あの日僕らは、空を翔ぶ夢を見た。

miotsukushi
@aramashigoto

28

「梅本が胸の大きさを確認してやりたかったのにぃ、って地団駄踏んでたぞ。」

バッドを振っていたのか、少し汗をかいているようだ。「また冗談言ってるんだから」と笑いながら返すと「冗談かよ!」と言っている。

「目がマジだったぜ?」

「あの子が目は本気の時は冗談に本気な時。それより御幸君、汗で身体冷えちゃうから帰ろう?」

そう言うと御幸は腕を軽く動かして、昨年度の傷の辺りを気にするような素振りを見せた。一瞬にして緊張する。

張り付いたような感覚、「どうしたの?」という言葉が簡単に出ない。ただ持っていたバッグを落としてしまった。

「・・・。」

声が出ない代わりに御幸の元へはすぐに歩み寄ることができた。遠くなっていく車の音を聞きながら御幸に近寄る。

うっすら口元に笑みを浮かべているようにも見えるし、歯を食いしばっているようにも見える。

この頃になってようやく「御幸君?!」と声が出た。「どこか痛むの?」声は抑え気味だが確実に御幸に聞こえるように言う。

「・・・。」

御幸は答えない。

「御幸君!」

顔を見ながらもう1度名前を呼ぶと、ようやく御幸は答えた。

「やっと近づいてきたな。」

御幸の返答の意味が一瞬分からず、一瞬よろっと足下がおぼつかなくて身体が傾きそうになった瞬間、御幸がその腕を掴んだ。

それからぐいっと結構な力で引っぱられて、御幸の方へ抱き寄せられた。御幸はいつも隠れて素振りをするので遠慮して誰もいない。

「ちょ、み、御幸「お前、俺から距離取るんだもん。警戒し過ぎだっつうの。」

どんだけ俺、危険生物だよ、最後の言葉は少し悲しそうにも聞こえた。しっかり抱き締められ、その長い腕の中にすっぽりと収まっている。

「俺、全然、勝ち目ない?」

落ち着いた低いトーンの御幸の声は、その内容が真剣であるということを証明していた。

「・・・ない。」

「妙な間があるな・・・。」

「何度も言ってる。御幸一也は独占できないの。」

御幸の胸を手で押し返すが想像通りびくともしない。抱き締める、というより抱きつかれているとうか、逃げられないように捕縛している。

まさにそんな感じだ。御幸からは汗の匂いがする。御幸はふと想定内の感想を言った。

「シャンプーの匂い、ヤバイんですけど?」

「どんな匂いする?」

一方の返答は予想外だったので、御幸はもう1度首の辺りで鼻をすんと鳴らした。

「・・・はちみつ?」

「正解。でもこれはシャンプーの匂いではありません。」

お風呂上りの女子を抱き締めてシャンプーの匂いするなんて、まるで純さんの少女漫画だ。御幸は予想通りの行動をしてみたり、

子供っぽい言動をしたり、それも、まぁ、自分たち3年の前だけなので、相当のストレスと戦っているだろうという想像の中で

幼い弟でもあやすような感覚に近い時がある。ボロボロになった御幸を包み込むのは自分ではない。

でも、「御幸を支えたい」と願ったのも自分だ。「青道のマネージャーで最後までいたい」と決めていた。

御幸の大きな背中に手を回し、少し顔に寄せるように自分の顔を傾けて

「怪我は大丈夫?御幸君。」

「・・・完治しております。」

そうだろうとは思ったが、念のためだ。

「何か考えてることはあるの?ねぇ、私に聞かせて?」

「・・・俺、ちゃんとキャプテン出来てるかな?」

案の定、だ。こういうことをし始めると何だか御幸は不安なのだ。逆に練習中はやけに集中してきれっきれになるから不思議だ。

本当に「1人でちゃんとできる子」を地でやっているのが御幸だ。しかし、この御幸の特性を倉持はもちろん、同学年たちは知っている。

こんな御幸をそれぞれの立場で叱ったり励ましたり、話を聞いたり、悪さをしたり、皆で乗り越えてきた日々だった。

その日々も、もう終わる。

「プレッシャーで潰れそう。今日も、こいつらと野球できるのもう100日ねぇんだと思ったら・・・。」

「思ったら?」

「無性にこの日々が大切に思えて、何か・・・泣きそうになった。」


大切な日々、大切な仲間、それを紡ぐ大切な御幸の言葉。

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