リクエストボックスネタ

苓 ほまれ
@homare_ryou

テプンとエリック


「兄弟なのだから、もう少し交流を持ってみたらどうなんだい?」


 テプンに告げられた言葉だった。

 父親で義理立てをしているユンソンに向かって顔をあげたテプンは、暫くニコニコと微笑んでいる父親を眺めてから、戸惑ったように「……はい」と頷く。

 すぐ隣で同じように困惑したようにユンソンとテプンに視線を往復させたエリックが、眉尻を下げた表情でテプンを見た。


「もういいよ、二人ともお疲れ様」


 ユンソンが優しくそう続けたので、テプンが深いお辞儀をしてから転じた。

 慌ててエリックがその後ろに追いつく。




 ――これはまだ、テプンが17歳でエリックが16歳の頃の話だ。




 エリックに与えられた部屋に入ったテプンは、久々に入る立場上弟の室内を見渡して随分と簡素な部屋だと思った。

 身長に合わせたベッドはテプンの部屋にあるものよりも大きい。

 デスクにはパソコンといくつかの書類。

 DVDプレイヤーと積まれたドラマのパッケージ。

 本棚にはテプンも見慣れた教科書を含めて推理小説や人体構造についての書籍などが並んでいる。

 ユンソンの言葉通りに、エリックと交流を持とうとしたのはいいものの、言葉が出ないテプンは、暫く手持ち無沙汰に周囲を見渡す。

 エリックはいまだ戸惑っているのか、視線をあちこち彷徨わせてからベッドの上に座った。


 ――同じ場所に座りたくはなかった。


 テプンは床に座り込み、二人の間に沈黙が走った。

 会話の無い空間の中、エリックが唇を震わせる。


「テプン……お兄ちゃん? あの、別に父さんに言いつけたりはしないから……自分の部屋に戻ったら?」


 無理はしなくてもいいと告げたつもりのエリックは、だんまりを決め込んだテプンに意地を張っているなぁと少しだけ呆れを持った。

 気まずい沈黙が風のように流れたかと思うと、テプンがいきなり床に寝っ転がったのでエリックはぎょっとした表情を浮かべた。

 ぐっぐっと腹筋を鍛える運動。


 ――や、やる事ないからって筋トレしだしたぞ!?


 義理立てにも程があるというか、ユンソンの言葉に従うのはいいが、せめて自分の部屋でやってほしい。

 ふん、ふん、と気合を入れて筋トレしだしたテプンに、靴を脱いでベッドの上で体育座りして暫くそれを眺めていたエリックは、心の中でため息をこぼした。

 ユンソンも、こうなることは理解していた筈だ。

 でもあえてああやって言葉を〝テプン〟に 投げかけたのは、テプンから行動を起こさせる必要があると見たからだろう。

 なかなか酷なことをする人だとエリックは思った。

 普段エリックと必要以上の交流を持とうとしないから、人の部屋で筋トレをするテプンという貴重な図を見れるのはいいが、下手したら夕食の時間まで居座られるやつだ。

 これでは落ち着いてドラマも見れない。

 暫く無言でテプンを眺めていたエリックは、ベッドの脇に置いている小さな冷蔵庫に手を伸ばすとスポーツドリンクを取り出した。


「お兄ちゃん」


 声をかけて、ボトルを投げる。

 パシ、と小気味よい音を立てて受け取ったテプンが、投げ渡されたのが何かをラベルを見て確認したのち、エリックに視線を合わせることなく蓋を開けた。


「――ありがとう」


「うん」


 ぐびぐびと冷たいドリンクを飲む姿を暫くじっと見つめていたエリックは、視線を逸らしてベッドの上に寝転んだ。

 夕食の時間までまだ四時間もある。

 その間テプンはこの部屋から出て行かないだろうから仮眠でも取ろうとジャケットを脱ぎ捨てて楽な姿勢を取ったのだ。

 ボトルが床に置かれた音が小さく鳴った。

 エリックが目を瞑るのと同時に、テプンが筋トレを開始したらしく鼻息がエリックの耳に届いた――。





    ■



「なんてこともあったよねぇ」


 ユリに向かって軽く会釈するような素振りをしながら笑ったエリックに、なるほど。とユリが頷いた。

 デヒョプとテプンが喧嘩禁止令を喰らって、二人して無言でそわそわしていたところ、テプンが筋トレをはじめ、それに追い縋るようにしてデヒョプも筋トレをはじめ、二人して極限の筋トレ勝負を開始した姿を見ていてふと思い出したかのようにエリックが告げた話に、ユリが筋トレする二人に視線を向けた。


「男の人って、そういうとこあるわよね。デヒョプも手持ち無沙汰になるとたまにそういうわけわからないことするわよ」


 そうだね。と肯定しようとして、その男の人に自分が入っているのかわからずに一瞬戸惑ったエリックは、少しだけ考えてから笑みだけ浮かべた。


「少し、君のボーイフレンドが羨ましいよ」


「私も、貴方のお兄さんが少しだけ羨ましいわ」


 二人は視線を合わせると、くすくすと笑いだしたのだった。

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