薊の花言葉

鷲純@一時開錠
@BlackDevil_D

第一話

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◆◇◆◇◆


ヒーロー協会、S級ヒーローに所属するアトミック侍はいつもの強面を更に険しくさせ、同じS級のシルバーファングの持つ道場に足を運んでいた。

S級ヒーロー……いや、もしくはヒーロー協会最年長であろうシルバーファングは"若僧"の醸し出す雰囲気に一目で「ただ事ではない」と察すると、黙って彼を中へ招いた。


「――茶でも飲むか?」

「……ああ」

道場の地べたに胡座をかいたアトミックは眉間を抑え、道場に響くような深い溜め息を吐く。

「いや、やはりいい」

「…………」


シルバーファングは彼の前に歩み寄ると、座りもせずそのまま口を開いた。


「よっぽどじゃな、お前さんがここに来るということは」


言うと、アトミックは顔を上げ、道場を一瞥する。


「シルバーファング、師匠ってのは弟子に頭を悩まされるもんだな」

「弟子を持つっていうのはそう言うものじゃ。……ま、"ワシ等"の場合は ちとやり過ぎたが」


かつて、シルバーファングは一人の弟子が大暴れし、同情の門下生達に再起不能の重傷を負わせたことがあった。その際、師である彼は大暴れした弟子【ガロウ】を半殺しにして破門したという、道場至上最悪の結末を迎えたのだが。今はシルバーファングの道場には弟子が一人しか残っておらず、アトミックはそれを知っていた。

だからこそ、この道場に足を運んだのである。


「俺ンところの弟子は、どうもクセのある者が多い。だが俺は、剣の道を目指す為に来たヤツならば何者であろうと面倒を見るつもりだ」

「…………」

「もしも道を違えちまったら、それを正すのも師だ。それが剣の道であろうと、人の道であろうとな」


アトミックの言葉は、道を違えた弟子を半殺しにして破門したシルバーファングの立場からすれば厳しいものである。前に一度、その事件を聞き付けたアトミックは同じ台詞をシルバーファングに浴びせた事があった。だが、今のその言葉はシルバーファングにではなく、紛れもなく自分に言い聞かせているような、自分を戒めているような言い種だ。


「――アトミック侍よ。己の信じた道を教えていたつもりで、弟子達はそれぞれ別の視点から"その教え"を見ておる。必ずしも、師と同じ視点で見て理解する者だけが集まるわけではない……そういうものだ。

この歳になったワシでも失敗をおかすのじゃ。取り返しのつかない失敗をな。慰めや傷の舐め合いではないぞ。お前さんはまだ先か長い。ならば、こんなところで懺悔していても始まらんじゃろう。

それを一番理解しているのは己自身。休んでる暇なあるなら、お前さんの道場に残った弟子達のところへ行ってやれ」

「―― ああ、そうする」


アトミックは刀を持って立ち上がると「邪魔したな」と一言告げて道場を後にした。そんな彼に、シルバーファングは何も声を掛けなかった。彼が人一倍 弟子を大事にしているのはシルバーファングがよく分かっている事であり「そうする」と言った以上、彼はすぐにでも弟子のところへ駆けつけるだろう。プライドが高く、人の話を聞かない耳の遠い男ではあるが、自分の考えを真っ正面から言われてヘソを曲げるようなヤツではない。彼は、自分の心の在処(ありか)を確かめに来ただけなのであった。


「大したヤツじゃ、あの若僧は」


◆◇◆◇◆◇


彼女はあの日、師匠と共に稽古場へ現れた。


「アザミだ。今度からコイツはお前達の後輩になる。兄弟子として、まぁ仲良くしてやれ」


師匠は基本的、女を弟子にはしなかった。剣の道は男が進むべきものと考えているからだ。彼女の存在はかなり異色であり、その当時 俺たちは彼女を心から歓迎出来なかった。師匠も、俺たちが"こうなる"と分かっていた上で連れてきたのか、それ以上は何も言わなかった。

彼女の方も、俺たちが歓迎しないことを予め分かっていたのか、愛想笑いすら浮かべず「どうも」とただ一言口にしただけだった。


俺たちはアザミを歓迎しなかったが、しかし師匠が何故彼女を弟子として迎え入れたのか、近いうちに思い知らされる事になる。

一人の門下生が彼女に喧嘩をフッ掛けた。俺は途中から来たものなので どういった内容でアザミに喧嘩を売ったのかは分からない(そもそも、俺が始めからその場に始めから居合わせていたのならば道場の中で門下生同士で喧嘩などさせないが)事はすでに始まっていた。アザミの相手は【ソウド】と言う、道場の中では良い実力の持ち主であり、その上にしてプライドが高い男であった。二人の試合という事実上の喧嘩を止める者などいなく、他の門下生達は半ば面白いもの見たさといった風にその試合を道場の端で見ていた。


「何をやっているんだ二人とも!すぐに止めろ!」

「良いじゃないのよ、イアイ」


と言うのは、同じ門下生にしてヒーロー協会 A級3位のヒーローを勤めるオカマイタチ、通称【カマ】だった。


「カマ!お前がいたのにも関わらず、二人を止めないとはどういう事だ!?」

「何だか面白そうなものを見れそうだし、アザミの実力を見る良い機会じゃない? 」


本当はコイツが一番知りたいのだろう、アザミの実力を。そんな勝手な理由で二人の試合を許すわけにはいかない。


「二人ともやめるんだ!」

「止めないでくれよ、イアイ」


ソウドだった。


「俺はそもそも女がこの道場の弟子に入ること自体が気に食わねぇんだ。この際、男と女の差っていうのを見せつけてやるぜ」

「何をバカな……!」


俺の言葉など気にせず、ソウドは続けた。


「おいアザミ、ここでお前が俺に負けたらこの道場から出ていきな。弱いヤツはいらねぇんだよ」


キリヤの勝手なルールに、俺が黙っているはずもなく二人の間に割って入ろうとしたところ。今までずっと黙っていたアザミが口を開く。


「じゃあ、アンタが私に負けたら この道場出ていくってことかい?」

彼女の放ったその言葉に、辺りが騒然とした。

「オイオイ……コイツ、俺に勝つつもりかよ?!」

「アンタも私に勝つつもりだろう?だったらさっさと構えろよ。アトミック師匠が来たら面倒臭いことになるだろう」


せせら笑いを浮かべるソウドを横目に、アザミは黙って竹刀を構える。


「師匠が帰って来る前に終わらせたいからサッサと来い」


彼女は冗談や脅しで言っているわけじゃない。

ソウドを見据える瞳は自信に満ち溢れているというのでもなく、見たこともない闘志で燃え上がっていた。その瞳は、紛れもなく剣士の眼差しだ。

俺は二人の試合を反対していた。だが同時に、彼女の奥底に眠る闘志を見てみたいとも思ってしまう。


「じゃあ、試合……開始!」


我を忘れていた俺の横で、いつの間にか審判として立つカマの合図で試合は開始されてしまった!


先に動いたのはアザミだった。

足元を半歩下げ、竹刀を両手に真っ直ぐ構える。距離を取ってソウドの出方や間合いを計るつもりだ。試合の開始時、相手の出方や間合いを計るのは基本ではあるが、ソウドの剣技は【一撃必勝】相手に"二の手"を見せる事なく敵を倒す抜刀術の持ち主。

ソウドは瞬時に相手の懐に飛び込み、一撃で相手を仕留める。相手の間合いを計ったところで、自分の間合いに飛び込まれてしまっては意味がない。


「勝負ありね」


俺の隣にいたカマがそう言った。

ソウドはすでにアザミの懐へ飛び込んでおり、その竹刀を彼女の胴へ向かって横薙ぎにしていたのだ。容赦がない。いくら練習用の竹刀とはいえ、それでもヤツの一撃は大木を容易くへし折るような重いもの。生身の人間が食らって平気でいられる代物ではない。一切の手加減もない一撃に、誰もが勝負有りと断定した。


俺は その一瞬に目を離さなかった。

普通、得物を突き出されればその痛みを想像し、反射的に目を瞑ってしまうだろう。しかし、彼女の眼は自分の胴体を今にもなぎ倒そうとしているソウドの一撃を注視しており、ヤツの竹刀が身体に直撃するその瞬間。


―― バキッ!


彼女の肘と膝が寸でのところで竹刀を受け止めており、ソウドの一撃を粉砕していた。


「んなっ……!?」


竹刀は真っ二つに割れ、ソウドの武器はなくなった。だが試合は終わりではない。アザミはそのままソウドの胴を竹刀の柄で突いた。そして怯んだところへアザミはソウドの頭上へ自分の竹刀を物凄いスピードで振り下ろす。風を切る音。同時に……ソウドの頭をアザミの竹刀が叩き割る前にそれは宙で細切れになった。


「なぁにしてやがる」


誰もが凍り付いた。


「ア、アトミック師匠」


バラバラになった竹刀を見詰めながら、誰もが凍りつく中 アザミは「もう少しだったのに」などと言葉を漏らす。


「おいソウド!アザミ!俺の許可なく勝手に試合を始めたらどうなるか分かってるんだろうな?」


アトミック師匠は睨みを利かせながら二人を見る。動揺した様子のソウドに比べ、アザミはこれと言って動じる事なく肩を竦めてわざとらしく首を傾げるだけだった。


「二人とも今日から一ヶ月、組み稽古にいれる」

「組み稽古?」


アトミック師匠が何を命じるのか、アザミは何となく想像していたものと違ったようで訝しげな目で師匠を睨み返した。対するソウドは逆に、最悪な想像していたものと内容が違ったのか安堵の表情を見せていた。


「ドリル」


師匠の後から来たブシドリルは、何となく状況を察したのかニッと笑う。


「カマと組んで、ソウドのヤツをビシビシ鍛えてやれ。手加減すんなよ」

「あいよ」

「え!?あたしも!?」


まさか自分が呼ばれるとは思わず声を上げるカマに、師匠は「当たり前だろうが」と一蹴する。


「二人を煽ったお前にも責任があるんだぜ。二人に付き合うのが役目ってモンだろ?」


なにもかもお見通しといった風な師匠にカマはぐうの音も出せずにガックリとうなだれた。

師匠の言いつけになんの抵抗もなく受けたブシドリルは元々、師匠とは別の剣を磨いていた達人だ。教え子を持った事のあるドリルならばソウドの稽古を見るというのは、ワケないのだ。


「覚悟しろよ、ソウド」


というドリルの表情は嬉々としていた。

そんな彼の表情に、ソウドは明らかにイヤそうな顔で答えた。


「アザミ、お前は俺とイアイで見る」


その言葉に、誰よりも動揺したのは俺自身だった。


「俺、ですか?」

「着いてこい」

「は、はい」

一度はイヤそうな顔を見せたアザミではあるが、使い物にならなくなった竹刀を一瞥すると、黙って師匠と俺の後を着いて来た。



辿り着いた場所は、道場から少し離れた滝壺だ。

俺は ここでよく修行の場として一人でここへ来る事があったものなので何の驚きもしなかった。アザミも無関心といった風で、もう使えないであろう竹刀をずっと見詰めている。


「どうした?さっきから」


俺はアザミに声を掛けたが、彼女の代わりに師匠が口を開く。


「―― もう覚えたんだろ?」


彼女に対して放った言葉に、俺は当然 何の事だか分からず二人をマジマジと見詰めた。すると彼女は口の端をニィッ釣り上げて笑う。


「覚えたって、アイツの剣の事ですか?アトミック師匠」


師匠とアザミのやりとりはそんなもので、後は黙々と歩き、俺達は目的の滝壺に辿り着く。



「なんだ、これから滝に打たれて武者修行でもしろって事?」


アトミック師匠はなにも答えなかったが、その代わりに俺たち二人に木刀を投げ渡す。


「組み稽古だって言ったろ。まぁ、二人とも構えろ」

「………」


師匠に言われるがまま、俺たちは構えた。


「どちらかが先に一撃でも食らわしたら終わりだ。時間制限もねぇ。場所はこの滝壺の周囲1キロ以内ならどこでも良い」

「え?それって……」


と、俺が問おうとした瞬間、風を斬る音がした。

なにかが俺に直撃しようとしていたが、俺はその"なにか"を目で確認する前に身体を仰け反らせる。俺の頭があった場所を、アザミの木刀が宙を斬っていた。


「ははっ、惜しい……よく避けたな」


平然と言うアザミを睨み付け、俺は木刀を構える。


「不意打ちとは卑怯な」

「戦いって言うのはそういうモンだろ?甘いこと言うな。―― なぁ、師匠」

「まぁな。だが、今の不意打ちでイアイを仕留めきれなかったお前もまだ甘い」

「ふん。同じ弟子でも、イアイには甘いなアンタも……――」


―― ビュッ


戦いというのが"そういうもの"だと言うのならば俺は不意打ちを惜しまず、容赦なく繰り出した木刀の切っ先はアザミの眼前に迫った。

やはりアザミはその切っ先から一ミリたりとも目を放さず、しかし不意打ちというのもあってかソウドの時とは違って攻撃を受け止めず、紙一重のところで俺の一撃を避けた。


「制限時間やルールは設けねぇが、殺し合いだけはするなよ」


師匠の言葉を耳にするも、俺は返事などしてる余裕はなかった。なぜなら、アザミは俺の二撃目が飛ぶ前に滝壺の周りに生い茂る木々の中へ身を隠して行ったからだ。彼女が俺の前から姿を消したあかつきには闇討ちが来るのは目に見えていて、そうはさせまいと俺は彼女から目を離すわけにはいかなかった。


早い。

ランダムに生えている木々は全力で走り抜くには難しく、そんな中をアザミは まるで昔から遊び場にでもしていたかのように慣れた足取りで進んで行く。俺は辛うじて彼女の姿を捉えて走っているも、少しでも減速しようものならば見失ってしまうだろう。


「!」


木々を越えると広く空いた場所が見え、不意にアザミは立ち止まった。いや、立ち止まったというよりかは"急停止"した。俺は木刀を構えてアザミの攻撃に備えるが、広場に近づいた俺は何故 彼女が急停止したのかすぐに察することとなる。そして"それ"を目撃した瞬間、俺もアザミも頭上に向かって振り落とされる斧のようなモノを横飛びでかわした。

ズンッという鈍い音と同時に地面が大きく揺れる。

俺の目に映ったのは、牛の頭を持つ巨体。大きく鼻息を荒げさせ、人間の倍以上はあるであろう斧を地面から引き抜いた。


「怪人か……!」


咄嗟に斬りかかろうとするが、アザミは俺の手に持った木刀の柄を抑えて言った。


「落ち着きなよ、イアイ。アンタは得物が"こんなん"で戦えるのか?」

「だが、今はコレしか持ち合わせていない以上はどうしようもない」


と、巨大な影が動き出す。

怪人は目の前のハエでも振り払うかのようにして闇雲に斧を振り回し、辺りの木々を一掃。まるで模型のように軽々と薙ぎ倒され、俺とアザミは斧や倒れ行く木々をを避けながら怪人との間を取った。


「あんな怪人を放っておくワケにはいかない。街にでも出て大暴れされては市民に危害が及ぶだろう」

「私だって、ンなことは分かってるんだよ。だが今の得物で馬鹿正直に正面から戦おうにも、あの斧の餌食にされるのが目に見えてる」

「なんとかしてアトミック師匠を呼ぶか……それとも、

得物を取りに行くか」


俺の提案を、アザミは鼻で一蹴する。


「つまり、その為には どちらかが囮になってヤツを引き付けることになるんだよな?」

「囮なら俺がなろう。例え命に代えてでもここを死守してやる」

「却下」


―― ズンッ!


またも斧が降り下ろされ、俺もアザミも互いに一歩下がってギリギリのところで攻撃を避ける。


「ヒーローやってるヤツって言うのは、そもそもどうして大概が自己犠牲型なんだ?テメーの命をゴミとでも思ってンのか?」

「何が言いたい?」

「無駄な犠牲払っても"しょうがない"と言ってるんだ。二人で木刀一本ずつじゃ勝ち目はないが、頭を使えばこんな牛ぐらい簡単に降ろせるだろう。怪人と戦って華々しく散ろうとか考えてるんじゃあないぞ、このマヌケ。アンタは師匠の何を見て剣の道を目指してるんだ?その少ない脳みそで少しは考えてからモノを言いな」

「――……」


俺はつい今まで彼女を勘違いしていた。

アトミック師匠が何故 アザミという人間を弟子に迎え入れたのか。俺はてっきり彼女の剣才を見込んで弟子に迎え入れたのかと思っていたが、そうではない。確かに剣才はある。門下生として入って来た当初から俺やカマ達と並ぶぐらいの実力があり異常な成長の早さを見せてはいるが、アトミック師匠が彼女を門下生として受け入れたのは"見詰めている先"が同じなのだ。

もしもここに同じ状況で師匠がいたのならば、もしかしたらアザミと同じことを言って俺を叱りつけたかもしれない。


「アザミ、お前の策を聞こう」

「ああ、聞かせてやるよ」





イアイとアザミは林の中に身を隠した。

二人の姿を見失った怪人【ミノタウロス】は大地が響くような声で咆哮をあげると木々を無闇やたらに切り倒し、消えた獲物を探す。

二人の動きは中々にして素早く、目で捉えた時にはその場から姿を消している。パワーはそこそこあったところで、標的を捉えられない以上は意味がない。ミノタウロスは苛立ちに声をあげると、斧を持った腕にありったけの力を込めた。木々の葉が揺れ、二つの影が交差する。

ふと、背後から何かが飛んできた。

目線の端でその影を捉えると、ミノタウロスは自分へ向かって飛んできた影に向かって その巨大な斧をフルスイングさせる。

金属のような何かが一瞬にして切り裂かれ、物凄い風圧がで大木の群れが消し飛んだ。


「!?」


斧が捉えたのは、イアイの装備していた甲冑を纏った変わり身である。無機質な音を立てて甲冑が地面へ落ちると、同時に別の方向から影が飛び出して来た。本物のイアイとアザミである。

斧を振り抜いた後のミノタウロスは隙だらけであり、二人の滑降の標的となった。


「「ォオオオオオオオオッ!!」」


木刀を構えた二人は がら空きになったミノタウロスの膝の裏を狙い、ありったけの力を込めて振り抜いた!


―― バキッ!


二人の振り抜いた木刀は折れた。

そしてミノタウロスの膝もガクンと折られ、後ろへ向かって大きく倒れと大地が縦揺れを起こし、砂埃が舞い上がる。

突然の奇襲に受け身を取ることも出来なかった気を失ったミノタウロスは、目を覚ます事は一生ない。何故なら、イアイとアザミがミノタウロスを気絶させたところで巨大な斧を使い、その首を両断したからであった。



「―― まさか、気絶までしてくれるとは思わなかったな……愚鈍な怪人で良かった」


しれっと言いながら、アザミは真っ二つに折れた木刀を拾い上げた。


「呆気なさすぎて逆に拍子抜けしてしまったがな」

「フン、自分がどれだけ下らない事に命を掛けてたか思い知ったか?」

「……まぁ、な」


とは言うものの、こんな簡単に怪人を相手に木刀で勝てたのはアザミの策があったからである。もしも俺 一人ならば、どう戦っていたのだろうか想像出来ない。命を掛けて戦ったところで今の怪人を倒せていたかどうかなど……。


「アンタ、難しいコト考えてる時って本当に分かりやすい顔するよな」

「え」


気づかぬうちに、アザミの腕が俺に向かって指し伸ばされていた。殺気もない、あまりにも流れる動作に俺は成す術もなくアザミに胸ぐらを捕まれ、そのまま引き寄せられた。


何が起きたのか分からない。

気が付いた時には俺の唇とアザミの唇が触れ合っていた。


「おい、二人とも無事か!?」


そしてアトミック師匠の声が聞こえた途端、アザミの唇が離れ、俺の頭に何かがぶつけられた。突然の痛みと衝撃に俺は思わず「痛ッ!」と叫び、同時にアザミがしてやったかのような顔で言った。


「いっぽォーん!」


そういえば俺は忘れていた……まだ組み稽古の最中、試合が終わっていなかった事を。


「お前っ、卑怯だぞ!」

「油断したヤツが悪い」

「デケー音がしたと思ったが、怪人と接触した上に木刀だけで倒し、さらに試合の決着も着いたって事か」


木刀で打たれた頭を抱える俺を見て師匠は溜め息混じりに言う。


「アザミ、もう一度だ!こんなもの試合とは言わせんぞ!」

「勝負に二度目はないね。今のが真剣なら死んでた」


アザミは割れた木刀を手の上で弄びながら俺と師匠に背を向け「先に道場戻ってますわ」と一言。そんな彼女の背に視線を向けながら、アトミック師匠は口を開いた。


「まさか、アザミに油断したワケじゃねぇな?」

「……」


不意とは言え、それでも油断してしまった俺に言い訳など出来ない。質問に対し、黙殺する俺に師匠は何の言葉も掛けなかった。呆れられているのだろうか。


「イアイ。お前がアザミの事をどう思ってるか知らんが、俺がアイツをココへ連れてきたのには理由ってモンがある」

「アザミは怪人を前にして無闇やたらに立ち向かおうとした俺を止め、叱りつけました。まるで師匠……あなたのように。俺は彼女の言葉を聞いて、きっと師匠も同じようにして怒鳴り付けたのだろうと……そして、師匠の見据える先をアザミも同じ目線で見つめているのだと思いました。―― それが、彼女を弟子にした最大の理由ですよね?」

「アイツがそんな事を言ってたのか…………?」


師匠は驚いた顔で俺を見つめると、途端に声を上げて大笑いた。


「ま、お前がそう思うならそういう事にしといてやるよ!それにしても、アイツがそんな事を言うとは……俺はアザミを少々見誤っていたのかもしれねぇなぁ」


その時、俺は師匠の言葉の意図というのがよく分からなかった。俺の思う"アザミを弟子にした理由"っていうのはどうやら的外れも良いところだったらしく、だがアザミを弟子にしてからピリピリしていた師匠の空気が、どことなく和らいだのは確かだった。


「道場に戻るぞ、イアイ!勝負に負けたんだ、今日はお前が掃除当番やれよ」

「………はい」


アザミ……驚異的な成長スピード、師匠に一目置かれている実力、ズバ抜けた戦いのセンス……俺は、彼女に前よりも少しだけ興味を抱き始めた。




「そういやお前、初チューの感想聞かせろよ」

「えッ!?見てたんですか!?」

「見られてねぇと思ってたのか?」

「―――~~~ッ!」




つづく