あの日僕らは、空を翔ぶ夢を見た。

miotsukushi
@aramashigoto

「薬師から練習試合を申し込まれた?」

突然、降ってわいたような練習試合の申し込みに、青道全員が顔を見合わせる。ただその日は他の学校とも練習試合が組まれている。

「あぁ、だから、その後でもいい、2軍でもいい、という話だ。」

ついでにうちも試合させて下さいよ、と漁夫の利のような考えを言ったに違いないとは思ったが、今は1試合でも実戦が欲しい。

他県の高校の遠征試合、初戦は他県校と薬師、その後、青道と他県校、その後さらに薬師と青道、というスケジュールだが

この場合は1軍と2軍の調整ができるので問題はない。どこで何を出してくるか、だが、うちと薬師1軍はないな、と思った。

ということは初戦に薬師の1軍が出てくるはずだ。時期的に近い場所でエースを見られるのはこれが最後になるかもしれない。

「初戦に薬師は1軍を持ってくるだろうから、そっちに。」

渡辺に指示を受けて、頷く。

「じゃあ、薬師戦の時はうちは2軍ってことね?」

「それで1軍が試合を見られるってことになるから都合がいい。」

確認しあいながらスケジュールを組んで双方の高校に確認の書類の準備を始める。その表を御幸がヒョイと掴み上げる。

「薬師戦を見られるのか?」

「初戦に1軍を持ってくるだろうから、多分見られるよ。」

渡辺の返事に御幸は満足そうな笑みを浮かべた。「この間は空振りだったもんね」と付け加える渡辺に御幸は大きく頷く。

表には赤く丸をされて「A」と書かれている。他県校を続けて試合を組んだのは遠方だからだが、薬師と2戦もやれるのは大きい。

スケジュールを真剣に見ながら、「やりたいこともあるしな」と呟き、真剣にゲームメイクを始める御幸の横顔は主将そのものだ。

「初戦の薬師戦を頼むよ。」

「私が?」

「他県校の資料を揃えてくれてるでしょ?だったら、それをやってくれた人が初戦を見た方がいい。」

もっともな意見だったが、薬師戦を偵察できることはもう公式戦以外にないと思っていたので、正直驚いた。ゆっくりと「うん」と頷いた。

しばらく試合に出ていない真田はこの初戦に出る可能性が高い。渡辺は分かっているのだろう、「頼んだよ」と言うと行ってしまった。

スコアブックを見つめて、御幸の方を見るが、御幸はそんなことは気が付かないのか、獲物を見つけた野生動物のような目をしている。

その日の夜、早速真田からラインだ。

「練習試合受けてくれたらしいじゃん。毎度毎度、うちの監督が勝手ですみませんねぇ。」

ごめんね、可愛いスタンプもつく。真田は結構スタンプを使ってくる。意外に可愛い感じだ。

「ついでに他校との練習試合もできるから、のっかってきたんじゃないんですか?」

「お、分かってる!」

「うちの予定にそのまま乗れちゃえば、申し込みも準備もしなくていいですもんね。」

「その通り!さすがに分かっていらっしゃる。」

相変わらずの軽口だ。

「でも、久々にお目に掛かることができますね。」

「そうだね。今から楽しみにしてる。」

「無理しないで下さいね。折角の機会ですから、残念なことにはしたくないので。」

「優しいのか優しくないのか、そんなところも好きだけどね。じゃあ、週末。」

そして最後に「大好き」と大きなハートつきのスタンプ。女の子がするようなことだが、真田は好意を隠さない。

自信家なのか、根っからの楽天家か。そのギャップが真田の魅力だ。山のような洗濯物を終わらせ、いつもの帰り道。

御幸は途中まで付いて来た。送るわけでもない様子で、少し後ろを歩く御幸と特に会話はなかった。別れ際、たった1言。

「俺も薬師戦を見る。・・・お前と一緒に、お前の隣で。」

そう言うと、くるっと向きを変えて寮方向へ走り去ってしまった。その言葉に思わず宿命じみたものを感じた。

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