LOVEandPEACE

イリ
@iri1r1

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「おう、兄者達! と、おめーらは……?」

「え、待って、嘘でしょ信じらんない」

 それは張飛軍の調練場に辿り着いた時だった。

 調練を指揮していた張飛がこちらに近付くと同時に、兵の様子を見た零の呟きが、その場にいた全員の視線を集めた。

「……この程度ならあたし楽勝」

 諸葛亮と馬超は、零を視界に捉えつつ瞬間的に凛の表情を窺った。零の真意を凛の態度から見抜こうとしたのだ。そして馬超はてっきり凛が「何言ってるの零……!」などと昨日の森での時のように慌てるかと思っていたのだが、意外にも彼女は平静のままだった。

 張飛は訝しげな顔をあらわにする。

「はあ? 何言ってんだおめー」

「何、って言葉どおり。あの人たちとあたしで一対一なら余裕で勝てるなーって」

「なんだと……!」

睨む張飛を気にもせず、零は兵達へと視線を向けた。

「あー、もったいないなあ」

「もったいない?」

趙雲が不思議そうに聞き返すと同時に、すかさず諸葛亮が零に尋ねる。

「零殿、貴女方の生まれ育った国では戦は無いと伺いました。ですが貴女は兵を見て、楽勝、と。どういうことでしょうか?」

 趙雲と馬超は槍を持つ手に少し力が増す。その場に不穏な空気が流れるが、零は極めてあっけらかんと答えた。

「ん? あたし剣道やってるから」

「剣道?」

「あー、そっか、こっちは剣道無いのか。えーっと……竹刀っていう竹で出来た刀を使って、1対1で試合するスポーツ……じゃなくて、競技、かな。剣術が元になってるの」

「竹の、刀……」

あまり想像がつかないのか劉備が呟く。

「うーん……木刀だったら多分こっちにもあるよね? それと似た感じのものかな」

「……なるほど」

「……剣道ってーのが実際どんなんかいまいちわかんねーけどよ、そんな変な武器使うようなやつで俺様の兵に勝てるなんてあるわけねーだろ」

 痺れを切らしたように張飛は言葉を発し再度睨みつけたが、零はムッとした表情を浮かべる。

「武器は関係ないと思うけど。それによくそんなこと言えるよね。ちゃんと皆のこと指導してるの?」

「はあ?」

「こんだけ人数いるからひとりひとりに教えるのは難しいのかもしれないけど、それなら何人か指導出来る人を育てないと。闇雲に剣とか刀振らせてるだけで強くなれるわけないじゃない。……例えばあの人」

そう言って零は列の端にいる兵を指差す。

「あの人は手の力が足りてない。もっと握力鍛えないと。……それからその後ろの人」

そしてまた指差す。

「あの人は逆に足元ふらついてる。バランス感覚……じゃなくて、うーんと……平衡感覚? は良さそうだからそれでもってるみたいだけど、足腰鍛える為にまず走り込みとかさせないと」

「……ほう」

「……」

一気にまくし立てる零の言葉を確かめるように、劉備達は兵の様子を眺めた。

 確かに、手の力が足りていないと言われた者は何度か剣を落としそうになっており、足元がふらついていると言われた者はどうにかその場に踏み止まっているような状態だった。

「……うるせえ。おめーにごちゃごちゃ言われる筋合いなんかねーよ」

「確かにそうだけど! でもここでやるのは試合じゃなくて戦いなんでしょ。教え方でその人の成長が変わってくるならちゃんとやってあげないと。同じ指導者としてちょっと黙ってらんなかっただけ!」

 ーー指導者。

 零の実家は剣道道場である。そこで彼女は師範代として週に何回か門下生へ指導をしている。

 人の成長率はそれぞれだ。集団での稽古なので限界もあるが、それでも彼女は出来るだけ個人に合わせた指導を行うようにしていた。

 彼女の父親がそうしていたように。

「んだと……! ってーか調練についてこれねえ弱え奴なんざ俺様の軍にいらねーよ」

「違う! そういうことじゃないってば! んもー、何て言えば良いのかな……!」

 ヒートアップする二人の言い合いに周囲は完全に傍観に徹していた。ムキになった張飛は他の者の声をなかなか受け入れないのを知っているし、それに、そんな張飛に食ってかかる零の考えに興味があったのだ。張飛が怒りに任せて拳をあげれば勿論止める。だがギリギリまで彼女の言葉を引き出そうとしていた。


*****


「……私達は本当の戦を知りません」

 睨み合う二人の間に、突然、それまで沈黙を保っていた凛の声が割り込んだ。

「ですが、指導を変えることによって救える命があるのなら、そうするべきだと言っているんです」

「なんだと?」

「劉備殿の大切にしているもののひとつに、民の生活、民の命があると思います」

「……」

周囲は凛の言葉を待った。

 凛は静かに、でもはっきりと言った。

「兵の皆さんはこの地の民でもある筈です。より良い指導で強く鍛え上げてあげることは、その命を守ることにも繋がりますし、ひとりひとりが強くなればきっと大きな力になります。弱いからいらない、なんて命を蔑ろにする考えは、劉備殿の考えに背いているのでは?」

「そうそう! まさにそういうこと言いたかったの! 凛、ありがとー!」

「……うるせえうるせえ!」

 劉備を引き合いに出されて反論出来なくなった張飛は、零と凛を今にも殴りかかる勢いで睨みつけ、叫んだ。

「翼徳」

それを止めたのは劉備だった。

「お前のやり方に口を出すつもりはない。だが、この者達のような考えもあるということを覚えておいても損はないと思うぞ」

「兄者……」

劉備にそう言われて口ごもる張飛。

「耳が痛えな」

「ああ、身が引き締まる思いだな……」

馬超がポツリと呟くと、趙雲も頷く。

 自分だけ強くなっても意味がない。ここは国の一部であり、劉備軍なのだ。将軍として、劉備の為に出来ること。部下の為に出来ること。ひいてはこの地の民の為に出来ること。彼女達の言葉の中には、当たり前のように、普段忘れがちな忠義が込められていた。

 たとえ意とするものが違っていたとしても、彼女達の信念は、彼等の心に強く印象付いた。


*****


 張飛との軽い騒動があったものの、そのほかは特に問題なく調練視察を終えて、零と凛は部屋へと戻された。

 用意された部屋は城の敷地内でも外れのほうに位置しており、あまり人気のない場所だった。なんでも女官や下人の宿舎の一部らしいのだが、今はあまり住み込みの人員がおらず、部屋が余っている状態ということだった。

「んんー! やっぱ関羽さんの武はひと味違ったね」

 思い切り伸びをしながら零が言う。

「でもやっぱり何か言いたそうだったね」

「ばれてた? うーん、張飛さんとこよりはマシだったけど、改善したい部分がちらほら。でもまたトラブるのも嫌だったし。まあ、自分のこと棚に置いといてこれ以上言うのもね。…………むむ?」

凛の言葉に苦笑しながら答えていた零は、何気なく外に視線を向けた。

「どうしたの?」

「んー? また人の気配」

「……監視されるのは仕方ないよ」

「まあね」

どうせなら趙雲が来てくれれば良いのに、と零が笑いながら言うと、凛も笑みを返す。そしてそれからはいつものように他愛もない雑談で盛り上がった。

 一方、外には部屋の中の様子を窺う影がふたつ。

「だとよ」

「そう言われてもな……」

馬超がニヤリと笑いながら隣を見ると、趙雲は困り顏で苦笑する。

 突然趙雲に抱きついてきた零は、この二人へと多大なインパクトを与えた。特に趙雲は複雑な心持ちだった。完全に油断していたとはいえ呆気なく女性に押し倒されるなんて、一軍を任されている将として屈辱的、というか単純に面目が丸つぶれだ。

 そんな彼に馬超は追い討ちの言葉をかける。

「好かれてるんだから良いじゃないか。お望み通りこのまま部屋に行ってやったらどうだ」

「何を言ってるんだ、まったく……暫くからかうつもりだな」

「さあ?」

「……はあ」

わざとらしくとぼける馬超に、趙雲は小さく溜息をつく。自分で招いたことなので強く咎められないのが悩ましい。

「それより、どうする? 俺はもうこれ以上張り付いてなくても良いと思うが」

「そうだな……」

「ああ、でもお前はここに残っても良いかもな」

「……馬超」

軽く恨めしげに睨む趙雲を気にもせずに、馬超はクツクツと笑う。

「ま、冗談はさておき、張飛殿にあんだけ突っかかって目立つなんて、普通の刺客や間者ならやらないだろ。他の場所に自力で行けるとも思えないし、放っておいても害は無さそうだ」

「逆にもう少し警戒したほうが良いような気もするが……」

「そうか?」

「……とりあえず今日のところは戻るか。今後の動きは諸葛亮殿に確認しよう」

「そうだな」

 そう言うと馬超はさっさと元来た道を歩き出す。立ち去る二人に気付かない零と凛の部屋からは、時折楽しそうな笑い声が聞こえる。趙雲は一度だけ振り返ってからもう一度溜息をついて、馬超の後に続いた。