あの日僕らは、空を翔ぶ夢を見た。

miotsukushi
@aramashigoto

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考え事をしながらおにぎりを作るなんて、小器用なことができるようになったものだ。山のようにできたおにぎりを運び出す。

ベンチの前に出された長机の上に置いて、「おにぎり、できました!」と声を掛けると三々五々に集まってくる。

大きなヤカンには麦茶やスポーツドリンクが準備され、マネージャーたちが給仕をする。

「先輩が作るおにぎりって小さくて可愛いですよね。食べやすいし!」

後輩マネたちが小さ目のおにぎりを見ている。それに笑いながら手を見せて

「手が小さいから、このサイズが最大なのよ。先輩のはもっと大きかったんだけど。」

そう言っていると御幸と倉持が近寄ってくるのが目の端に写る。おにぎりに手を伸ばす2人におにぎりを手渡す。

「はい、梅。」

「お、サンキュー。」

「ま、具は梅に限るよな。俺んちの梅はじじぃが毎年作るお手製でよ~。」

御幸と倉持は具は1年の頃から梅一択だ。なかなか古風に育っているのか、他の具材を食べないわけではないが、何故か昔から梅だ。

「そういや、倉持んちの梅、食ったことあるけど。めっちゃ酸っぱいよな!」

おにぎりの具に、と倉持の家から送られてきた梅干しは確かに酸っぱい梅だった。倉持は慣れているのか気にならない様子だったが

御幸と一緒に食べた時にあまりの酸っぱさに顔を見合わせて、思わず笑ってしまったものだ。

おにぎりなら中身は梅、炭酸などは飲まないが飲むなら常温のもの、洗濯物は決まった畳み方。寝る前のストレッチは欠かさない。

寝つきは多少悪いが、寝起きは意外と言われるほど良い、ただそれが寝坊をしない、というのとは別の話だが。

御幸一也の1面はこの3年間で様々知ってしまった。見かけ程、恰好良くもないし、その辺にいる単なる男子高校生だ。

「・・・で、好きなやつはお前、ってわけか。」

「倉持君は相変わらず気が利かないってわけ?」

スコアを整理しながら、最後の合宿が週明けから始まるので食堂でマネージャーのミーティングを兼ねて話をしていたら

自然と話題は野球部1のモテ男、主将の話になったので、御幸の意外におっさん臭いところでも暴露してやろうかと思ったところだ。

倉持が外から呼んだので中座して外に出ると、倉持はちょっと面白そうな顔をして言った。

「・・・言うじゃねぇか。」

ぎゃふんと言わせるつもりだったかどうか分からないが、倉持は苦笑いを浮かべながら監督から渡された練習表を手渡した。

「なるべく後輩たちに仕事を任せるように、だとよ。どちらにせよ、俺たち3年は全国制覇までだからな。」

「私もこの最後の合宿で色々と責任ある仕事をするようになったなぁ。」

世代交代の引き継ぎの時期でもある。初めて練習試合の準備の全ての采配をやったのもこの時期だった。

で、あまりの自分の無能さが分かって悔しくて、こっそり布団の中で泣いたのもこの時期だ。

「お前は責任のある仕事を任された時に死にそうな顔するから面白いぜ。」

元々色が白いというのもあるが、緊張していると無表情になって、それが「死にそうな顔」に見えるらしい。

手が冷たくなって動悸も激しくなる。それも鍛えられて最近は全くなくなっているが、それでも偵察の時は緊張感が漂う。

「倉持君だって初めてレギュラー入りした時、死にそうな顔してたよ。」

「そうか?」

「そうだよ。」

「懐かしいなぁ。」

外で話をしていると中から下級生たちが顔を出し、もうすぐ食事の準備が始まると告げてくる。

「学年別?俺らから?」

「残念、今日は1年生からよ。」

げぇ、腹減ってんのによぉ、と倉持は言う程嫌そうではなかった。多分、最後に食べるということは3年生という自覚に繋がったからだろう。

「と、言ってもね。明日は2年3年1年、明後日は3年1年2年、ってローテ組んであるの。」

そう言いながら倉持に上着のポケットに入れてあるチョコレート味の栄養補助食品を渡す。

「はい。これでも食べて待ってて。」

それを見ながら倉持は懐かしそうに言った。

「お前、1年生の時、俺と御幸とお前だけが同じクラスでさ。バレンタインデーに同クラのよしみでこれくれたよな。」

「それは御幸君に頂戴頂戴ってひつこく言われたから、仕方なくだよ。」

何故か御幸はひつこかった。今、思えば片思いの相手から何か欲しかったのかもしれない。貰ったものを微妙な顔をして見ていた。

それを見て、少しむかついて「いらないなら返してよ!」と言うと「嫌だ!貰ったからには俺のもんだ!」と言った。

何故それにしたのかは、野球選手としての彼らに少しでも役に立つものを、と思ったマネージャー心からだった。

だが御幸は「いかにも」なチョコレートを想像していたようで、残念という雰囲気を醸し出していた。

甘い物が嫌いなのは御幸本人のくせに、その態度は何だ、と思ったのも随分前のような気もする。

来年のバレンタインはもう御幸たちと学校で会うこともない。つまり、もうチョコレート味の栄養補助食品を渡すこともない。

本当に1つひとつの行事が最後なんだ、と思う。

この間、真田にガトーショコラを渡した時、今までとは違う感情を抱いていた。御幸に渡す時とは明らかに違うときめきがあった。

真田の好きなチョコレートのお菓子を作りたい、失敗しない得意なものを、喜んでくれるだろうか、と緊張もした。

この感情の流れはきっと「恋」だ。喜んで食べてくれた真田の笑顔を見て、至上の喜びと感動を覚えた。

「野球部全員のために、あの年は確かマフィンを作って配ったのに。」

「お前から特別に他のもんが欲しかったんだろ?ったく、うちの主将は我儘だよな~。」

ありがとよ、と言いながら室内練習場へ倉持は向かうようだ。トスバッティングでもするのだろう。

頭にタオルを巻いて歩く、その背中に向けて声を掛ける。

「1年生がいたら、もう少ししたら晩御飯だよ、って伝えて!」

倉持は何も言わずに手だけ挙げた。安心して食堂に入って夕食の準備を手伝う。次から次へとやって来る部員に夕飯を食べさせ、

下級生マネたちも食べさせ、「先にお風呂に行っておいで」と声を掛けて、先生の車で1、2年生たちが銭湯に連れて行って貰うのを確認し、

ようやく夕食になる。「これは思った以上に最上級生は大変だ」と苦笑いを浮かべながら、最後の合宿をかみしめる。

「今日、お風呂どうする?」

「私たちは高島先生が2便目出してくれるっておっしゃるから、スーパー銭湯!」

「私は1度家に帰る。ちょっと忘れ物しちゃって。お風呂済ませて、親に送って貰うね。」

「え~!じゃあ、明日は絶対一緒にお風呂行って、背中の流しっこしようよ!」

携帯の充電器を忘れたのに気が付いたのは昼の頃だった。どうせお風呂も最後になるのが分かっていたので帰宅しようと思っていた。

連絡し、とりあえず帰宅。充電器をとり、読みかけの文庫本もとった。お風呂を済ませ、車で戻ると寮の入口に御幸がいた。

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