LOVEandPEACE

イリ
@iri1r1

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この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
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 ーー空が、綺麗。

 目覚めた凛がはじめに思ったのは、そんな他愛もないことだった。木々の緑の隙間から見える透き通るような青。ただでさえぼんやりしている頭に、どこか現実味のない景色が広がっている。そこに一羽の鳥が横切って、ようやく思考がはっきりと引き戻された。

 たしか、さっきまで駅前の広場にいたはずだった。待ち合わせ時間ぴったりに零が駆け寄って来て、それまで座っていたベンチから立ち上がった瞬間に眩い光が視界を覆い、突然、意識が途絶えてしまった。

 何故、今、森の中に倒れているんだろう。これは夢なのだろうか。そんな途方もない疑問を胸に、凛はゆるゆると上半身だけ起き上がった。

「やっと起きたか」

 不意にどこか聞き覚えのある声が凛の耳に届き、おそるおそる振り返る。

「……なん……で……」

一歩近付けば手の届く距離に、見覚えのある顔がふたつ。でも実際に会ったことは一度もない。当たり前だ。何故ならーー

「んんー……」

 今度は凛のすぐ傍から声がする。

「零……!」

「うーん……凛……? あと五分……」

「零、寝ぼけてないで、起きて」

凛は、零もこの場に一緒にいたことに安堵しつつ、未だ夢うつつの彼女を揺り起こす。

「そっちも起きたか」

「そのようだな」

 瞬間、ピクッと零の身体が反応した。

「……零?」

ガバッと起き上がり、声の主を確認すると。

「あーーー!! ちょーーうんだーーーーー!!!」

「!!?」

零は、目にも止まらぬ早さで趙雲に勢いよく抱きついた。予想外の動きに完全に油断していた趙雲は、そのまま零に押し倒される。

「わあああああ、ほんとに趙雲だ! 本物だよね? やっぱり超かっこいい……! 会えるなんて夢みたい……って、これは夢?? まぁいいや! どうしよう、超嬉しい!」

「え……いや……あの……」

 至近距離で矢継ぎ早に好意的な言葉を次々と浴びせられ、趙雲は言葉を失っていた。心なしか頬も赤くなっている。

「随分と積極的な女だな」

「あ、馬超もいるー!」

「どーも」

 馬超は、零の下敷きとなった趙雲を見遣り、どうしたものかと考えていた。彼女達に顔と名前を知られている。どこかの刺客や間者という可能性は無くもないが、それにしては殺気がなさ過ぎるし、妙な目立つ格好なので、考えるだけ無駄なような気もする。彼は溜息をひとつついて、それまで座っていた岩から立ち上がった。

 ふともう一人の女を見ると、彼女もどうしたら良いのかと、おろおろとしている様子が窺えた。

「お前は来ないのか?」

「え?」

馬超は手を広げ、悪戯にニヤリと笑う。お前は抱きついて来ないのか、と。

 ただ、その手に、槍は持ったままで。

「そーだよ、この際、凛もいっちゃえ!」

「えええ!? 何言ってるの!? ……それより! 零、そろそろどかないと……」

凛の視線の先には、狼狽えて動けなくなっている趙雲。

「あっ! ごめん趙雲、あたしってば嬉しくてつい! うーん、でもほんとかっこいい!! あー生きてて良かったー!」

「……いえ……」

相手に気圧されている趙雲なんて、戦の中でもそうそう見られない。馬超は、後で存分にからかってやろうとひとりほくそ笑んだ。

 そして、ひとつ咳払いをして、目の前にいる見知らぬ女達を見据える。

「さて、本題に入るが」

馬超の声色が変わるのを感じて、零と凛は目を合わせた。自然と姿勢が正しくなる。

「お前達は、何者だ?」


*****


 何者だ、と問われ、凛は言葉に詰まってしまった。零はといえば、はなから凛に説明を任せているようで、先程と比べて嘘のように大人しく口をつぐんでいる。

 趙雲と馬超の容姿からして、恐らく、ここは無双の世界だ。だが確証はない。単にタイムスリップしてきた可能性だってある。もしかしたら全く別の世界かもしれない。自分達のおかれている状況をどうやって明確化するのか、また、それをどう説明するのか。凛は必死に考えていた。

「……その前に、確認したいことがあります」

「なんだ?」

「ここはどこですか?」

「……新野だ」

 やや間をおいて、馬超は正直に答えた。

「新野……」

 その答えに凛は余計に混乱した。史実では馬超が蜀軍に与するのは成都のあたり。新野といえば、まだ劉備が曹操に追われる前にいたはずの地だ。つまり、馬超がここに趙雲と一緒にいるのはおかしい。

「……お二人は、劉備軍として行動しているのですか?」

「そうだ」

念の為、と劉備の名前を出してみるが、案の定あっさりと肯定されてしまう。史実とは違っているがやはりここは三国時代ということなのだろう。

「そ……」

「そ?」

 凛は、更に他の君主の名前を出そうとしたが、思いとどまる。孫一家はまだしも、曹操の名前は出さないほうが良いかもしれない。目の前で訝しげな表情を露わにする馬超をそっと見遣り、質問を変えた。

「いえ。……ええと、趙雲さんは常山出身、馬超さんは西涼出身でお間違いないですか?」

「……ええ」

「ああ」

 出身の地まで知られていることに驚いた表情をみせる趙雲。馬超も淡々と答えてはいるが、流石に警戒しているようだった。

 空気が、ピリピリしている。重苦しい空気を肌で感じ、身体が震えそうになるのを必死にこらえていると、零がそっと凛の背中に手を添えた。

「凛」

 大丈夫、何かあったらあたしに任せて。

名前を呼ぶたった一言からそんな気持ちが伝わってきて、凛は深く息を吐いた。

 零は、先程のように破天荒なところがあり、周りの人達を振り回しはするが、決して傷付けたり裏切ったりはしない。そして、そういうことを絶対に許さない性格だ。

 だから零がいるなら大丈夫。独りではない。

 凛は、落としかけていた視線を戻し、前を向いた。


*****


 馬超は焦りもせず、だが警戒は解かずに彼女達の様子を眺めていた。質問に答える度に考え込む、"凛"と呼ばれていた女。自分の投げかけた「何者だ?」という問いの答えを探っているのだろう。

 彼女達は閃光の中、突然現れた。この土地に住まう普通の民ではないということはわかりきっている。趙雲に急に抱きついた"零"と呼ばれていた女はともかく、凛はその態度から自分達の置かれている状況に戸惑っていることが窺える。さっき考えていたように二人が刺客や間者である可能性は限りなく低い。しかし、彼女達が何故自分達のことを詳しく知っているのか。それが気がかりなのだ。

 面倒なことになったものだ、と、馬超は再び溜息をつく。それと同時に凛がおそるおそる口を開いた。

「私達は恐らく……別の世界から飛ばされてきたのだと……思います」

「別の世界?」

馬超は眉を顰めつつ、凛の次の言葉を待った。

「はい。何故私達がお二人を知っているかというと、貴方達が歴史上においてとても有名だからです。私達は今いるこの時代から……千年……千五百年以上経った世界に住んでいます」

「……お前達は未来から来たというのか?」

「私達が単に未来から過去にきたのなら、趙雲さんと馬超さんはまだこの新野の地では一緒にいない筈です。史実ではもっと後に出会った筈ですので……」

「史実どおりではないから、別の世界、か?」

訳がわからん、とぼやく馬超に、凛は頭をフル回転させて説明を試みる。ゲームの世界、なんて説明は通用しない。

「私達の世界には、史実を元に、この時代の出来事を題材としていくつもの物語や作品が作られています。中には史実と違う展開や描写をされているものもあります。貴方達はその中のひとつに登場する趙雲さんと馬超さんにそっくりなので……」

「そっくりと言われても本人だしな」

「それは……そうなのですが……」

そう言って黙ってしまった凛に向けて馬超は、困惑と苦笑を混ぜ合わせたような表情を浮かべる。

「まあ、言いたいことはなんとなくわかった。なあ? 趙雲」

「……ああ。……こんなことがあるのだな」

「なんというか、俺らがいきなり前触れもなく、そうだな……こないだ諸葛亮殿に借りた歴史書の世界に飛ばされるみたいなもんだろ。で、目の前にその中の登場人物がいる、とかな」

「……それはとんでもないな」

「まったくだ」

本日何度目かわからない溜息をつきながら、馬超は軽く唸る。

「それはそうと、これからどうする?」

「どうすると言われても……そのような事情なら、ここに放って置くわけにもいかないだろう」

馬超の問いに、やはり困惑気味な表情で趙雲が答える。

「劉備殿と諸葛亮殿にご報告して、どのようにすべきか判断して頂こう」

「そうだな」

 未来からではなく別の世界から来たという彼女達。だが趙雲や馬超、そして劉備のことを知っていたように、恐らく何かしらの情報をまだ持っている。そんな彼女達が自分達にとって有益であるか否かは、ここでは判断出来ない。

「そういう訳だ。お前達には城まで来てもらう」

「……はい」

有無を言わせない馬超の言葉に、凛は頷くしかなかった。だが、こんな森の中に置いていかれるよりは彼等に付いて行くほうがまだ安全である。乱世であるこの時代、野盗やら人売りやらが彷徨いている筈だ。それを考えると、仁を掲げる劉備に与する彼等に最初に出会えたのは不幸中の幸いであろうか。

 何故、自分達はこの世界に飛ばされたのか。

 何故、自分達は趙雲と馬超に出会ったのか。

 これからいったいどうなるのだろうか。

 答えが出る筈も無い疑問をぼんやりと考えながら、凛はもう一度空を見上げる。そこには先程と変わらぬ綺麗な青空が広がっていた。