恋する動詞111題・001~010

みもち(創作アカ)
@mimochi_sousaku

010. 惚れる:千石清純

「ね~、いいでしょ~」

部活上がりの俺の周りをうろちょろしながら、キミが可愛く甘えた声で言う。

「ヤーダ」

キミのことなど見向きもせずに真っ直ぐ部室へ向かいながら、俺は素っ気なく答える。

「いいじゃん~、ね、とりあえず一枚!」

首からぶら下げた大きなカメラを構えながら、キミはしつこく食い下がる。


女のコのお願いは、出来る限り叶えてあげたいんだけどさ。


「ね、ほら、ちょっとだけ、こっち向いてみてよ!」

「だーから、ヤ・ダ、って言ってるでしょ?」

「え~、なんでよ~」

小さく唇を尖らしてるキミをちらっと横目で窺って、俺はこっそり溜息を吐く。


だって、キミはテニスしてる俺にしか興味がないんだろ?


「惚れた!」なんて言われて舞い上がったのは、ほんの束の間のこと。

それからキミは、俺がテニスをしている姿がいかに素晴らしく見えたかを滔々と語り始め、普段とのギャップがまたいいのよねと分析し、そして最後に、「ちょっと写真撮らせてくれない?」と広報部の名刺を差し出してきたのだ。


いや、そもそも俺がテニス始めた理由の中には『モテたかったから』ってのも入ってるわけで。

それを考えれば、これはまさに俺の狙い通りではあるんだけども。


だけど、あまりにもキミがテニスしてる俺のことしか言わないから。

ちょっと、悔しくなっちゃったんだよね。

自分で自分に嫉妬とか、バカみたいだけどさ。


「も~…どうすれば『うん』って言ってくれるのかなぁ…」

悩ましげに呟くキミに、俺は心の中だけで答える。


そんなの。

キミが普段の俺にも「惚れた!」って言ってくれればいいだけなんだけどな。


部室の扉を開けて、半身を滑り込ませたところで、漸く俺は振り向いて、君を正面から見る。

油断してたキミが、あ!って顔してカメラを構えるより先に、

「ま、頑張ってればそのうち機会があるんじゃない?」

にっこり笑って、そして扉をパタンと閉める。

「……諦めないからねー!!!」

扉越しに響くキミの声に、俺はくすくす笑いながら少しだけ安堵する。


うん。

そうやって、キミがつきまとってくれてる間は、俺もイイトコ見せる為に頑張るからさ。


だから、普段の俺にも、しっかり惚れてよね。