あの日僕らは、空を翔ぶ夢を見た。

miotsukushi
@aramashigoto

38

「大丈夫だよ。きっとうまくいく。」


何度この「大丈夫だよ」を自分も含めて言ったり、聞いたりしただろうか。大丈夫なことなんて今まであっただろうか。

全部、大丈夫ではなかったし、全部が大丈夫だった。全てが現実で夢のような気さえした。

ユニフォームを着て、グラブを持って、ピッチャーマウンドに立っていた、幼い自分。

いつの間にか選手から遠のいてマネージャーをしている自分。どれが本当の自分なんだろうか。

支えていることに自負がある。野球をしたいという衝動にも似た感情もある。仲間が大切で、それをいつまでも続けられない現実もある。

御幸と倉持はプロに行く。クリスが言うのだから真実なのだろう。自分はどうしたらいいのだろう。

着替えて、普通に家族と話をしながら気持ちを隠す。大学進学へは何の反対もないし、専攻への反対もない。自由だ、と言われている。

何が自由なのか分からない。誰かの希望を感じ取って進んでいく未来は「自由」というのか。

そんな中、真田の「大丈夫だよ。きっとうまくいく」は大きな意味を持つような気がしてきた。部屋で口に出してみる。

「・・・。」

すとんと落ち着く。ラインにメッセージが届いて「無事に帰宅」という言葉といつものスタンプだ。試合には触れない。

それを見ながら「送って頂いて有難うございました」と返事をして、既読がついたら「お会いできてうれしかったです」と送る。

また既読がついて、「俺も。じゃあ、おやすみ。また今度。」「はい、また今度。」数回やり取りをして息を大きく吐き出す。

やるだけやってみよう、もう未来は決まっているのだろう、ふいに湧き上がる。明日、開会式があって、予選が始まる。

試合のある日は部員全員が公欠だ。ラインが届く。

「初戦は応援に行くよ。いつものように梅本がスコアラーで入るんだろ?」

クリスだ。頼もしいし、正直嬉しい。

「有難うございます。お待ちしています。声を掛けて下さいね。球場へは8:00には入っています。」

「差し入れを持って行こう。皆も都合がつく者は行くと言っている。」

そんなやり取りをしながら、開会式にはいかない自分は本当に真田と対峙するのはきっと決勝戦なのだろう、と思った。

先輩たちはきっと勢揃いだろう。3年がいて、自分たちが2年で、1年生がいた。あの頃、まだ夢を見ているようだった。

しかし、これが最後なのだと思う。

「大丈夫、大丈夫。」

呟いて、自分自身を落ち着かせる。もう、ここまできたらそれしかない。これが終われば、この後は選ぶだけだ。

次の舞台が準備されて、私はどう生きるかと決めないといけない。野球だけをしていてはいけないのだ。

真田と御幸、2人とも「本気だ」と言っていた。私だって「本気」だ。中途半端には考えていない。考えたことなど1度もない。


前を向こう、そう決めたはずだ。

著作者の他の作品

今日見た夢。こんなファンタジー要素、普段あまりないのですが…。家族構成も全...