あの日僕らは、空を翔ぶ夢を見た。

miotsukushi
@aramashigoto

「・・・。」

あまりの提案に絶句した。御幸の事で様々に揉めながら、どうしてもそれに振り回されるのは何故か。御幸を意識しているからだ。

クリスの指摘は胸中にさざ波を起こした。真田の事を異性として気にしているから、御幸の言動に振り回される。

その時、メッセージの着信を知らせる。

「・・・良いタイミングだ。真田からかな。」

何も言われていないのに、導かれるように画面を開く。

「監督との交渉成立!土曜日、部活休みになった。朝から1日、俺に付き合って。お願い。」

真田からのメッセージだった。思わずクリスを見た。クリスは微笑んでいた。そして「お前は何をするのも自由だ。」と言った。

時計の秒針が動く音だけがやけに大きく聞こえた。

「裏切者じゃないのなら、偵察に行け。野球以外のところで見る選手にはたくさんの情報があるぞ。」

ズルイ言い方をクリスはした。しかし、何だか今までと違って、自信が満ちていくような気がした。

「デートじゃない。お前は偵察と分析をするために行くんだ。ただ行くのは表向きはデートだ。外出禁止対象じゃない、だろ?」


そう、禁止されているのは「1人で偵察に行く事」だ。自宅生の自分が休みの土曜日に何をしようが誰にも分からない。


「でも、クリス先輩、それじゃあ・・・。」

「お前はこの男社会の中で、1人の女の子だ。マネも後輩しかいない。さらに。そこをまとめるキャプテンがヤキモチ中、となると。」

書きかけの分析ノートを見ながら「良い判断だ」と言いながら、足を組みかえる。

「ここはお兄さんの俺が、可愛い妹分を助けてやらないといけないだろう?」

「クリス先輩、怒らないんですか?」

「可愛い妹を怒るわけがない。狭量な御幸には後で説教だ。」

その言葉に思わず、ふふふと笑うと

「ああ、ようやく笑ったな。今にも何かしそうで、これでも焦っていたんだぞ。」

ノートを机の上に置き、「ここはもう少し考察しろ」と指示をする。慌てて覗き込んで、メモをする。

「もう少し完成に近づけるために、お前は「人」を知らなければならない。まだ足りない。俺はお前の信念を信じている。」

立ち上がって、頭を下げるしかなかった。言葉が出なかった。八方ふさがり状態の自分に小さな明かりをクリスは灯してくれた。

信じてくれる人がいる、真っ暗だったが、トンネルの向こうが見えた。

「・・・っ。」

そっと頭の上に手を置いて、頭頂部にそっと唇を寄せられたのが分かった。

「妹に対する親愛だ。今度、この可哀想な兄貴とデートでもしてくれ。」

こんな特典でもないと損ばかりだろ?立ち上がって、軽く手を上げるとクリスは食堂から出て行った。グランドに挨拶に行ったのだろう。

しばらくすると歓声が聞こえる。ノートを見ると今日の目標点には到達している。ノートを閉じて、真田にメッセージを送る。

「待ち合わせはどこにしますか?」「あ、スルーされるのかと思った。」「そんな事しません。」「素直に嬉しいよ。じゃあA駅前に9時。」

返事をどうするか、一瞬迷ったが、「楽しみにしています。」「本当?俺も。あ、今、学校?」「そうです。でも、もう帰ります。」

いつも真田は自分を気にかけてくれる1言を付ける。「気を付けて帰ってね。もしよかったら、帰ったらメッセージ欲しい。」

それに「分かりました。必ずします。」と返すと、可愛いスタンプで返事は戻ってくる。制服に着替えて、渡辺に完成したところまでの資料を

渡すと、内容を見て驚いた表情を浮かべたが、「お疲れ様。また明日な。」と校門まで送ってくれた。

「渡辺君、有難う。クリス先輩が助けてくれた。・・・私、渡辺君優しいから好きだよ。」

「あはは。やめてくれよ。御幸の餌食にされちゃうよ。・・・でも、俺だってお前の事、仲間として好きだよ。」


「あれ?あいつ、帰ったのか?」

御幸が食堂を覗くと渡辺たちがミーティングをしていた。

「昨日は遅くまで偵察に行ってたからね。しばらくは偵察はなしで校内で分析だよ。」

ノートを見せて、にっこりと笑うと、御幸は今度は外を見ながら「もう帰ったのか?」と呟く。「俺が校門まで送ったよ」と言いながら

御幸の傍までくると、御幸は気が付いたように渡辺を見た。

「何?ナベ。」

「あんまりひつこいと嫌われるよ?」

小さい声で呟くと、続けて「で、隠される。男は多少の余裕がないとね」と付け足した。御幸はぎくっとした感じで渡辺を見た。

「そんなもん?」「そんなもん。」良くご存じで、という顔をして、御幸は食堂には入らず、ウエイトでもするのか出て行った。

ポケットから携帯を取り出して、新しく届いたメッセージを見る。「俺だけはあいつの味方でいようと思う」クリスのメッセージだ。

渡辺は普段から異様に彼女を可愛がっていたクリスの姿を思い出した。確かにヘルプのメールをしたのは自分だったが、

きっとお前は悪くない、可愛い可愛いと連呼して慰めたに違いない。もしかしたら抱き締めるぐらいはしたかもな、と思う。

「でも、ま、いいか。」

御幸に酷い言葉を(結構、一方的っていうか。彼女は何も悪くないのに)言われて傷付いた彼女を慰めるには、度を越したクリスの日本人離れした

愛情表現が効果的だったに違いない。電気の灯るトレーニング室を見ながら、渡辺はクリスに近々嫌味を言われるであろう御幸を憐れんだ。


一方、御幸はウエイトをしながら、今日は朝1度だけ話をしただけだな、と今日の会話を思い出していた。真田の話を振ったので嫌な顔をしていた。

自分が「いじわる属性」なのは自覚しているが、あの顔は可愛かったな、とふと思う。思わずニヤついてしまったので、こほんと咳を1つする。

「ま、言っちまったもんは仕方ない。多少、あくどい方法でも渡したくない。」

プライベートなやり取りなどついぞした事もない関係だが、真田と違って、毎日傍にいられる。これは大きい要因のはずだ。


御幸は知らない、今週の土曜日に真田と約束している事を。


スカートかパンツか、悩んでいた。部屋に服を出して、鏡の前で組み合わせて悩んでいる。男の子と2人きりで出掛けた事はない。

野球部の1年生と出掛けることはあっても、ジャージ姿が、せいぜい制服だ。

「スカートだ。間違えてもジーンズなんかで行くなよ。ワンピースでも構わないが、やはりここはスカート1択だろう。」

キャッチャーって何でも分かるんだろうか、と携帯の画面を見ながら、何だかひやひやした。クリスからだ。

相談などしてもいないのに、洋服選びに困っているのを見透かすようなメッセージだ。スカート1択と言われればそれまでだ。

金曜日の夜、真田から「明日、楽しみにしてる」返事は難しい。仕方がないので「天気が良いといいですね」と返した。

著作者の他の作品

今日見た夢。こんなファンタジー要素、普段あまりないのですが…。家族構成も全...