あの日僕らは、空を翔ぶ夢を見た。

miotsukushi
@aramashigoto

30

「!」

その声音があまりにも静かだったが、重い物だったので言葉を失うっていうことはこういう事だと思った。

絶句している御幸を見て、穏やかに優しく続ける。

「御幸君、恋は罪悪ですよ。わかっていますか?」

「・・・罪悪なんて言うなよ。」

「私が御幸君を困らせる日がくるなんて、誰も思わなかったでしょうね!」

心底、苦い顔をして目線を反らす御幸の視線の先に入り込むように覗き込む。その表情は穏やかだった。

「ね、御幸君。」


ここから先は誰にも分からない領域に入り込むんだよ。

だから、こうなったら、なんて話はもうやめよう。

きっと、これから先の事はもう、決まってるんだから。

やれることだけを、やれるだけ、やろう。

今はもう、そんな次元だよ。


「・・・ったく、お前ってやつは・・・。」

いつの間にか3年生になった。責任ある立場にもなった。求められるものも結果も期待も予想外に大きくなった。

「青春とは迷うものだよ、御幸一也君。君はそれを知っているだろう?」

先を行く、その小さな背中を追いながら、可愛い声で聞こえてくる言葉に苦笑いを浮かべる。

仕方がないので、彼女の茶番に乗るしかない。

「青春が甘酸っぱいことも知っているだろ?」

「青春が辛いことだって知ってるでしょう?でも、だからこそ青春は価値があるんじゃないのかなぁ。」

振り返って見せた笑顔は、笑顔なのにやけに悲しそうな表情もたたえていた。

「おい。」

「私は御幸君達と先輩達と後輩達と、一緒に青道で野球できてる事、本当に幸せだって思ってる。」

あぁ、やばい。泣きそうだ、と思った。本当に幸せなんて思ってない。野球をしたいのは「プレイしたい」のであって

マネージャーで携わることではないのだから。そうやって自分に言い聞かせてここまできた。

プロ野球選手になれるのは男だけで、それが羨ましくてしょうがない自分もいる。何だか滅茶苦茶だ。

真田の前では穏やかになれるが、御幸の前では何だか妙な自分が出てしまう。同級生だからなのかもしれない。

子供っぽくて我儘で、基本そんな感じの御幸の影響なのか、違う自分が出てくるような感覚がある。

「おい。涙が出てるぞ。」

首から巻いていたタオルを押し付けられる。実際に涙が零れたら優しく拭ってやりたいと思っていても現実はそうならない。

想像以上に思った通りの行動は出来ないもんだ、と心の中で思った。タオルを押し付けながら汚れている事を思い出す。

「あ、やべ。このタオル、俺の汗拭いたんだった。」

「や~め~て~!き~た~な~い~!」

タオルの下で叫ぶ声はもう泣いていない事が分かった。

「ごめりんこ。」

「その謝り方、絶対謝る気ないよね。もう酷い、お風呂入ったのに。」

涙は違う意味で出ているのだろう。指で目の辺りを拭いながら、笑っていた。御幸は安心した。野球への献身は目を見張るものがあった。

才能、ただそれだけではない事は今ようやく分かった気がした。

「顔、洗えよ~。歯、磨けよ~。」

「誰のせいよ!」

食堂の前で別れる。向こうで後輩達がその姿を見つけると嬉しそうに走り寄ってくる。「顔洗わないといけないの!」と言いながらも

嬉しそうな表情で、後輩達の話を聞いている。その様子を見ると不思議と落ち着いて、安心した気持ちになる。

「キモっ。にやけた顔すんな。」

倉持の暴言でさえも聞き流すことができるぐらい、だ。そんな気持ちといいながらも倉持らと「うるせぇよ」と言いながらじゃれ合う。

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