無能と呼ばれた少年の英雄譚

[どくろん]~<[ジャパリパークの骸骨]
@DOKURON021524

#5 束の間の日常

─────遡ること数時間前。


 理事長は、キメラの騒動を止めるべく自らが所属する、日本が有する軍事機関「ブレイブパトリオッツコープス」(訳:勇敢な愛国者の軍団)へ赴いた。

彼は自分が愛する人類の為─いや、愛していたのは厳密には身内だけだが─に暗躍していた。


「攻めてくるのはもう少し先だと思っていたが……不味いな」


キメラ族の事を自分のことのように良く知っていた理事長は対策を講じる。

彼らの長、アダムは今封印されているはずだし、焦る必要もなかった。

だが何故?

いや、答えはわかっていた。

この世界には無能の器というのがあった。

人口の一%程にも満たない人数が能力を持たずして生まれる。

能力は一人一つののため、あとから付け加えることは不可能。

つまり、神がその無能の者を選別し、後から都合の良い能力を与える為だった。

アダムは祐介に自分にとって都合の悪い能力を付与されるのを恐れた、と考えるたのが理事長の答えだった。


「奴らしくもないな。 こんな事で慌てるなど」


アダムは全能ではないが、それに近しい能力だ。

だから慌てる必要などないと思うが……。

まぁ、全能に近しいからこそわかってしまうこともあるのだろう。

もしかしたら人間にアダムの封印を解こうとする手下かなにかがいるのかもしれない。

と、理事長は考えた。

軍事施設の中に自分が指揮する部隊の部屋の扉を開ける。


「理事長、大変な事になったな」


すこし腹が突き出た男がそう言いながら出迎えた。

旧友のアルストム・クルクセスだ。

見た目は悪役の貴族に見えてしまうが、仕事柄こうなってしまっているだけだった。

上層部になって動くことがなかった彼はぶくぶくと太っていた。


「アルス、記者会見を開くぞ。 世界が混乱しているからまとめないと不味いことになる」


理事長は境界支配能力でキメラからの干渉が出来ないようにしている。

だが、数が多いとどうしようもなくなってくる。

混乱も治めないと、やがては祐介達の都合が悪くなり、人類同士の戦いになってしまうだろう。


「人類同士が戦っている場合ではない。ここは先ず、一旦落ち着きを取り戻させないといけない」


「そうだな。 となると、『奴』を使うのか?」


「ああ、『奴』を使わないと説得力が無いからな。 この時ばかりは便利だ」


「相わかった。 では会場の準備を済ませよう。お前は文章でも考えておいてくれ」




◆◆◆




理事長は演説台に立っていた。

目の前はマスコミや生中継のカメラが所狭しと並んでいる。

理事長は一礼すると、フラッシュが一斉に炊かれる。

顔を覆いたくなるほどの光だったが、理事長は気にしているどころか、なんともないと言わんばかりに顔を上げる。


「皆さん。今日はお集まり頂き、ありがとうございます。 私は今日起きたテロの事で記者会見を開きました。 数時間前、キメラ族は私達に身勝手な口実を並べ、攻撃をして来ました。 奴らは二人の人間を差し出せと恐喝、現在に至ります。 今、私が能力でキメラが干渉出来ないようにしていますが、それも限界があります。 キメラ族は手強い。 傷付けても塞がる傷、魔法や環境に即座に適応する身体、自由自在に変身できる体質……ですが、そんな相手にも弱点がありました」


一間置くと、再び口を開いた。


「それが、我らの英雄、ソラマ様です!」


ソラマという顔に傷が入った紅眼─邪祓眼と呼ばれる眼─の男が、会場の扉を開けて入ってきた。


「私が、君達が英雄と讃える男、ソラマだ。この時代の人類とは『はじめまして』かな?」


会場がどよめいた。

何せソラマは百年も前の男だったのだ。

ソラマ様、ソラマ様という囁きが聞こえてきた。

ソラマは現人神と呼ばれる程に人々から讃えられ、何かあれば守ってくれる存在だと信じられていた。記者会見を見ていた者は自分達を守りに来てくれたと確信していた。

当然ソラマはそのつもりで来ていた。


「何故来たのかは君達の思っている通りだ。 そして私はキメラに対する対抗手段を持っている。 例のものを」


ソラマがそう言うと、理事長が空間から魔法陣で封印されたキメラが降ってきた。

会場がパニックになったが、ソラマの一喝で落ち着きを取り戻す。


「君達がそれではキメラに対抗できるものもできなくなってしまうぞっ!? 良く見ておけ。 これが私の力だ」


ソラマが腕を掲げると、傷がないのに血が滴り落ちた。

するとその血がまるで生きた蛇のようにキメラに突き刺さる。


「んぎぎぎ……がぁぁあああっ」


キメラは苦しみだすと、絶命したのか灰燼と化した。


「今あったように、私の血はキメラを絶命させることが出来る。これを利用、血を搭載した広範囲長距離ミサイルを大量生産し、これを一斉射。キメラを壊滅させる!」


「奴ら……キメラ共は私達人類を敵対視し、滅ぼさんとしている! それをみすみす許して良いのか? 否! 誰もが許さないだろう! だがキメラはとてつもなく強い。 だが安心せよ! 私が、この英雄たるこのソラマが! お前達人類を結束させ、勝利へと導こう!」


演説が人々を震え上がらせた。

自分達にはソラマが、英雄がいる。

神とも讃えられていた男の声で、人々はキメラと戦うことを決意した。

そして、結束させた。

それ程、ソラマの影響はとてつもなかった。


「以上で会見を終える」


ソラマは会見を終えると礼もせずに立ち去った。




◆◆◆




─祐介宅。

祐介はあれから、自宅にもどっていつもの様に起き、家族と朝食を済ませ、迎えに来たラミアと共に学校へと向かった。

今日は昨日あったことを忘れられるくらい清々しい青空だ。

今日の授業は興味の湧いた魔導書をただ読み耽るというものだ。

祐介は本を読むことは別に嫌いでなかったし、普通科目の授業よりこっちの方が好きだった。

何よりクラス外の者─ラミアやスカルとセリアだけだが─と一緒に行動出来るのだ。

祐介は魔法は使えないが魔法を学んで損は無い。

どれを読もうか、と図書館の本棚を眺めていると、

一冊の本が目に入った。


『知って得!聞いて得! 俺様の無限魔導書』


「なんだこのネーミングセンスのねぇ魔導書は……」


あまりの酷さにポロッと呟く。

すると、その本が一瞬動いたように見えた。

不思議がって睨み続けていたが、やはり動かない。


『おいテメェ! ネーミングセンスがねぇってどういう事だっ!?』


本が本棚からピョコっと飛び出してそう叫んだ。


「キャアアアッ喋ったァアアアア!!」


思わず声を上げてしまい、口を塞ぐ。

なんだこいつ。

祐介の最初の感想がそれだった。

フワフワと浮いたボロボロの本の背表紙に一つ目があった。

不気味ではあったが、口調のせいか、不思議と恐怖はない。


『すげぇ『力』の量を感じたと思ったらこの言われようかよ! 冗談じゃねぇ!』


「あ?力の量ってなんだよ?」


祐介は何のことなのかわからなかったために本に尋ねた。


『普通は魔力か気のどちらかが極端に高い筈なんだぞ! なんでお前は両方クソ高いんだよ! スキャンしてみたら何だよ!『測定不能』ってよ!両立出来ても百を五十で割ったような量しか無理なんだぞ!そう言うのはキメラしかできない芸当……あっ……』


そういえば今迄自分は気しか使えずにそれを増やす努力をしていた。

その気の量はとてつもなく、一日弾幕を張り続けても平気な程だった。

更にキメラに襲われてからは、何故か魔力が湧き出てきたのだ。

確かに結構な量があってもおかしくはない。


「でもなぁ、俺は魔法を唱えても不発なんだぜ?」


そう、魔力があっても不発なのだ。

呪いの話も聞いたことがない。


『あー、そりゃあ、お前はキメラだしなぁ』


本はぶっきらぼうに答える。


「は?キメラ? なんで?」


祐介はキョトンとしていた。

そんな話は知らない。

だが、アダムがなぜ祐介を連れてこいと言ったのかの理由としてキメラだったから今の内に手元に収めておきたい、という理由であれば納得できる。


『何でって、親がキメラだからだろ?』


普通に考えればそうなのだが、祐介は親がキメラであることにショックを受けていた。

キメラは人類と敵対しているし、しかも親がキメラなのだ。


「親が……キメラ?」


『なんだぁ? 親の種族も聞かされてないのか』


少し哀れんだリアクションをとる本。


「いや、俺は人間として育てられたし、周りの人間と同じ姿だったからてっきりそうなのかと」


それを聞くと本はため息を吐いた。


『あのなぁ、キメラってのは種族なんていくらでも誤魔化せるんだぜ? 個人の生体情報も完全にコピーするし、奴らに目をつけられたら細胞に干渉されて即死だ』



祐介はこの事を知らなかった。

今までキメラに触れる機会などなかったから何も知らなかったのだ。

そもそも人類そのものがキメラについて詳しく知るものはほとんどいない。


「じゃあ俺は奴らと同じことが?」


『あぁ、そうだ。 キメラは細胞のことであれば自分の都合のいいように改変できるからな。 まぁ、ただ一つ、知らなきゃいけないことがあるな』


「それは?」


『お前、一度たりとも魔法を使えたこと無かっただろ?』


祐介はギクッとした。

自分がコンプレックスとして抱いてた事を衝かれたからだ。


「あ、ああ。 さっきも言ったように……つ、使えないな」


『だろうな。 キメラはこの世界の魔法を使えるような体の仕組みじゃないからな』


「……というと?」


『オイラの『中』に魔法を使えるように唱えるそれが載っている。 キメラにしか読めない言語でな。 あと、普通の魔法も載ってるが、オイラを介して唱えれば通常魔法は使えるぞ。 ちっとばかしお前の『力』を頂くがな』


「図書館の本なんて持ってっていいのか?」


『オイラの本は読める奴がいないからそろそろ処分される所だ。 何かの縁だし、拾ってくれや』


祐介は心が高鳴った。

魔導書を通す事で魔法が使える。

これで魔法関係で不便をしなくてすみそうだと、心の中で高笑いした。


「わかったよ。 名前は?」


『マショ。そう呼んでくれや』


「よろしくマショ。 俺は二階堂 祐介だ」


祐介はドキドキしながらフワフワ浮いている本を両手に受け取った。

ズシリと重い。


「祐介? そんなところで何してるの?」


「ほぉうっ!?」


びっくりして変な声が出てしまった。

ラミアだった。


「あー。 またエッチな本でも読んでたんでしょー?」


「んなわけねぇだろ! 俺をなんだと─」


「いつも私の胸ばかり見てる変態幼馴染」


若干ジト目で祐介を見ながらそういうラミア。


「いッ!?」


図星だったのか何も言い返せない。

ラミアは不敵な笑みを浮かべていた。


『─ッ!──ッ!!』


マショは声を抑えて爆笑していた。

後で覚えとけよ、と祐介はふと思う。


「あれ? そのー、バタバタしてる魔導書は?」


ラミアに尋ねられ、先程のことを説明する祐介。

ラミアは何故か『かわいい』と言った。

マショはデレデレしている。

不気味な見た目のマショにかわいいは無いだろうが、と祐介はラミアにそんな感想を抱いた。


「かわいい、ねぇ……ラミアがそんな趣味を─いだだだだだっ!!」


ラミアは祐介の脇腹を抓った。

だが祐介が言った事についてラミアは一切何とも思っていない。

ただじゃれ合う口実を作ってそうしているだけだ。


「もう、私そんな趣味なんてないからね!」


一言添えるように言うと、自分の席に戻っていった。

祐介もそれについて行き、ラミアの向かいに座る。

ラミアは生活用の魔導書を読んでいた。

洗濯が早く乾く温熱魔法や、解れた糸を直す魔法等がある。

祐介は母親のユリもよくその魔法を使っているのを見ていたので良く知っていた。

長年付き合っていた祐介はラミアの家庭的な一面は何度か見ていた。

母親程ではないが、割と卒なくこなすほうだ。


祐介はふとそんなことを思い出しながらマショを広げ、中身を読む。


『祐介、てめぇが知る必要がある魔法のページはココだ』


パラパラとページが勝手にめくれ、あるページが開かれた。

だが殆ど横棒線─なのだが、祐介にはこう読めた。


『アナグラム魔法と真名魔法について』


と、記述されていた。


『アナグラム魔法を知る為には、まず真名魔法を知らなければならない。 真名魔法とは、その名の通り、魔法の『真の名』を詠唱する事でその魔法を支配、及び真価を発揮する。

その真名とは、アナグラム化された真名魔法の詠唱を正しく読む、ということである。

例えば火炎操作魔法である『アイファ』これを真の名で詠唱すると『ファイア』となる。

しかしこの唱え方が出来るのはこの文章を読むことの出来るキメラ族のみであり、詠唱しても他種族には『何を唱えているか分からない』状態になる。

これは真名魔法が強力すぎる上に負荷が高く、キメラでないと唱えられないためだ。

その代わり、キメラには代償としてアナグラム魔法を使うことが出来ない。

アナグラム魔法は空気中の魔力と体内の魔力を共に消費するが、真名魔法は詠唱者の魔力のみを消費するのだ』


「成程、キメラが魔法を唱えられないのは呪いとかじゃなく、世界の理だったのか……」


祐介はそう呟くと、ラミアが若干引き気味に話し掛けてくる。


「あんた……その文章読めるの……?」


「あぁ、キメラ族にしか読めないんだと」


「祐介、それって……」


キメラである事、魔法の事をラミアに話した。

ラミアは驚いてはいたが、決して祐介がキメラである事を嫌がったりはしなかった。


「そう……でもそれならアダムが祐介を狙うのも納得ね。じゃなきゃこんな馬鹿を狙うのはおかしいもの」


「一言余計だ。 でも、俺がキメラであることはどうも思わないのか?」


身内以外の学校の生徒達は、祐介を目の敵には─内心しているのかもしれないが─していなかったものの、どことなくよそよそしかったり、関わりを避けていた。

祐介はこの扱いは仕方ないと受け入れていた。


「はぁ? 何言ってるのよ。 祐介は祐介でしょ? 頭悪くて変態だけど、正義感は誰にも負けないのがあんたでしょ? そんな祐介が私達を裏切る訳ないじゃない」


二言余計な気がするが、祐介はラミアが自分を信頼してくれていることがとても嬉しかった。


「へへっ、そう言われると……ちょっと照れるな」


「頭悪くて変態って言われた所が?」


「んなわけねぇだろっ」


「フフッ……」


「フッ……」


(なんかいる場所間違えてるかな……オイラ……)


二人の雰囲気に自分が場違いなのをヒシヒシと感じ、二人の様子を伺う。


「祐介、ラミアと二人だなんて、相変わらずだね」


二人の雰囲気を気にもせず話しかけてきたのは体が炭素で出来た骸骨男─スカルだった。

スカルの彼女であるセリアも付き添っていた。


「スカル…とセリアか。 どうかしたのか?」


「えっとぉ、なんかキメラがどうとかって聞こえたから気になってきたの〜」


どうやらセリアに聞かれていたようだ。


「どの辺まで聞いてたんだ?」


祐介は少し警戒して尋ねた。

友人とは言え、セリアはまだ知り合ったばかりだ。

祐介を突き放す言動をするかも知れない。

少し、祐介はそれを恐がった。


「祐介がキメラって事と〜、マショって本があるって事ぐらいかな〜」


「殆どかよっ!」


「あ、別に気にしないよ? 人種差別はしちゃいけませんって教わったし、される人がかわいそう」


ほっ、と祐介は安堵の息を吐いた。

せっかく出来た友人がこんな事で離れていくのは嫌だった。


『くぅぅううっ! 熱い友情、泣かせるじゃねぇのっ!』


「うるせぇっ 焼き払うぞっ」


祐介はマショに威圧を掛けると、授業終了の鐘がなった……




◆◆◆




──ソラマ文武学院、修練場。

祐介達は次の「修練」という授業を受けていた。

修練では学校にある、亜空間で造られた修練場で行われている。

この亜空間はとてつもなく頑丈で、核でも何とも無い頑丈さを誇っていた。

その空間に、街中、学校、山林などの、環境が整えられていて、場を想定した、本格的な修練が可能となっている。

この授業の目的は、前の時間で得た知識を元に模擬戦や、試し撃ち等をして、新たな力を得る為だ。

祐介はマショを介して魔法の試し撃ちをしようと目論んでいた。

……勿論、真名魔法も使ってみようと目論んでいる。

ちょうどライリーがいたので、祐介はライリーに頼んで見てもらうことにした。

驚かせて二度と自分を馬鹿にできないようにさせてやりたかったのだ。


「で、祐介、撃てるようになったって魔法を早く見せてくれよ」


幸い、マショは持っているだけで効果を発揮してくれた。


「まぁ見とけよ……」


高威力爆発魔法『アブケーノボルレーション』


ヴン、という音と共に、誰もいない地面で爆発が轟音を轟かせたと共に一キロ削れた。

創造空間だからすぐに戻ったものの、アナグラム魔法だけでこれほどの威力。

ライリーは顎が外れんばかりに大口を開けて驚愕していた。


「お、おい、祐介……いつの間にそんな……」


祐介はこのことを隠すつもりはなかったので、マショのことを話した。


「まぁ、俺が魔法を撃てたのはこいつのお陰なんだ」


祐介はマショを取り出して見せる。


「祐介……お前やばいよ……なんで悪魔の書なんて……」


ライリーは青ざめた顔をすると後退りした。

そんなにとんでもない代物なのだろうか、と祐介は不思議がった。

確かに喋るし背表紙に単眼があるが、それと言って悪い要素はない。


「祐介、そいつは人の魔力を常に奪って生きてるんだぞ? 良いのか?」


「いやまぁ、別にお互いに利害一致してるし別にそれぐらい良いかなって」


ライリーは青ざめた顔を浮かべて心配したように納得─はしてないのだろうが─すると、その場を立ち去った。


祐介はこれで馬鹿にされることはないだろうと、確信した。




◆◆◆




ラミアたちの元へ戻ると、ラミアは中に浮かべた小さな穴の空いたオブジェクトに液体を穴の空いた場所に穿つように何度も当てていた。


「ラミア、何やってるんだ?」


「あぁ、祐介っ。 この通りっ、能力コントロールの練習よっ」


ラミアがそう言うと、スカルが補足するように説明し始めた。


「さっきはあんなこと出来なかったんだけど、流石才女。 たった数分であんな上達するなんてね」


よくわからなかった祐介だったが、やっぱりラミアはすごいのかと少し感心した。


「あれ、そう言えばセリアはどうしたんだ?」


祐介はセリアがいないことに気がつき、スカルに尋ねると、別の友達と修練を行っているようだ。


「やぁ、君達。 修練はどうだね?」


祐介が知っている声に振り向くと、理事長がいた。

唐突に現れたのは空間能力を使ってワープしてきたのだろう。

祐介は少しギョッとしたが、理事長がなぜ来たのかが気になってそれはすぐになくなった。


「俺は魔導書を介せば魔法を打てるようになりました。ラミアは能力のコントロールが上達したみたいです」


「ほう。 それはよかった。 では祐介、私と手合わせしないかね?」


祐介がそれを聞いて戸惑っていると、理事長は祐介が能力のことを考慮していたのを察した。


「安心したまえ、能力は使わないよ。私は近接攻撃だけで相手をしよう」


「わ、分かりました」


理事長は異空間に手を突っ込むと、そこから竹刀を二振り取り出して、祐介に渡した。

そして祐介との距離をとる。


「さぁ、来なさい」


その声と共に祐介が地面を蹴る。

気の力で推進力を増加させ、理事長に突進した。

この技術は「縮地」と呼ばれるものだ。

気をある程度コントロール出来るようになるとこの芸当が可能となる。

その速さは瞬間的に百h/kmを超える。

土煙が舞い、ジグザグに動く祐介の姿がブレる。


「成程。縮地は流石に使いこなせてるようだね。だが……遅いっ!」


理事長は祐介が来るであろう背後に竹刀を振り下ろす。

ガツっと竹刀同士がぶつかる音がした。

祐介は理事長の竹刀を受け流し、その状態から横一文字に竹刀を振るう。

理事長はそれをバックステップで躱し、構えを取る。


───空式伍ノ型 "天流乱星"


ソラマが使っていたとされる剣術を理事長が放った。

いくつもあるうちの五番目の剣術で、刀を高速で突くことで残像を作り、回避を困難にさせるた上で連続攻撃を行うことを是としている。

祐介も空式剣術を体得していたからこそわかっていた事だった。

無論、対処法も分かっていた。

祐介は縮地で距離を取る。


───連投式 真空刃


祐介が竹刀を理事長に向かって振るうと、いくつもの斬撃となった気の塊が理事長に襲いかかる。

祐介はそれを追いかけるように理事長に向かって斬撃に隠れるように縮地を行う。

理事長は剣術を止めそのまま淡々と斬撃を叩き伏せ、祐介はさらに技を発動させた。


─── 一刀連閃


理事長に技を止めさせることに成功した祐介は、理事長に竹刀を叩きつけようとするが躱される。

しかし祐介は慌てずに技を続行すると、四方八方から絶え間なく斬撃となった気の塊が理事長に襲い掛かる。


「むっ……これ程とは……」


理事長は躱し切れず、全ての斬撃が理事長に直撃する──ように見えた。


「つぇあっ!!!」


理事長は身体から衝撃波を発すると、斬撃を全て消し飛ばした。

祐介ももろにくらって吹き飛ばされ、大きなダメージを受ける。


「ッがぁっ……いってぇ……」


「……宗介から聞いていたよりだいぶ強いじゃないか」


「そう……ですかね?」


祐介に実感は無かった。

立ち上がりつつ、どこで強くなったのかなぁと思い出そうとした瞬間、身体がむず痒くなる。

いや、何かが這いずり回るような感覚だった。

ぶるっと身体を震わせると、理事長がそれに反応した。


「ふむ。 やはり目覚め始めていたか」


祐介は理事長が何に対して言っているのかは概ね察することが出来た。


「…キメラの事ですか?」


祐介が恐る恐る理事長に訊ねると、


「ほう? 気付いていたのか?」


と、理事長にそう言われ、祐介はマショを呼んだ。


『どうした祐介…って、理事長の旦那じゃないか』


「成程、マショから教わったのか」


「祐介、マショの知識と能力は必ず君の力となるだろう。 肌身離さず持っていなさい」


「は、はい……」


理事長はそう言うと空間転移をし、その場から去っていった。


その後、祐介達は己の修練に勤しんだ。

祐介は真名魔法の試し撃ち。

結果は初段魔法で三段階目に匹敵する威力だった。

それにかなり魔力も持っていかれ、当の本人は平気だったが、何故キメラ以外が使えないかが納得できたと同時に、やはり自分はキメラなのかと、自分の生まれを呪った。


ラミアはコントロールが上達し、ワイヤーのような細さでありながら金属を貫通するほどの威力を持った液体のコントロールに成功。


スカルは以前より操れる炭素の量が増えたことにより、

地中の炭素をかき集め、一気に地中から炭素の針を地上へ突き出す『カーボンズニードル』の技能を取得した。


セリアは特に収穫はなかったようだった。


修練の授業が終わり、生徒は昼食を取るべく一斉に修練場から外に出た。

しかし、そこにいつもの学校の形はなかった……