Eden of crimson

Story4:夢の中で

「…!……む!……永夢!」


意識が遠い中で、誰かが近くで呼んでいる。永夢にとっては、何だか懐かしい声だった。

そっと目を開けてみると、そこはなんだか見覚えのある公園だった。自分はベンチに腰かけていた。

…その懐かしい声の主は、すぐ隣にいた。永夢はその人物を見た瞬間、心の底の何かがぱぁっと弾けた気がした。


「どうしたの、永夢?いきなりボーッとしちゃってさ」

「…貴利矢、さん…?」


隣に座っていたのは、九条貴利矢だった。

しかし、何故彼がここにいる?彼は数ヶ月前に殺された。よっぽどのことがない限り、生き返るはずかないのだ。


「………っ、ほんとに、貴利矢さんですよね…!?」

永夢はたまらなくなって、思わず泣き出しそうになった。と言っても、とめどなく溢れてくる。

そんな永夢を見たせいか、貴利矢はあたふたと慌て始めた。


「え?何言ってんの?自分は自分だよ?どうしたんだよ永夢、何かあったのか?」

「よかった、よかった…!ここに貴利矢さんがいる…!ちゃんと貴利矢さんの温度が、ここにある…!!」

「ちょっと永夢?大丈夫?何か悪い夢でも見たの?」

「っ…多分、そうです…僕はもしかしたら、ずっと悪夢を見ていたのかも…」


悪夢、ねぇ、と貴利矢は不思議そうに呟いた。


「何の夢を見たかは知らないけど…でも大丈夫だって!ここには何も、永夢を不安にさせるものなんてないからさ!な?」

「…貴利矢さん…」


そうですよね、と永夢は静かに答えた。

貴利矢はそうだ、とベンチを立ち上がった。


「気晴らしにでも、ゲーム屋行かない?自分が買ってやるよ!」

「えっ…いいんですか!?僕のために…」

「いいのいいの!永夢が元気なら、自分はそれでいいの!さあさあ、早く行こうぜ!」

「えっ、ちょ、引っ張らないでくださいぃぃぃ!!」


貴利矢に腕を引かれ、転びそうになる永夢だったが、生きている貴利矢に会うことが出来て、これが夢かどうかはあまり気にしていなかった。

しかし、それでも永夢は半信半疑だった。何か大切なことを忘れている気がする、目的がある…。でもそれが何なのか、記憶が抜け落ちたかのように思い出すことが出来ないのだ。

本当は貴利矢に、「何か目的があるから行かなきゃいけない」と言いたいところだが、せっかく彼に会うことが出来たのに、また離れて会えなくなったら、それこそ彼を二度失うようなものだ。

そう思うとひどく怖くなった。今は、自分の腕を掴んでいる貴利矢の温度が確かに感じられる。その感覚を忘れたくなかった。


「うわぁぁぁぁぁ!?」


一方、飛彩と大我は、先程の怪物に追われ続けていた。

図体がでかい、というのはあながち間違いでは無かったようだ。大我の言う通り、追ってくる怪物は4mはある。それが2人の走る速さと互角なのだ。どれだけ速いかは、予測がつくだろう。


「あれだけでけぇ図体であの速さ…尋常じゃねぇな!!」

「っ…とにかく隠れる場所を探すぞ、無免許医!」

「言われなくても分かってんぞ坊っちゃん!」


とりあえず隠れる場所を探さなければ、こちらの身が持たない。2人は飛彩が先程通ってきたT字路を、今度は逆の方向へと走る。

その先には何も無かった。しかし油断はできなかった。


「掴まってろ、坊ちゃん!」

「な、何をするつも…わっ!?」


途端に、大我は飛彩の身体を抱える。それに飛彩は驚いて思わず悲鳴をあげた。


「おい!!これ以上触るな…っ」

「黙れ!俺に従ってろ!!死にたくないならな!!」


大我はそう答えると、大きく跳ねた。何か障害物でもあるのかと思ったが、障害物より最悪なものだった。

突然床が抜けて、奈落のような穴が開いたのだ。


「えっ…まさか無免許医、このまま落ちる気じゃ」

「その通りだよっ!!だから掴まってろ!!!」

「そんな馬鹿な…!」


2人は重力に抵抗できずに、その穴の中へと落ちていった。怪物の視界から2人の姿が消えると、怪物はふっと消え去った。


永夢は貴利矢を止められずに、そのままゲーム屋に来てしまった。店内では、新作ゲームのPVや試遊台の音声がうるさく鳴っていた。


「永夢、どのゲームが欲しい?」

「え…どれって言われても」

「なんでもいいぜ!ほら、このレースゲームとか、このアクションゲームもいいぞー!!」


貴利矢は店内いっぱいに並べられたゲームを次々に手に取って、その度に永夢に見せつけていた。

どのゲームも、天才ゲーマーである永夢は知っていた。中にはやったことがあるものもある。そのせいか、ゲームを買いたいという気持ちになることができなかった。


「…ん?どうしたの永夢?もしかして嫌だった?」

「え?」

「だって、何か思い詰めたような顔してたしさ…もしかして、さっきの夢のこと気にしてる?」

「……まあ、そんなところです」

「永夢…あまり思い詰めるなよ?」

「…はい」


永夢はそう答えて、ゲーム屋の外へ出た。いつもは慣れてるはずの、あのうるさい音達から何とか逃げ出したかったのだ。貴利矢はたじろきながらも、永夢について行く。


「貴利矢さん、僕何か食べたいです」

「え?いきなりどうした?まさかヤケ食いでもする気?」

「いいえ。少し思い出したいことがあって…付き合ってくれますか?」

「もっちろん、乗ってやるよ!大切な相棒なんだから、当然だろ?」

「そう、ですね…ありがとうございます!」


何か食べれば、少しはモヤモヤが晴れるかと淡い期待を抱きつつ、永夢は貴利矢と共に飲食店へと向かった。


「いってえ…おい坊ちゃん、無事か?」


穴の底は奈落の底ではなかった。真っ暗ではあったが、地面があるように思えた。

大我は飛彩を抱き抱えたまま、飛彩に呼びかけたが、返事はなかった。


「気絶でもしたか…?まあ、あんな高い所から真っ逆さまに落ちてきたしな」


あの穴に落ちてから約10秒で、2人は生暖かい地面の上に着地した。

思えば、明るい穴の入口が見えなくなるほど、高い所から落ちてきて、何故痛みなしでいられるのだろうか。

ふいに、明かりが周りからさしてきた。それによって、有り得ないものが照らされた。

周りを覆い尽くすのは…血の海だった。


「なんだ、こりゃ…!?」


あの生暖かさは、この血の海のせいだったのか。大我は確信する。案の定、真っ白だった白衣も鮮血の色に変わっていた。


「まだこんなに温かいってことは…生き血ってことか?」


これだけの血があるということは、一体どれだけの数の人間が死んだのだろう。大我には予測しきれなかった。

とにかく、気絶したままの飛彩を休ませる場所を見つけないと。そう思い大我は立ち上がって歩こうとした、そのとき。


「っ…ひいっ!?」


突然何者かに、足を掴まれた。慌てて足元を見てみると、青白くなって返り血を浴びた女が大我の足を掴んでいた。


「いのちぃ…あんたたちのいのち、ちょうだい…」

「うわぁぁぁ!!こっち来んなゾンビぃ!!」


お化けなどのそういう類が苦手な大我にとって、これはひどく苦痛であった。女の手を乱暴に蹴っ飛ばし、飛彩を抱えたまま、向こうにあったドアへと一直線に走った。


(こんな所にいつまでもいたら、俺の身が持たねぇ!!)


ドアに近づくにつれて、血の海も浅くなっていった。だが、後ろの方からひどい殺気が漂ってくる。

振り返っては行けないのは分かっていたが、大我はバッと振り返る。そこにいたのは世にもおぞましいものだった。


『いのちちょうだいいのちちょうだいいのちちょうだいいのちちょうだい』


さっきの女のような人間たちが、数え切れないほどに大我を追ってきていたのだ。


「ぎゃあああああああああ!!!」


叫び終わる頃にはドアの前に辿り着いていたので、大我は勢いよくドアを開け放って、入ったら慌てて閉めた。鍵の類は見受けられなかった。


「はぁ…はぁ…怖かった…」

「…全部聞こえてたぞ」

「ひっ!?」


腕の中から声が聞こえて驚いていたら、いつの間にか飛彩が目を覚ましていた。


「お、お前…!いつから起きていやがった!?」

「貴様が『こっち来るなゾンビ』とか言って絶叫してたあたりからずっと聞いてたぞ」

「………………そうか」

「研修医たちには黙っておいてやる。とりあえず早く降ろせ、こっちが恥ずかしい」


底知れない絶望感を感じつつ、大我は飛彩をゆっくりと降ろした。大我は疲れきった様子で、壁に寄りかかる。


「それにしても、さっきの奴らは一体何だったんだ…ったく」

「あの顔…どこかで見たような…」

「あぁ?」

「……独り言だ」


大我が鋭い視線を飛彩に向けてきたので、気に触ったかと思い飛彩は誤魔化す。多分さっきのゾンビたちがトラウマになってしまったのだろう。


「さっきの血の海…まさか、ここに迷い込んだ人間たちは皆ここで…」

「っ!?ということは…被害者は……」

「あぁ。………全員死んだ可能性が高い」


大我の冷たい声が、部屋の中に響いた。飛彩は表情を歪ませる。

一体誰が殺したのだ?エンドベルか…それとも、あの怪物か?一体永夢はどこにいる?何故自分たちはここに連れてこられた?謎が一気に増える。


「こうなったら…意地でも抗ってやろうぜ」

「は?誰に…」

「決まってんだろ。エンドベルと、このゲームに」


これから迫る大きな脅威を、飛彩と大我はまだ知る由もなかった。

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