あの日僕らは、空を翔ぶ夢を見た。

miotsukushi
@aramashigoto

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洗濯を済ませ、全員で干し終わる。後輩たちを部屋に戻し、最後の確認をしている時に端末に着信がある。真田だ。

「今日から合宿だよね?大丈夫?御幸に何かされてない?」

俺急にその事に気が付いたんだよね、と真田は少し息が切れているようだ。

「おうちですか?走って帰られたんですか?」

「そう。走って帰ってたら、途中に青道の子がいてさ。野球部の合宿の話してたから。」

一気にしゃべる。合宿の予定をそんなに積極的に伝えてはいなかったが、スケジュールなんて洩れているだろうから気にしなかった。

申し訳ないと思いつつも、急にマネージャー魂みたいなものが出てくる。合宿中だからだろうか。

「それより、汗は?お風呂に入ってしっかり温まって、ゆっくりストレッチをして下さいね。」

しばらく本格的な練習から離れていた真田は新陳代謝が少しゆっくりになってしまっていて焦っているのを知っていた。

ストレッチも兼ねて、暑くてもシャワーなんかでは済ませないようにして欲しい、と常々思っていた。

「・・・。」

「真田さん?」

返事をしない真田の名を呼ぶと、向こうで「えっと」とか「その」とかいう声だけが聞こえてくる。珍しい歯切れの悪い真田だ。

自販機の前まで来て、隣のベンチに腰を降ろす。

「え~っと、今、ちょっと君が傍にいなくてよかった。」

言いにくそうな真田の声が聞こえてくる。

「俺、ものすごい顔してると思う。・・・その、あ~、俺の心配してくれて有難う。」

そこまで言われて、こっちの顔も真っ赤になるのを感じた。ようやく彼女気取りというか、余計なことを言ったことに気が付き

「いえ、あの、すみません。私ったら・・・余計なことを・・・。」

「「・・・。」」

傍にはいないのに何だか面と向かっているより恥ずかしい状況になって、会話が続かない。そのうち真田から話し始める。

まだこっちはしどろもどろだ。

「いやいや、余計なことじゃないよ。うち、そういうの管理してくれる人、いないし。助かる。そうします。」

「はい、お願いします・・・。」

本当に恥ずかしくて穴があったら入りたい気持ちになって、本当に小さい声で返事をする。

その返事を聞いて真田は笑い始めた。「今、外にいるの?」いつもの穏やかな声で質問してくる。

「洗濯が終わって、今、後輩の子たちを部屋に戻したところです。」

「へぇ。で、今から何するの?」

「スコアの整理をして、明日の朝ごはんの準備と確認です。」

「結構、仕事あるじゃん。夜更かしはお肌に悪いよ。俺の好きな君のモチモチのお肌が台無しになっちゃう。」

たまにこうやって真田は凄いことを平気で言ってくる。「可愛い」「好き」「特別が嬉しい」言われるとこっちも嬉しくなる。

それが嫌味でも何でもなくて、本心からだからか、すんなりと心に入ってくる。初めの頃はそれが苦手に感じていたが、

最近は真田の人間性に触れるようで、嬉しいし、特別のようにも感じていた。(御幸が言わないので余計だ)

野球の話はそこまでだ。最近、真田が読んだ本の話をしたり、通学途中の話をしたりして、笑い声が漏れる。

「・・・(あ~、みっともねぇな、俺)。」

御幸は自販機に行こうとして、話し声が聞こえたので思わず聞き入ってしまっている自分に自己嫌悪していた。

こんなに楽しそうに話をしている。さっきだって後輩たちと楽しそうに話をしていた。

安心して、満たされた気持ちになったのに、今は本当にモヤモヤする。相手が真田だとわかると余計にモヤモヤする。

「はい、有難うございます。・・・はい、分かってます。私もそうです。」

少し声のトーンが小さくなるので真面目な話になったのが御幸にも分かってきたので、踵を返す。コンビニでも行こう。

「真田さん。」

小さいが真の通った声が闇夜に微かに響く。御幸は立ち止まって息を飲んだ。

「私のことをいつも最初に考えて下さって、有難うございます。」

真田はいつも相手のことを考えている、それは試合をする上でいつも分かっていた。その度量の広さに敵ながら評価していた。

個性的な後輩たち(と監督)をまとめている姿は凛々しく見える。たまに見せる子供っぽい言動。

同じ高校生だ、と安心さえすることもある。真田も俺と一緒で主将として迷うこともあるはず、だ。


俺は真田と張り合う価値のある男なのか?


見上げた夜空に答えはない。答えがないなら、自分で探すしかない。コンビニの光は何故かぼんやりして見えた。

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