あの日僕らは、空を翔ぶ夢を見た。

miotsukushi
@aramashigoto

最初に気が付いたのは、やはり、と言うべきか、倉持だった。

「何か変じゃねぇ?あいつ。」

「はて、変とは?」

沢村のふざけた返事にチョップを入れながら、う~ん、と言葉を選びつつ

「何か・・・顔?」

「麗しい先輩の顔に何言ってるんすか。そうじゃないもっち先輩がそれを言っちゃあダメっすよ!」

腰めがけて朝からお見舞いされながら、沢村は同級生たちを見つけて走って行ってしまう。

気のせいだろうか、倉持は登校しながら、こちらもいつもと変わらぬ御幸の横顔を見る。

御幸の片思いは2年以上前から知っているし、この間、それが爆発して「偵察禁止令」が出た時は「男のヤキモチはみっともねぇ!」と言って

からかって、御幸が反撃してこなかったので、いよいよ本気なのか、と逆にびびったりもしたが、最近はどうだ。

キャプテン業にいそしむ真面目な御幸に、マネ業と情報収集にいそしむあいつ、とそこまで思って考えるのを止めた。

前からそのご本人が登場したからだ。

「おはよう、御幸君、倉持君。これ頼まれてた去年のスコアブック。」

「お、サンキュー。さすが優秀マネ、仕事が早い。」

「そんなこと言っても何もないわよ。」

私、1時間目移動教室だから、と付け加えて、そのまま横を通り過ぎる。思わずその後ろ姿を見つめてしまう。

何だ?めちゃめちゃ自然な感じじゃねぇか。気味が悪い事この上ねぇな、と御幸の顔をちらっと見る。

その後ろ姿を熱っぽく見つめる横顔を見て、「やはり御幸はまだ好きなんだ」そう確信する。

「・・・何だよ。何か言いたいことあんなら言えよ。男が見つめてくんな、気持ち悪ぃな。」

「・・・お前らとうとう付き合い始めたか何かか?」

「真田と付き合う前提らしい。」

「はあ?」

さらっと御幸の口から出た言葉はとんでもない単語だった。

「盗られたのか?」

「もともと俺のもんじゃねぇから。そうだな・・・強いて言えば、俺が振られたってとこかな。」

「・・・でもお前、まだ好きなんじゃねぇの?」

「夏の予選までは俺達だけのマネージャーでいてくれるらしいよ。良かったな、倉持。」


はあ?(本日、2回目)


真田、とはもちろん、薬師高校の真田俊平だ。ことの発端はこの真田と連絡を取り合っているという話を知った御幸が駄々をこねた事からだ。

3年生、大事な時期だ。そんな面倒な事にはならないだろうと踏んでいたが、いつの間に「御幸が振られた」という事になったのだろうか。

つまり「真田の彼女になった」という事か?いや、違うな。

「付き合う前提」で「夏の予選までは俺達だけのマネージャーでいてくれる」という事は、真田が「待つ」と言ったのか。

「・・・俺は意味分かんねぇよ。」

倉持はスコアブックの整理整頓をしながら、横で練習球の縫目を手縫いで直している大人しい塊に声をかけた。

話し掛けられて、四苦八苦していた作業を止めて、倉持を見た。

「何が分からないの?」

「お前と薬師の真田、付き合ってんじゃねぇの?」

相変わらず倉持はストレートだ。中学の時はやんちゃをしていたと聞いたが、その名残なのか。結構、おせっかいだ。

スコアブックに「ここは、もう御幸のエラーでいいか」と呟きながら、清書をしている。割と細かい作業も倉持は得意だ。

「真田さんとは付き合ってない。連絡は結構してるけど。野球の事じゃないよ。」

「じゃあ、何話してんだよ。」

「ん?あの映画面白そうだね、とか。新商品のお菓子、食べた?とか。」

「それ、付き合ってんじゃねぇの?」

倉持の視線は強い。まるで射抜かれるようだ。作業するのを止めて、窓からグランドを見た。2年生たちが中心になり練習している。

そこに御幸の姿はなかった。ウエイトか監督にでも呼ばれたのだろう。だから、倉持も事務作業をしている。

「・・・夏の予選が終わって甲子園に行けたら、正式に付き合おうって約束してる。」

「それ、薬師が甲子園に行くってことでいいんだな?」

そう倉持に確認を取られると、頷くしか手がない。

「真田さんは本気で甲子園を狙ってる。うちだってもちろんそう。狙ってない学校なんてどこにもないでしょ?」

「ま、そうだな。」

「だから、そういう事。結果が出るまでは付き合ってないし、私はマネを一生懸命するって約束したの。」

倉持が何か言いたそうな雰囲気だ、聞きたい事を言い当てて、さらに答えた。

「御幸君にもそう言った。御幸君、そっか分かった、って言ってた。」

「・・・でも、それじゃあ。」

「そう。私が1番の卑怯者。・・・私が1番、悪い奴なの。」

悲しい声でそう言った。倉持はグランドを見ながらポツリと言った。

「お前は悪くねぇよ。悪いのはクソ眼鏡と薬師のエースだな。・・・お前は悪くない。いいか、思い込み過ぎんなよ。」

その言葉に思わず微笑んでしまった。「何だよ」と目つき悪く、軽く睨んでくる倉持に

「両校とも困ったキャプテンとエースがいて、支える側は大変ね。」

と言った。倉持は少し目を丸くして

「ま、そうだな。駄目な上を持つと俺らがしっかりするより他ねぇよ。」

その言葉は随分優しく聞こえた。「ありがとう」そう言うと「別に、どうってことねぇよ」と言って作業を始める。

こっちも続きを始める。外の喧騒が微かに聞こえてくる。

「キャプテンが不出来で迷惑かけるな。」

「・・・私、青道が好きだよ。こんな素敵な学校、他にはない。皆と誰よりも長く、最後までグランドにいたい。」


この気持ちに嘘偽りはなかった。

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