あの日僕らは、空を翔ぶ夢を見た。

miotsukushi
@aramashigoto

26

「お前、おにぎり作るの、下手な。」

1年生で唯一のレギュラーになったのは御幸だった。倉持らはもちろんまだレギュラー入りしていなかった。

こっちはこっちでマネージャーなりたてで、何をしても要領が悪くて、自分でも情けないと思っていた頃だった。

学年でも人気者(で変わり者扱い)の御幸一也は帽子を斜めにかぶって、食堂のカウンターから身を乗り出して見ていた。

何か言い返す前に御幸は手の中を指さして

「掴んでるご飯がお前の手の大きさに合ってねぇんだよ。お前、手小さいから。」

だからお前の作るおにぎりは固いし重い、と付け加えた。要領悪ぃな、と言ってさらに笑った。今考えると酷い言いようだ。

本当に御幸は自分のことがこの頃から好きだったんだろうか、不審にさえ思う。

「・・・。」

「ほら、もう少し飯の量、減らしてみろよ。減らしても先輩たちと大きさ変わんねぇから。」

癪だが手の中から少しずつご飯の量を減らす、ちらっと御幸を見ると「まだまだ」と言っている。

思い切ってどさっと少なくすると、御幸は頷く。「中身、それな」と梅干しを指さす。仕方なくそれを入れて握る。

なるほど、上手く握れるような気がする。ぽろぽろと落ちていたお米粒は落ちなくなって、形もよく握れているようだ。

「・・・できた。」

「上手にできました。」

思わず御幸を見ると人懐っこい笑みを浮かべていた。つられて一瞬笑みを浮かべてしまったが、先程「下手」発言を思いだし

むすっとした顔をして、下を向いて御幸に背中を向けて、次のおにぎりを作り始める。

自分の方を向けている背中を見て、御幸は少し残念に思った。

一瞬の笑顔、確かに自分だけに向けられたものだったのに何か思い出したのか、急にむすっとしてしまった。

トレイの右隅にちょこんと置かれている梅おにぎりを御幸はぼんやりと見つめる。先輩が作っているおにぎりは確かに大きい。

手が小さいこの1年マネに、あのサイズはちょっと無理だ。だから要領悪くやっていたのが見えたのでアドバイスをしたのだが

何がいけなかったのか・・・。綺麗な子だ、第1印象はそれだ。何事にも一生懸命にサポートする。

たまにポツンと言う意見は妙に的を得ていて、感心することすらある。仲良くなりたいなぁ、と思ったのに、御幸は聞いた。

「なぁ、何でむすっとしてんの?」

分からないことは聞くのが1番。するとちらっとこっちを見て、小さな声で

「・・・下手で悪かったわね、御幸君。下手なのなんてとっくに自覚してたもの・・・。」

なるほど、御幸は納得した。どうやら思った通りに言ってしまったことが悪かったようだ。

「先輩たちみたいに上手に出来るようにならないと・・・。」

今度のは独り言ようだった。御幸は調理室の方へずかずかと入り込んできて、握り切った手をぎゅっと掴んだ。

「・・・真っ赤だな。何個も握った証拠じゃん。・・・努力家なんだな。」

「は、離してよ!」

手と同じように頬をうっすらと桃色に染めた。御幸はその手を離して、先程握った小さ目のおにぎりを掴んで口に入れた。

「っあ!」

「指導代金に貰うな~。」

後ろ手に振りながら、はっはっはと笑いながら食堂を出た。「おにぎりどろぼう!」という可愛い声を聞きながら

御幸は外へ出て、思わずにやけて、その顔を手で慌てて隠した。彼女の初めて成功したおにぎりを食べてしまった。

これは想像以上に興奮する。ちらっと窓から覗き込むと、怒る様子もなくせっせと握っている様子が見える。

初めて会った時から彼女に好意を持っている。倉持にはすぐに気付かれたが、本人は鈍いのか知られていないようだ。

「なるほど、女の子には本当のことでも言っちゃいけないこともあんだな。」

男だけの家で「女の子への配慮」は皆無に育った御幸は知らなかった。

そういえば「御幸君がひどい!」と女子に小学校の頃、集中攻撃を受けたことがある。

意味が分からず「本当のことじゃん!俺、嘘言ってない!」と言ったら、本人が泣いてしまった。何故泣いたのか分からなかった。

どうやら本当のことでも女子には言ってはいけないことがあるようだ。それが今日、発覚した。でも、言うのをやめられない。

ぷいっと少し機嫌が悪そうに、むすっとした彼女の横顔は可愛かった。あれ、また見たいなぁ、御幸は暢気にそう思った。


「・・・。」

御幸はあれから何かというとちょっかいを出してきて、遠慮も配慮もない言動で怒らせてきた。後輩も先輩も、だ。

その御幸も主将となり、3年生になり、最後の夏を迎えたのだ。ふと考え込む。

もし真田とのことが起きなければ御幸が彼自身の気持ちを自分に伝えてくるなんてことはあったのだろうか。

御幸は今の状態を理解して、それはそれなりに気持ちの中ですんなり消化していたのではないだろうか。

自分自身も「真田俊平」という新しいカードに出会わなければ、それはそれなりに御幸とのバランスはとれていたのではないか。

何が御幸一也をこんなにも焦らせたのか。

真田に対して苦手意識があるのは十分に理解できる。とにかく気に入らない様子だ。正反対のような性格なのに。


私たちは。

薬師が勝ったらどうなるのだろう。

青道が勝ったらどうなるのだろう。

薬師と青道が決勝カードだというのは前評判として随分前から言われていることだ。お互いが雪辱を晴らす日だと言われている。

それが実現になったら、私は2人が立つ球場に行く。勝敗をこの目で見ることになる。

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