LOVEandPEACE

イリ
@iri1r1

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この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
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「なるほど……」

 ゆっくりと羽扇を揺らしながら、諸葛亮は鋭く目を細めた。目の前には趙雲、馬超、そして見知らぬ女ふたり。すぐ脇には月英が静かに控えている。場所は諸葛夫妻の執務室。先程まで夫妻と数人の文官で軍議が行われていたのだが、趙雲と馬超による急ぎの要件ということで、急遽中断された。

 そして、馬超から一通りの経緯を聞いて、諸葛亮はひとつ溜息をつく。

「それで、とりあえず連れて帰って来たと」

「ああ。こいつらが他に何か知っているかもしれない以上、どうするべきか俺達だけでは判断出来かねたからな」

 そう言うと馬超は、あとは任せた、と言わんばかりの表情で軽く笑いかける。さあ、どうする? と挑発しているかのようにも見えるその笑顔は、馬超の癖なのだろう。これまでも度々、その表情を諸葛亮は目にしていた。

「……そうですか」

 説明された話は信じ難いものである。彼女達は別の世界から来たという。だが、確証がなく、彼女達自身もそれを証明出来ないのが現状だ。こうなると彼女達を信じるか否かで対処をするしかないが、それには圧倒的に判断材料と情報が足りない。

「貴女達はこれからどうされたいのですか?」

「え?」

「貴女達を連れて来たのはこちら側の都合です。それとは別に貴女達の意思を伺おうかと思いまして」

 そう言うと諸葛亮は再び羽扇を揺らした。彼が言ったとおり、彼女達がここにいるのは単に趙雲と馬超が連行してきたからだ。彼女達は恐らく曹操や孫堅など他の勢力の存在を知っている。その中で劉備軍におくのならば、劉備の志す仁の道に賛同してもらわなければならない。

 もし理想が他の場所にあるとしたら、未来を変えうる可能性のある彼女達の存在を、許す訳にはいかなくなる。

 ふたりを探るような諸葛亮の鋭い目線に、凛は思わずたじろいだ。

「どう……と言われても……」

 趙雲と馬超に言われるがままに着いてきたので、凛は、自分達がどうしたいかなんて全く考えていなかった。咄嗟に思考を巡らせる。零に相談したら、きっとここにいたいと言うだろう。何故なら他でもない趙雲がいるから。では、自分は?

 凛は一瞬だけ眼を伏せて、すぐ諸葛亮に視線を戻した。

「出来れば……ここにおいて頂きたいと思います」

「ほう」

それで? と目線で暗に答えた諸葛亮に、凛は言葉を続ける。

「私達はこれから起こりうる出来事を知っています。なので、少しはお役に立てるかと。……ただ、その知識は確かなものではなく、完全なものではありませんが……」

「と、言いますと?」

「先程馬超さんが説明してくださったように、ここは私達の世界での史実とは異なります。たとえ私達の知っている物語の中の世界だったとしても、その物語は、異なる分岐によって何通りもの話がある複雑なものでしたので、ここがどの話の中なのかは判断出来ません。私達は話の全てを覚えているわけではありませんし……」

「……なるほど。物語は……貴女達が知っているこの乱世の行く末は、ひとつではないと」

「はい」

「この時代、この乱世のことは知ってはいるが、本当に起こる出来事があるかどうかは未だわからない。だから、確かではなく完全ではない、ということですか」

「そうです」

 自分の拙い説明が何とか通じたことに凛はホッとするが、まだどうなるかは決まっていない。思案顔の諸葛亮の次の言葉を待つ時間が、ひどく長く感じられた。


*****


 結局、零と凛は翌日まで扱いが保留となった。

 凛は「役に立てる」と言い、その根拠は説明した。だが、何故役に立ちたいと思うのかという肝心なところを言わなかった。

 凛からすれば、それに対する直接的な質問が無かった上に、単に彼等と敵対する理由もないので無意識に省いてしまっただけなのだが、諸葛亮としては何となく躱されてしまったように感じていた。

 いずれにしろその日は劉備が終日不在であった為、諸葛亮では最終的な判断を下せず、話はそこで終わりにされた。

 そして、零と凛が劉備軍に来て二日目。

 ようやく劉備との対面を果たしたのち、昨日に引き続き諸葛亮の尋問を受けていた。

 軍のトップである彼等は何かと多忙な身だが、事情が事情である。昼過ぎからの予定を空けて、細かく二人の話を聞き出していた。

 尋問、といってもそんなに物騒なものではなく、世間話をしているかのような雰囲気で進められた。その中での彼女達の話は、やはりにわかには信じがたいことばかりであったが、二人の言動や表情には偽りが全く感じられない。

 だからといってそれを鵜呑みにも出来ないのだが。

 彼等は暫し話し合った末、最終的に彼女達を劉備軍に留めることを決めた。

 彼女達の持つ、これから起こりうる出来事の情報。昨日、凛が言っていたようにそれは確かなものではなく完全なものでもない。だが、これからのひとつの指針にはなる。彼女達を追放して他軍でその情報を使われるよりは、自軍に留めるほうが有益である、という判断に至ったのだ。


*****


「趙子龍、入ります」

「馬孟起、入ります」

 二人の男の声が部屋に響き、話が中断される。

「おお、趙雲に馬超、来たか」

笑顔で二人を迎える劉備に、趙雲は頭を下げた。

「遅くなって申し訳ありません、殿」

「いや、そろそろ終わりにしようと思っていたから丁度良かった。なあ、孔明?」

「そうですね」

劉備の言葉に諸葛亮は頷き、零と凛のほうに向き直ると、静かに告げた。

「では、今日はここまでとしましょう。先程申し上げたとおり、貴女方はこの地に留まって頂きます。また近い内に話を伺う機会を設けて、今後の待遇を決めたいと思います。それまでは昨日過ごして頂いた部屋で待機していてください」

「はーい」

「わかりました」

 零と凛は素直に返事をした。

 劉備にも諸葛亮にも完全には信用されていないことくらいわかっている。だが、帰る場所も頼れる人もいないこの危険な世界で、安全に過ごせる部屋を提供してくれるだけでもありがたかった。

「では趙雲殿、馬超殿、昨日と同じように彼女達を部屋に送ってあげてください」

趙雲と馬超は一礼し、彼女達を外へと促す。

「では、行きましょう」

「行くぞ」

 部屋に送る、とは良く言ったもので、その実は監視を含めているのだろう。でなければわざわざこの為に将軍クラスのこの二人が来るとは思えない。この場所に来るまでにも、二人の直属の部下を名乗る者が、迎えと称して何人も付き添っていた。

 仕方ないとは思いつつも、凛は息苦しさを感じて密かに溜息をついていた。

「さて孔明、執務に戻る前に、翼徳と雲長の調練を久しぶりに見ておこうと思うのだが」

「ええ、構いません。今日は私もご一緒しましょう」

「えっ」

 部屋を出る直前、劉備と諸葛亮の会話を耳にした零は、ピタッと足を止めた。横にいた趙雲もつられて止まる。

「どうした?」

「調練って、稽古ってこと?」

「まあ……そうだな」

「あたし見学したいな。駄目?」

 そう言うとくるりと部屋を振り返り、二人の反応を窺う。

 劉備は諸葛亮に判断を任せるように視線を送った。おそらく彼女達が他国の間者である可能性は低いのだが、そうではないとも言い切れないのが現状だ。諸葛亮は一瞬の逡巡ののち、ゆっくりと首を縦に振った。いざとなれば将軍が二人もいる。ここは様子見でも良いだろう。

「よし、いいだろう。では趙雲、馬超、お前達も同行せよ」

「はっ」

「わーい! ありがとう!」

 嬉しそうに笑顔を見せる零に、凛は「よかったね」と笑いかける。その姿を視界に入れつつ諸葛亮は趙雲と馬超に目配せをした。彼女達の言動に注意を。何かあれば宜しく頼みます、と。彼等は黙ってその無言の言葉に頷いた。

 そうして零と凛は、兵の調練視察に同行することとなった。