あの日僕らは、空を翔ぶ夢を見た。

miotsukushi
@aramashigoto

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「うん、じゃあね。うん、わかった、気を付ける。じゃあ、おやすみ。」

会話が終わって、可愛い声で「おやすみなさい」と言われると、本当にこの顔を見られなくてよかったと思う。

あんまり彼女のことを考えてニヤニヤしているので、母親に「俊平、ごめん。あんた気持ち悪い」と言われたのはつい最近だ。

母親の若干冷めた視線を割と前から感じてはいたし、気持ち悪いと自分でも思う。

こんなに女の子に夢中になったことはないし、追いかけたこともない。追いかけられたことはあっても、気になる子なんていなかった。

女1人で育ててくれた母親の後ろ姿を見ながら育った。頑張っている女の子の背中が好きなのには自覚がある。

言われた通りにゆっくりと風呂に入り、念入りに部屋でストレッチをする。足の故障も大丈夫だし、こめかみの傷も治っている。

体重や筋力も落ちていないし、コンディションは良い。何よりメンタル的にも問題はない。早くマウンドに立ちたい程だ。

その逸る気持ちを目ざとく監督に見透かされ「気焦りは女の子に嫌われるぜ~」と揶揄されたところだ。

負けずに「監督みたいにっすか?」と言い返し、「うるせぇよ!その通りだよ!」と笑い合った。いい雰囲気だ。

どこのチームにも負ける気はしない。今年こそ、轟親子を全国に連れて行きたい、ただそれだけだ。

「試合、見に来る?」

夕飯の支度をして待っていてくれた母親に聞くと、う~んと考えながら

「俊平の気持ち悪い原因に会える?」

「そりゃ、決勝戦だ。」

「そう。だったら決勝戦には行こうかな。」

決勝戦に出るんでしょ?と笑って言う姿は、真田自身もいつも思うのだが、自分に似ている。(自分が母親に似ているのだが)

決して経済的に余裕がある家庭ではない。それでも自由に野球をさせてくれる母親に本当に感謝している。

「俊平、私を甲子園に連れて行ってね。」

「お、某有名マネージャーの台詞じゃないの。古いねぇ、母さん。」

あの子は「連れて行って」なんて言わない。彼女は野球を愛していて、連れて行って貰うという感覚より、一緒に行く。

その感覚に近い。昔の男女の差なんてとっくになくなって、同志だ。共に手を取り合い、乗り越えていく。

一体、いつからそうなったのか。そんな事には気が付かなかったが、彼女を知れば知るほど、野球はチームプレイだと気付く。

結果が出るまでは付き合わないと決めた。「結果」とはいったい何なのか、真田は思った。薬師か青道の優勝が結果なのか。

自分としては薬師が甲子園に行く、その時、彼女は青道のマネージャーからは外れるだろうから、付き合うことは可能なはずだ。

青道を裏切ることにはならない。好かれている自信はある。ただ薬師が負けた時は、どうなるのだろうか。

「・・・いや、そんなこと考えるのはやめておこう。縁起悪ぃし。」

苦笑いを浮かべながらベッドに横になる。


次に会うのは決勝戦だ。絶対にそうだという確信があった。

それまでの試合に本人たちが偵察に来るとは思えない。

薬師も青道も主流は偵察には来ないはずだ。大会が始まると偵察はOBがやってくれる。

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