気まぐれリクエスト①

ブルピン

 さあ、今日も欲しいものを手に入れる為に欺き倒そう。


 最近、世間を騒がしているのは怪盗と呼ばれる職種の人々だった。まるで漫画の中に出てくるかのような派手さと盛大な演出を持ってして現れるそれに警察は躍起になり、狙われた宝石や絵画は市場価格が高騰する。

「ふふっ、今日の獲物は大海の王様だぁ」

海を閉じ込めたような大粒のサファイヤがついた王冠。広い海の王と言われるサファイアは持つだけで水に関する災いを避けることができると言われる代物。

本来欲しいものはこれではなかった。けれど以前にされたことを思えばこの宝を盗むことがアレにとって最高の復讐へとなりゆる。

「さあショーの幕開けと行こうか、青くん」

 ピンクのリボンが特徴的なシルクハットを脱ぎ捨てればそこには目が覚めるような金髪が現れた。さあてと、大っ嫌いなあのクソガキに教えてやるべきことはただ一つ。

やられたらやり返されるという現実を


 大海の王と呼ばれるサファイアがついた王冠、じっと窓の外からそれ眺めながらどう算段を作りたてるかを考える。四方を警備され、なおかつその警備は抜け目がない警部殿が担当だ。しかし、その隣にいる赤い瞳を持つ探偵がいるのを見て少しだけ気が楽になる。ショーを幕開けにするには準備がすべて整わないといけない、その合図をひたすらに待っていると、探偵と視線が絡む。それはすべてのステージの準備が整ったという合図。

「待ってたぜ、レッド」

ギラギラの裏地があるマントを翻し、ポケットに隠し持っていたスイッチを押せば美術館のすべての電気が落ちる。電気で制御された防御ならばその原動力を奪えばいいだけの話だ。ワイヤーで繋いだ窓にそのまま滑る様に破り入れば、警部殿が俺を見て指を指す。

「怪盗ブルー!!!」

「こんばんわ、警部殿………今宵は良い月が満ちていい日だ」

「今日こそお前を」

「残念なことに私は捕まる気持ちがこれっぽちもないのですよ、だからこれだけ貰っていきますね。それでは」

長居なんてするだけ無駄だ。リスクしかない、顔を隠すためとは言え片目を隠して活動をするのは正直に言えば距離感が掴めないから嫌なのだが、相棒であるレッドのように変装が得意というわけでもない。ガラスケースに飾られた王冠を手に、そのまま窓の外へと逃げる。上へと逃げるべく手すりを利用してジャンプして、上へと向かう。その際に下に逃げたように見えるよう人形を落とすのも忘れない。

警報機とうるさいサイレンの音が美術館の周りから離れていく。こんな格好の俺を見つけきれないとは平和ボケもいいところだ。手に入れた王冠から宝石だけを抜き取る。器である王冠なんかよりもこっちの方が目的だ。

「はいレディ、お迎えにあがりましたよ」

純金やら高級なもので構築された王冠を屋根の安定した場所に置いて、手に入れた青い美しい淑女へと挨拶をする。月明かりに照らされたその美しさに魅了されつつも、まだ終わってない仕事を思い出す。

「お久しぶりですね、我が愛しき人」

「相変わらず馬鹿みたいに高い場所が好きだね、青い怪盗さん」

「ああ、愛しき人。これ以上君以外に愛を囁かないさ。だからレディを返してくれ」

「ふふ、嫌だよ。愛しい人なんだろ僕は、だったらさっさと死んでくれないか」

月明かりに照らされた金糸の美しい人は、赤い紅を引いた口元を楽しそうに歪めた。クツリと笑い、口元を隠すように手を当てて微笑む。宝石なんて目じゃないほどに美しい。だから宝石なんてどうだっていいがあの赤い相棒からしたら「腹の足しにならない笑みだろ」と無下にされるだけだ。めんどうな相棒を持ったなと思いながらも、美しいその人が誰にも踏まれたことのない真新しい雪のように綺麗な手には似合わない黒い鉄の塊が握られていた。

「愛しい人、せめて名だけでも」

「うるさいな、僕は君に獲物を横取りされたことを許した覚えはないよ、青いの」

「それは貴方がもたついていたから」

「はあ?何のために僕があの豚に抱かれたと思ってるわけ、お前の為じゃない。もたついてたのはお互い様だろ」

「………聞き捨てならないな?抱かれていただと」

「君さ、僕に夢を見すぎだよ。僕はね、欲しいものが手に入るなら命も処女も何もかも捨てるのさ」

残念だったね。乾いた発砲音と薬莢の香りがして、撃たれたというのを理解した。相手もしてやったりと思ってポケットから青い大粒のサファイヤを出して月明かりに照らす。

「君がね、狙っているらしいって聞いて僕も盗んでみたんだ。可愛くないし欲しいとか思ってないけど、君が狙っているだけあって希少価値は高そうだ。青君」

ああ、でも君はもう死んじゃうから意味無いよね。ヒールで近づいてくるからその独特の足音がやけに耳に響く。地面に接しているから余計に響くのか、そう思っているとひんやりとした指が伏せていた俺の顔をあげさせる。

「バイバイ、あおくん」

「さようならにはまだ早いぞ、怪盗ピンク殿」

「なっ」

「貴方はいつも、最後の詰めが甘すぎます」

頬に触れた手を引いて、そのまま立ち上がれば変装している怪盗ピンクの瞳が揺らぐ。腰に手を回して、支えれば屈辱だと言わんばかりに顔が歪む。これ以上撃たれてはたまらないので、拳銃を握っている手の手首をギリギリと握りつぶさないように力を入れたら血の通わなくなった手では拳銃を握ることが難しいのかぽろりと手から落ちる。

「さあ、愛しい人一緒に踊ろうではないか」

「ふざけんな!!!僕はお前を殺す!!!」

「そんなにあんなくだらないちっぽけな石が欲しいのか」

「くだ、らないッ!!!お前のこんな石の方がくだらないだろ」

「おやおやそんなに怒らないでくれ、俺だってお前に対して怒ってるところはあるんだ」

金へと換える為だけに宝石を集めていると言っても過言でもない。だからこそ、この桃色の瞳を持つ怪盗がこんなに宝石に執着しているのが謎だった。はらりと、金糸のウィッグがずれて、本来の黒い綺麗な髪が姿を見せる。

「誰の許可を得て、その体を他人に暴かれている」

「この体は僕のものだ、どうこう文句を言われる筋合いもない」

「何を言う、こうしてお前は俺の腕の中にいるということは、お前は俺に盗まれたのだろう」

「そういう思考回路サイコパスって呼ばれる所以だよ青くん」

残念だけどもう幕引きだ。逃げるのを諦めたように瞳を閉じたと思ったらその瞬間にバチっと痛みが腹部を襲う。なんだと思って見てみるとそこにはスタンガンを隠し持っていた手が見えた。

「僕の邪魔さえしなければ君なんてどうだってよかったのに」

 いつの間にか着替え、歳の割には似合うハーフパンツから伸びる足がやけに綺麗だと思いながらもぶっつりと意識を失くした。


 怪盗ブルー、大海の王を奪還か!?

 そんな見出しの新聞記事を読みながら、コーヒーを飲む。やっぱり僕だとは報道されてなかった。別に有名になる為に怪盗家業をしているわけではない、金が欲しいからという単純な理由からだ。ただ、それだけだ。

「おはよう、トド松」

「おはよう、カラ松さん」

のんびりとコーヒーを飲んでいると言うのにうざいほどにこちらに絡んでくるカラ松という青年を適当に足らうがどうやら年下の彼は大学の一限がおやすみのせいか、いつものように時間がとか言いながら出ていく様子はない。

「ブルーのやつまた出たんですか?」

「みたいだね」

「そいえばトド松さんってブルーの記事よく見てますよね」

「よく昔から言うだろ」

「何をですか?」

 生きてると絶対にぶち当たる壁。そして正直に言えば僕だってこんな男の情報は極力耳にも目にもしたくはない。けれどそれで避けていれば、何も知ることはできない。情報はすべての武器になり、防具になる。

コテンと首を傾げたカラ松君に、ニヤリと口角をあげて告げる。彼よりも数年生きた年長者としての助言だ。

「嫌いなやつほど気になるのさ」

「…へ…ぇ」

「嫌いだからね、どういう動向、言動、動きをしているのか知れば弱点を知ることになるだろ」

 カップの底に残っているコーヒーを飲み干して、席を立てばカラ松君がもう行くのかという目で見てくる。残念、君ほど暇はしていないのだ。こう見えて、童顔だが成人しているのだから勤労の義務を果たさないといけない。

「お腹、痛めたのかわかんないけど、大学の授業はちゃんと出なよ。それと、注文してくれないなら出て行きな」

「………カフェオレでお願いします」

 話すときにさり気なく腹をかばうその仕草は、まるで腹痛に苛まれている人そのものだ。腹のことを指摘すれば、一瞬瞳を大きくしてこちらを見る。なにかまずいことでも言ったのか、しかしそれでも彼は何も言わずに太陽のようにまた笑う。純粋だなと思いながらも、怪盗ブルーの活躍を盛大に盛って話しを書いた新聞をゴミ箱に捨てた。