あの日僕らは、空を翔ぶ夢を見た。

miotsukushi
@aramashigoto

「お待たせ~。」

そう言いながら、チーズバーガーとコーヒーが乗っているトレイ、御幸はその他もう1つトレイを持っている。

その片方は信じられない程の量が乗っているが、これは日常茶飯事だ。

「・・・何人で来てるんだ?って量ね、相変わらず。」

「腹の減り方が尋常がねぇしな。」

たくさん食べろ、というのは野球部の鉄則だが、初めは食べられなくても、そのうち本気で空腹になるまで練習するし、食べなければ

やっていかれないので、自然と大量に食べられるようになる。

入学当初の御幸もややほっそりした印象だったが、最近は本当にしっかりとした身体つきになった。

隣に座られると腕や足の太さが分かる。はむ、とチーズバーガーをほおばる。

「・・・ねぇ、御幸君、野球をしてなかったら、何て考えた事、ある?」

「ない。」

「1度も?一瞬でも?」

「ない。」

答えは簡単ですぐに返ってきた。

「1日中、いっつも野球の事、考えてるし。野球のない人生なんて考えれない。」

御幸の答えは誠実なものだった。思わず隣に座って食べまくっている御幸を見た。

「ただ・・・。」

視線を感じたのか御幸はこっちを向いた。

「高校に入学してからは・・・色気づいたのか、お前の事考える時間も多少はあった。」

青道に入学してすぐにマネージャーになった。御幸の事はもちろん知っていた。有名人だったし、周囲が騒いでいたのですぐに認識した。

意地悪で先輩なんて関係ないのか、不遜な物言いをしていたり、悪戯をしたり、でも実力は確かだった。

同級生だったこともあって、割とすぐに仲良くなったが、まさかそんな風に見られているとは思わなかった。

真田との事が起こらなかったら、御幸はこの感情をどのように処理するつもりだったんだろうか。

「お前、真田のこと好きなのか。」

「倉持君にもそんな感じのこと、聞かれた。」

ポテトを口に咥えて、外を眺めながら御幸はまるで他人事のように言った。

「倉持が?・・・ふ~ん、で、どう答えたの?」

「説明したけど。倉持君、何か面倒臭そうな感じだな、って顔してた。言ってはないけどね。」

ん、と御幸がふいにポテトを差し出したので、へ?と口を無防備に開いていると、すっと差し込まれた。もぐもぐと食べる。

「ねぇ、御幸君。・・・私の事、どんな風に好きなの?」

「はあ?」

思わず御幸は大きな声を出してしまった。客が一斉にこっちを見るので、慌ててコホンと咳をする。

少し近寄って、「何言いだすんだ、お前は!」と小さく注意をしてくる。しかし、近づいた顔、視線が合ったのでじっと見つめる。

「人を好きになるってどういう事なの?」

「・・・お前・・・。」

少し冷めてしまったコーヒーは何だか余計に苦く感じる。

「私、好きと大切の区別がつかなくなってるのかもしれないって思う時がある。ほら、あの子たち。」

外を指さして手を繋いで歩く高校生カップルを御幸も思わず見る。典型的な「お付き合いしてる2人」だ。

それを指さす本人はいたって真面目な感じで、その2人を見つめる。

「楽しそう。」

「・・・お前、真田とデートしたり話たりして、楽しくないのかよ?」

「・・・気持ちが張りつめないの。・・・御幸君とは・・・緊張する。」

「緊張?俺といると?」

何で?と言いながら食い入るように、外を眺める横顔を見つめた。視線を感じたのか、御幸の方を見た、その視線は強いものだった。

「御幸君は皆の御幸君だから。だから、私が独占しちゃいけないって思う。その緊張。」

気持ちには聡い方だと御幸は自負していた。割りと大人の中で育ち、早くに母親と死別した御幸は大人の「同情」を見て育った。

父親に心配されたくなかったこともあったが、何より大人の考えてることに聡い御幸は「大人の想像する可哀想な子」を演じた。

実際はそんなに可哀想でも不幸でも、もちろん底抜けに幸福でもなかった。誰とも変わらない自分だった。

ただ野球に夢中になったのは、その中でなら何もかもから解放されたからだ。誰かを好きになることなんてなかった。

信頼していないわけじゃない、だが自分の気持ちをさらけ出して預けることは御幸にとっては至難の業だった。

同類かもしれないな、そう思わないこともなかった。真面目で何でもこなしてしまう、そんな子に見えた。

見た目がどストライクだったこともあったが、愁いに満ちた瞳を見た時に心がぶわっと揺れたのを感じた。

「そっか・・・。」

御幸は思わず呟いた。意味が分からず、首を傾げると、御幸は笑みを浮かべた。

「いや、お前に手を出すのってマズイかな?っていうの、結構、あったんだけど。」

仲間に手ぇ出すってどうよ?とかって思ったんだけど、と付け加えて、ウーロン茶を飲んだ。御幸は炭酸は飲まない主義だ。

「お前、俺と一緒なんだ。・・・何か、緊張するんだな。色々と、分かるから。」

「それって好きなんじゃなくて・・・。」

「いや、好きだよ。ちゃんと好きだ。・・・お前の心まで引き受けたいって思ってるもん、俺。」

机の上に置かれた華奢な手にそっと自分の手を重ねてみる。意外と嫌がる素振りを見せず、真剣にこっちを見ていた。

「お前の嫌なとことか見たいって思ってるし、それが悲しくなくて、嬉しいな、とさえ思う。」

思った以上に手は小さくて細くて、もうすぐ夏本番だというのにしっとりと冷たかった。

その言葉にうっすらと笑う姿は最近よく見る笑顔だった。

「私に嫌なところなんてないわよ。女子に対して失礼ね、御幸君。」

「俺、失礼なの基本の構成要素だからな~。」

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