涼の長となった時に、恥ずかしくないような知識を身につけておくためだ。武を鍛えることも大事だが、学も重要だと常々教えられていた。彼は、今も昔も頭を使うより身体を動かすことの方が好きではあるが、自分がどうあるべきかを考えてそれに向かって行動することは怠らなかった。

 どうしてわざわざ気付かれるような言い方をしてしまったのだろうか、と馬超は自問する。恐らく劉備軍の誰かが相手だったらそんな風には言わなかっただろう。あまり関わりのない者だからと気が緩んだのか、それとも凛の持つやわらかな雰囲気に流されたのか。

 馬超は複雑な思いを抱えつつ、零と話しながら微笑んでいる凛の姿を眺めていた。


*****


「若、凛ちゃんと何こそこそ話してたの?」

 二人の部屋を後にして自分達の執務室へ戻る途中、馬岱は笑顔で馬超に問う。

「別にこそこそしてないだろう。お前らと同じ世間話だ」

「でも途中で若、なんか難しい顔してたよ」

「……」

この従弟は何故こういう時に限って察しが良いのか、と馬超は密かに舌打ちする。馬超が何も言わずにいると、馬岱はそれ以上は追求せず、話題を変えた。

「まあ、でも、若と趙雲殿に話聞いてからずっと二人に会ってみたかったから、俺、嬉しいよ!」

そう言うと足取り軽く先に歩いて行ってしまう。

 馬岱は馬超に対してたまにこういう気を使った行動をおこすことがある。馬超の様子が変わることに敏感に反応し、言葉を投げかけ、反応が有れば話を聞く。無ければそれ以上は無理に入り込まない。

 そして劉備軍の者たちも、必要以上には過去に踏み込んではこない。それは馬超にとって、非常に気が楽であった。

 馬超は自分自身、この乱世でそこそこ名が知られているのは自覚している。そして、今の立場。様々な憶測が飛び交っているであろうことも承知している。だが、突然目の前に現れた零と凛は違う。過去だけではなく、自分の心の内まで知られているかもしれない。そのことに、馬超はただただ戸惑っていた。

 馬岱の背中を見ながら馬超は凛が言っていたことを思い出す。ーー別の世界。その世界の物語の中に存在するという自分は、一体どのような人生を歩んでいるのか。考えたところでわかるはずもないが、彼女に直接聞くことも躊躇われる。

 このまま何も触れずにいて欲しい。そう、思いながら、馬超は足取り重く歩き始めた。