LOVEandPEACE

イリ
@iri1r1

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 次の日の朝。日が昇りきらないまだ少し薄暗い時間帯に、趙雲は零と凛の部屋に向かっていた。

 昨日、趙雲と馬超はあの後すぐに諸葛亮へと報告を行った。諸葛亮も馬超と同じような見解だったため、二人への終日監視は取り止めとなったが、定期的に様子を窺うことは継続されるそうだ。それを誰が担当するかは明確に決められてはいないが、諸葛亮の言動から「拾ってきた責任は取って頂きますよ」という無言のプレッシャーを感じた趙雲と馬超が、必然的に受け持つことになってしまった。零に押し倒され、馬超にからかわれ、諸葛亮に圧力をかけられ、憔悴しかけている趙雲は無意識に溜息をつく。

「……ん?」

 ふと、部屋の前の庭に人の気配を感じた趙雲は、咄嗟に物陰に隠れて息をひそめた。ブン、ブン、と空気を切るような音がする。一体誰だろうと木の陰から覗く。

「……零、殿?」

「んん? あ、趙雲、おはよー」

「おはよう」

にこやかに挨拶をする零に趙雲も思わずつられる。

「どしたの? そんな所で」

「……夜勤明けに通りがかったんだが、不審な物音がしたので何事かと」

夜勤明けというのは本当の話だった。昨晩は趙雲率いる軍が城の内外の見回りを担当していて、趙雲はその帰りに零と凛の様子を確認しようと部屋に立ち寄ったのだ。

「あー、ごめん! まだ凛が寝てるから部屋の中で出来なくて」

零はそう言うと手に持っていた木の棒をひょいと掲げる。何処からか見つけてきたのか程良い太さの枝は、適度な長さに折られている。先程の音は、素振りの音だったようだ。

「てか夜勤とかあるんだ……って当たり前か。お疲れ様!」

「ああ。……零殿は鍛錬を?」

「鍛錬ってほど本格的じゃないけど、稽古は毎朝の日課だから」

「そうか」

 趙雲は、昨日の零の言葉を思い出していた。剣道という言葉は初めて耳にしたが、元は剣術であるという。張飛とのやり取りでその辺りは流されてしまったが、趙雲はやはり武人としてそういう話には興味があった。

「少し見学しても良いだろうか」

「え、良いけど、ただの素振りだよ?」

「ああ。普段どおりで構わない」

「そう? ……え、うわ、めっちゃ緊張する」

零はそわそわしながら木の棒を改めて持ち直す。そしてスッと静かに構えると、緊張すると言っていたのが嘘のように、集中し始めた。

 一、二、三、四、五……

 小さな声で数を数えながら、素振りをする。まだ寝ている凛を起こさないように。

 六、七、八、九、十……

 木の棒が空気を切る音と、零の息づかいが、静寂の中に響いていた。


*****


 趙雲は正直驚いていた。零の動きには無駄が無く、美しい。基本の構えだけでそれが熟練されたものだとわかる。昨日彼女が言っていたとおり、これなら一対一の試合であれば兵卒には圧勝だろう。それどころかひとつふたつ上の階級の兵が相手でも勝てるのではないか、そう趙雲は考えていた。

 やがて百まで数え切った零は、ふうっと息を吐き出し構えを崩して笑顔に戻る。

「こんな感じ。別にふつうでしょ?」

「……いや、大したものだ。そういえば昨日、指導者、と言っていたが、剣道……を教えていたのか?」

「え? ああ、そうそう。毎日じゃないんだけど週に一、二回、うちの道場で教えてたの」

聞くと、彼女の父親が剣道の師範であり、お手伝いと自分の修行も兼ねて門下生を指導することもあるということだった。

「趙雲も、関羽さんや張飛さんみたく皆に教えてるんでしょ?」

「ああ」

 答えながら、趙雲は零の言葉をまた思い出していた。闇雲に武器を振るわせるだけでなく、指導出来る人を育てる必要がある、と。確かに人数が多いと目が届かないこともある。彼は張飛ほど極端ではないが、調練に付いてこれない者がいる状況をある程度は仕方がないことだと思っていた。恐らく馬超や他の将もそういう考えだろう。だが、単なる武力だけではない何かが、この軍を更に強くする可能性を秘めているのだと気付かされた。そして自分もまだまだ人から学ぶことは多いのだろう。

「……零殿のような人がこの軍には必要なのかもな」

そう趙雲がポツリと呟くと、零は目を丸くする。

「え、突然どうしたの」

「あ……いや……」

思わず声に出してしまったからか、趙雲は決まりが悪そうに目を逸らす。

「うーん、皆に指導するってこと? 剣道じゃないから難しいことは出来ないけど、基礎コースならお任せあれ」

「こーす?」

「え? ああ、えっと…………課程?」

「いや、しかしそれは……」

「やだなあ、冗談だって」

零はそう言うとにっこりと笑う。

「そうだ、今度趙雲の調練とか鍛錬も見たいな」

「私の?」

「うん、だって憧れの武人さんだし」

 零の真っ直ぐな視線は、趙雲を戸惑わせる。

「……機会があれば」

「やった!」

そしてその後は互いに一言二言交わすと、零は稽古の続きをはじめ、趙雲は自室に戻っていった。

 その頃には、太陽は昇りきって辺りはすっかり明るくなっていた。


*****


 その日の夜。

「へえ! その子、趙雲殿がそんなふうに言うくらいだから、本当にすごいんだろうねえ」

俺も会ってみたいなあ、と笑顔で言うのは馬超の従弟である馬岱。趙雲は、これから夜勤だという馬岱につかまり、零と凛について色々と話を聞かれていた。彼女達のことは、劉備、諸葛亮、そして一部の武将達にしか知られていない。更にここに来た成り行きを知っているのは、その中でもごく一部だ。

「若は『面倒だ』って言ってあんまり教えてくれないしさ」

「……そうか」

馬超らしい、と思い趙雲が苦笑していると、馬岱は興味が尽きないのか更に質問を続ける。

「もうひとりの子は? その、剣道? ってのはやってないんだよね?」

「そうみたいだな。彼女のほうは、話し方というか、説明や説得が上手だな」

初めて会った日の凛の丁寧な事情説明や、張飛に対し果敢にも真っ直ぐな言葉を投げかける彼女の姿を思い出す。

「へえ! じゃあ軍師に向いてるかもね」

冗談めかして言う馬岱に、趙雲はまた苦笑を浮かべる。軍師は交渉相手などと弁舌戦を行うこともある。如何に自分側に有利な状況を言葉で作り上げるか、そういう力が必要となってくる。凛はどうだろうか。

「そうなるとさっきの子は間違いなく武将だね」

趙雲が答えに行き着く前に、馬岱は零に話題を戻す。零は武将向き。そうだろうな、と、こちらはすんなりと答えが出た。

 だが、それはあくまでもしもの話だ。

 彼女達は戦とはまるで無縁の生活をしていたらしい。親の仇ですら人を殺めることが許されないという。遠くの国では未だ戦の絶えない場所もあるらしいが、彼女達が普段直接関わることはないそうだ。

 この戦乱を終わらせ、目指すべき道の先にある、平和な世。そんな場所から来たであろう彼女達に、わざわざ戦など体験して欲しくない。

「うわっぷ、もうそろそろ集合かな。趙雲殿、ありがとー!」

ひと通り話を聞いて満足したらしい馬岱は、笑顔で手を振りその場を去って行く。それを見送りながら趙雲は、零と凛の今後を案じ、そっと溜息をついた。

 そして、徐に来た道を引き返しはじめる。今朝の零の稽古の様子を諸葛亮に報告しようと思い、彼の執務室に向かっていたのだが、色々と考え事をしていたら何となく気が進まなくなったのだ。

 報告は明日にしよう、と結論付けて、趙雲はゆっくりとした足取りで自室へと戻っていった。