こちら白暗商店街

翠色 只今小説執筆中
@sheld3358

第4話:厨房員登場! その1

「う~ん…。」

平日の喫茶店は原則店長のタクミが学業のため休みとなっている。

『CLOSE』と書かれた看板が掲げられている店内ではカウンターに座ってうんうん唸りながらカムイが手持無沙汰と言わんばかりにペンを回していた。

そこにガチャリ…とドアが開き、タクミが店の中へと入ってくる。

「おう、タクミか。」

ドアの音に気づいたカムイが彼女に向って『よっ』と軽く手を挙げる。

それに応えるかのようにタクミもまた『よ』と小さく手を挙げた。

「どうしたのさっきから?うんうん唸ってたけど考え事?」

首を傾げてタクミは尋ねるが、カムイは無言で頷き、机の上で広げていたノートの表紙をばっとタクミに見せてくる。

ノートには黒いマジックで大きく『喫茶店改造計画』と書かれている。

「…まるでマンガやゲームに出てくるロボット改造計画みたいなタイトルだな…。」

あまりに厨二的なタイトルにタクミは少し引きながらもしげしげとノートを眺めている。

そんな彼女の様子とは対照的にカムイはフフンと得意げに鼻を鳴らしている。

「聞いて驚け!このノートには俺達の店を大きく変えるための秘策が書かれてあるんだ!!」

バっとノートを高らかに掲げ、カムイはまるで宝の眠る場所を教える地図を発見したかのように高揚した様子で叫ぶ。

「この店を大きく変えるって…リフォームでもする気?」

訝しげな表情のままタクミは首を傾げ、あからさまに胡散臭い物を見るような目でノートを見ている。

すると先ほどまでの高揚した様子はどうしたのか、カムイはじとりと興が覚めた視線をタクミに向けた。

「リフォームって…自給ウン百円の俺がそんな金持ってると思うか?」

とカムイが尋ねると

「思わないから聞いてるの。」

間髪入れずにタクミからそんな答えが返ってきた。

やっぱり、という言葉を飲み込んで、カムイは一度咳払いをして、改めてノートをタクミの目の前に差し出した。


「簡単にいうと、このノートには喫茶店を発展させるためのアイデアを書き留めてあるんだ。」

この喫茶店の発展させるとなれば、当然タクミが興味を引かない訳がない。

「アイデアか…具体的には?」

タクミが食いついてくれたのが嬉しいのか、カムイの口角は少しだけ上がる。

「俺が来てからこの店の売り上げも客からの評判もうなぎ上り…という程ではないが少しずつ上がってきている。そして段々俺達二人だけでは店を回しきれない程に最近はなってきている。」

うんうん、とタクミはゆっくりと相槌を打つ。

確かに最近は客足も多く、二人で回すのが大変だった時期もある。

だから新しくアルバイトを募集してみようかと話していた時だった。

「もしかして…アイデアって新しいアルバイトを雇うって事?」

とタクミが聞いてみると、カムイはフフンと得意げに鼻を鳴らして『いいや』と言わんばかりに首を横に振る。


「俺のアイデアはアルバイトを雇うだけじゃねぇ…思い切ってランチを始めてみるか!という事だ!!」


「えぇっ!?」

カムイの突然の発言にタクミは思わず素っ頓狂な声を上げた。

確かに、ウチは主に珈琲やそれに合うスイーツが主な専門で、それ以外だったら精々サンドイッチの類等の軽食が中心だった。

だがよく考えてみたら、ここは駅ビルの一室を借りて使っているし、何より周りにはオフィス街というほどのものではないが様々な職場が存在している。

それに今の時代、土日も出勤している社会人など珍しくもなんともない時代だ。

土日祝日しか開店していないこの店にもランチがあればさぞ利便性が増すであろうことはタクミにも要として知れた。


それに…以前この店で珈琲を飲んでくれたサラリーマンと思しき男二人が、会計を済ませ、タクミ達に背を向けた時、

『ここでもランチとかあったら、すごく有難いのにな。』

と会話していたのを、タクミは朧気だが覚えていた。

確かに、この店でランチを扱えたら近隣のサラリーマンたちも有難いと思うだろう。


だがしかし、しかしだ。


「ランチを始めるって話は僕も賛成だ。でも調理する人がいないよ。」

と言ってタクミは軽く手を挙げる。

自分は一応料理は出来るが、お客に出せるような腕ではない。

かといって手料理と称して黒焦げの炭のような物体を更に出してきたこの自称神様に厨房を任せるなどもってのほかだ。

軽く唇を尖らせるとカムイはちっちっちと人差し指を自分の顔の前で振る。

「だから新しくバイトを雇うんじゃないか。」

あぁ、そういう事かとタクミは納得したようにうなずいた。

自分の言いたいことをタクミが解ってくれたのが嬉しいようでカムイもニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべる。

だがカムイの提案に納得する一方で、別の不安がタクミの中で頭をもたげていた。

「でも…そんなに都合よくいくかなぁ…。」

果たして店で調理ができる腕を持つ人が、この店に働きに来てくれるだろうか?

そもそもそれだけの腕の持ち主なら、他の給金や待遇のいい店で働きたがるものではないだろうか?

そんな不安が顔に出てしまったのか、カムイがポン、とタクミの肩を叩く。


「そう暗い方にばかり考えを持っていくんじゃない。未来なんて誰にもわからないんだからさ。とりあえず今は今できる事だけ考えようぜ。上手くいかなかったらその時考えればいい。」


ニカリと白い歯を見せて笑うその姿にタクミの心臓は一瞬高鳴る。

根拠のないその自信はどこから来るのだろうか…と普通だったら呆れてしまうだろう。

だがカムイがいうと、不思議と不安も心配も、どこかに飛んで行ってしまうような、そんな錯覚さえ抱いてしまう。


これが…神様の力なのだろうか?

それとも、カムイ本人の人徳というものなのか。


それがなんなのかわからないまま、タクミはカムイのノートをそっと閉じて、机の上に戻すのだった。